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いつかまた会える日まで  作者: かんな
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08 聖堂

 王都の中心にある王城から南東のにある旧市街地の一角にサン・レモ商会がある。


 20年前、サン・レモ男爵は終戦を迎えると早々に爵位を返上し、サン・レモ商会を立ち上げ、貿易によって国の復興に貢献した。帝国の属国になったことで西と南との貿易が近くなると見越しての動きだったという。


 資源豊富な南方のジャルーガからは復興に必要な天然資源と原材料を、文化的に進歩的な西方のシンからは復興を機に最先端の科学技術と文化を意識して取り入れるようにした。


 確実な成功を積み重ね、今ではかつての旧市街地の半分はサン・レモ商会の所有物だとも噂されているほどに発展した。


 また終戦とともにそれまでの社会構造が帝国の流儀に合う様に変遷された。平民の地位が向上し、貴族はそれまでの既得権益などが削られていった。


 郊外はともかく都市部の様相は大きく変わった。衰退しつつあった貴族の多くは都市部を離れ領地に住まうようになり、変わって裕福な平民が都市部を支配するようになった。


 サン・レモ元男爵は時流を読むのに長けていたと言える。


 カーチャが穴蔵としている行きつけのクラブも元は貴族の居住区に立地していた大きな教会を改装したもので今ではサン・レモ商会の所有物だ。貴族の都市部離れが進んだ所にサン・レモ商会が入り込んでいった。


 荘厳に聳え立つ聖堂は今や退廃的な緑にライトアップされ、信者ではなく街の若者たちが音楽と踊りを求めて集う場所に変わっていた。


 観音扉を先頭に長蛇の列をなして軽く30人はいるようだ。緑色のネオンサインが観音開きの扉の上から煌々と路面を照らして緑の光の渦に人の影を行くつも照らし出している。


 入り口を守る黒服が二人、確認しながら入場をさせていく。基本的に武器の類と薬物の類を持ち歩いていないかの荷物検査だ。


 人を通すために僅かに扉を開けた瞬間の爆音と、中の匂いが漏れてくる。人の汗と煙と夜の香り。音楽と入り混じって期待感で胸が高鳴る。カーチャはこの瞬間が堪らなく好きだ。


 爆音を聴くと浮き足立つ。長い列を横目に最後尾についた途端、遠くで列を監視していたシャナに見つかった。


「ディアナっ!水くさいっ!前も直接ドアにきて、って言ったじゃん」


 高めの甘い感じの可愛らしい声で嗜められる。ドア係のシャナだ。オレンジのクルクル巻毛をふわふわさせながら小走りで寄ってくる。


「いや、待ってる人たちいるし、なんか申し訳ないな、って」カーチャは建物から繋がっている長蛇の列をみやる。


 うん。無駄に恨まれたく無いし。


「ディアナ、あんたと私の仲じゃん!もう、そういう遠慮いらないし。ほら」右腕をキュッと掴まれ列から引き出される。


「カーチャはうちの上客なんだから遠慮しない」耳元でこっそりと囁く。そう、シャナは実はサン・レモ元男爵の娘だからだ。


 仕方なくディアナは目を前に据えて周りの視線を気にしないようにしながらシャナに導かれ扉の前までくる。扉が開かれると瞬間に別世界に引き込まれる。


「んじゃ、楽しんでね!私はもう少しお仕事してから入るから。それまでいい子にしてて、ディアナ」シャナがニヤッと笑う。シャナは実はカーチャと同じ年だがもう10歳にもなる子供がいる。


 気づくとカーチャはいつもシャナの言いなりになっている。母親だからこそなせる技なのか。同い年ながら昔からシャナはカーチャのお姉さんだ。


「また後でね」満面の笑顔でカーチャが返事すると満足そうにシャナは扉をしめた。


 中は爆音とスモークと光が渦を巻きながらフロアで何百人もの若者たちが体を動かしている。


 かつては祭壇があった一段高くなっている正面のステージには今日のDJが真剣な顔をしてうねりを作り出していく。そしてフロアの周りにはカウンターがぐるりと回らされ、休息できるスペースの一帯になっている。さらに左手奥の壁際には大きなバーカウンターが設置されていた。


「まずは場所取りかな」と独り言を言うと途端に後ろから声をかけられる。


「ディアナ」


 聞き覚えのある声。そう。何年もの腐れ縁。聴き間違えるはずがない。そして最近の悩みの種である。


 ーーサルトナ・ヴィンストリ

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