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金持ちの御子息は無能すぎて村から出されたみたいです。  作者: 勿忘 碧
第1章 とりあえず金は全てを救う
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 《episode 1》さっさと無能を外に出す by村長

僕はこの村の王の息子。つまり王子。

皆が敬意の目で僕を見つめ沢山の物を献上する。

悪くはない生活。


朝起きて服を着せられ朝食を取り

学問(眠い)剣術(痛い)音楽(煩い)を習い

昼食を取り

読書(眠い)ダンス(痛い)書類(多い)をこなし

夕食を取りお風呂に入りベッドで寝る。


こんなことを繰り返す毎日に疑問はないが楽しいとは言えない。


王になったら今より楽しいのかもしれない。

父上はいつも城にはいないし外で楽しいことでもしているのであろう。


あるいは王子などやめてしまえば......。



「......どうして......どうして僕がこんな目に......

 じぃやぁあああああああ」


 僕は目の前のでっかい怪物相手に泣きそうになった。


 こんなことになったのは全部この剣がいけないのだ、僕の日常を返してくれ!


 〈遡る事1週間前〉


 今日の朝食は村から買い占めた良い卵をふんだんに使った卵かけかけご飯と卵焼きと目玉焼き。


 先週はパンだったが、今週はどうしても卵が食べたい気分なのだ。


 優雅な朝食を半分ほど食べ終えた頃、ドアが勢いよく開け放たれた。


「あぁ王子様!我が村にもついに勇者様を見つける岩が発見され―――」


「じぃや」


「はい、お坊ちゃま」


「つまみだせ」


 さて、朝食の続きをとろう。


「王子様!!!話だけでも聞いてくださいませ!!!」


 扉の外ではけたたましく村の男が喚いている。


「才色兼備な王子様にしか頼むことのできないお話なのです!」


「通せ、話だけは聞いてやろう」


 僕にしかできないことなどこの世には腐るほどあるだろう。

 僕は生まれも高貴、育ちも高貴、おまけに眉目秀麗ときている。


 それをわかった上の頼み事であればまぁ村人を管理する王の息子として聞いてやらんことはないな。


「簡潔に話せ」


「はっ。

 先日洞窟に野草を採りに行ったものが見つけた岩に剣が刺さっておりました。

 その剣は村人は男女関わらず誰も抜けず、村人よりも体力のある役人に頼んでも抜けないのです。

 そう、見た目は非力な娘ですら抜けそうな様相でありましたがそれとは裏腹に全く抜けないのです。

 また村の中で1番の賢者が抜こうとしても抜けないのです。

 はてはてさらに村の中で__ 」


「長い、飽きた、つまみ出せ」


 結局何が言いたいのか全くわからない。

 あの村人は何しに僕の元に来たのだろうか。


「王子様!!もう一度だけ話を聞いていただけませんか!!

 1分だけでも!!!」


「......本当に1分でまとめるのだぞ」


「はっ。

 要するに抜けない剣は勇者様選定のための剣でして、それに相応しいのは王子様、貴方様しかいないということです」


「はははっ。

 笑わせるな、僕は王子であり勇者ではない。

 帰れ」


「いいえ、貴方様は王子様よりも尊ばれる勇者様でございます」


「な、なんだと......」


 衝撃だ、僕は王子ではなく更なる高貴な者であったのか......。

 合点がいきすぎる。そうだ。

 王子はとにかく退屈すぎた。最近は好きな食べ物を週替わりで食べるくらいしか楽しみがなかった。

 それは僕にとって王子は役不足であったためなのか。


「そこまでいうなら仕方ない。

 その勇者選定の剣とやら、抜いてしんぜよう」


「ありがたき幸せ!」


「よろしい、僕を案内したまえ」


 そうして城から馬で村人について行くこと数分、岩にまっすぐ刺さった剣が見えてきた。


「あちらです、王子様。

 皆の者!王子様がいらしたぞ!!どきなされ!」


 村人が声をかけると剣に群がっていた人々がぞろぞろと道を開けた。

 そして僕を期待の眼差しで見ている。


「うむ、村人の期待に応えるのも王子としての役目。

 この剣を抜いてやろう」


 華麗に馬から降り、剣へ近づく。


「お願いします王子様!」


 誰も彼も僕の手元に集中し息を呑む緊迫した雰囲気。


 そんな中僕は剣の柄を握った瞬間に気付いた。

 これは僕に抜かれるべくして現れた剣だと。

 そして僕は......勇者になる男だ!


 力を込めた瞬間スルッと剣は抜け、


「剣が、抜けた!!!」

「素晴らしい!」

「勇者様の誕生だ!」

「やはり王の御子息!」


 様々な賞賛が僕に注がれた。

 悪い気はしない。

 城にいた時ですらこのような言葉を聞く機会はなかった。


 やはり勇者の方が向いている、そう感じた。


「それでは王子改め勇者様。

 さっそくですがこちらを持ってあの山の向こうの魔物を討伐に行ってくださいませ」


「なぜだ?」


「勇者様とは村を守り怪物を倒すことで更なる名声を得るお方。

 勇者様、もっと名声が欲しいとは思いませんか?」


 なるほど、今以上に僕は名声を手に入れられるのか。


「うむ、そうとなれば仕方ない。

 その魔物とやら討伐しにいこうではないか」


 村人から剣にちょうど良い鞘をもらい、夜は風邪を引かぬようにとこの村で1番仕立てのいいローブを羽織った。

 1週間分の簡易食料を受け取り、父上からもらっていたが使わなかったありったけの金貨を馬にくくりつけ準備は整った。


「では行って参る。

 留守は頼んだぞ」


「行ってらっしゃいませ!」

「ご帰還をお待ちしております」

「お気をつけて!」


 皆の声援を後ろに馬とともに旅立った。

 こうして僕は、僕の平凡で安全な生活を手放したことに気づかず勇者となってしまった。


 ***


「......行きましたか?」


「......行きましたね」


「「「「やったーー!!!!!」」」」


 村人はみんなで手を取り合い喜んだ。


「あの方さえいなければ我らの食糧難も解消され平穏な日々が返ってくる!」


「村長、本当にありがとうございます!」


 先程まで王子に向けられていた眼差しは今や村長へと向けられていた。

 なぜならこの男こそ、今回の“嘘“の企画立案者。


「皆の者の演技が上手かったからこそ王子を手のひらで転がせたんじゃ。

 さて、今日は宴といこうぞ」


 こうして村は三日三晩楽しい宴を開き平和な暮らしを取り戻した。


 めでたしめでたし。


 ***


「......食事がまずい。帰りたい」


 一方、もう二度と村に帰ってくることを望まれていない稀有な勇者はすでに弱音を吐いていた。


「今日はもう寝て明日に備えよう」


 明日からポンコツ王子こと勇者の旅が始まるそうだ。

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