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いつかまた会える日まで  作者: かんな
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06 社交界デビュー(アルフォンス視点)

 カーチャの社交界デビューの時に初めて自分との歳の差を意識し、焦り、呪った。


 僕が社交界デビューするまではあと4年もある。こればかりは貴族間での決まり事であるから曲げる事が出来ない。当然カーチャのエスコートも成人男性である。


 美しく着飾るであろうカーチャのエスコートになれないことが悔しくて、また自分以外のために着飾るのかと思うとなんとも言えないドロドロとした気持ちに蝕まれた。今まで隠されていたカーチャの美貌も周知されてしまうのかと思うと嫉妬心が湧いてくる。嫉妬というものはこうも苦しいものなのかと初めて認識した瞬間でもあった。


 社交界デビューは毎年6月に王城の大広間のボールルームで行われる。幸い夏休みに入っているためタムスンに会いに行くのにかこつけてカーチャの様子を偵察しにいった。


「アルは僕に会うという名目で実のところねえさまの晴れ姿を見たくて遊びに来たんでしょ」


 タムスンの瞳の光が楽しげに踊った。図星を当てられ熱が頬に上がる。


「アルは分かりやすいよね。そこがまたいいんだけど」


 玄関の外が次第に賑やかになる。王城行きの馬車の用意が出来たらしい。伯爵家から寄越されたカーチャのエスコートの到着だ。メイドが階段を上りカーチャを呼びにいく。


 見たいけど見たくない、葛藤が生まれる。知らないうちに歯を食いしばって拳を握っていたらしい。


「アル………力み過ぎ」耳元でこっそりとタムスンに声をかけられて初めて拳が白む程に右手を握りしめていた事に気づく。「顔、険しすぎるから」


 ハッとする。玄関の扉を睨み付けていた。そこまで悔しかったのかと気づかされてまた新たな悔しさが湧いてくる。


 ガチャリ。


 音を立ててゆっくりと扉が開いた。


 外で待機していた執事に続いて、長身な青年が颯爽と入ってきた。トップハットを片腕に抱え、ホワイトタイにフロックコートをスマートに着こなしていた。


 短い黒髪を後ろに撫でつけ、夏の青空のような深みのある青い瞳が二人をとらえた。玄関で直立していた二人を目視し、執事は紹介を始める。


「こちらは本日カーチャ嬢をエスコートしてくださるサルトナ=ヴィンストリ氏であらせられます」

 サルトナ=ヴィンストリが軽く会釈をする。


 ヴィンストリ伯爵家のものか。婚約者がいたが数年前か、流行病で死別したと噂になっていた。


「そしてこちらがカーチャ嬢の弟君にあたるタムスン=ペルーナ氏、そのご友人のアルフォンス=デヴロー氏であらせられます」二人も同時に会釈をする。


「本日は姉上のエスコートをいただき至極感謝しております。何分不慣れな身ゆえ、ご迷惑をおかけするとは存じますが何卒よろしくお願い致します」


 何せカーチャは曰く付きの令嬢である。ペルーナ伯爵もエスコート探しには苦労したに違いない。それでも地位同等の伯爵家からエスコートを見つけてくるあたりペルーナ卿もまだまだ政治力があるのかもしれない。


「ああ、カーチャの弟君か。初めてお目にかかる。いや、カーチャとは王立学院大学でも同級で見知った仲な上、父が懇意にしているペルーナ伯爵からの願いとあって無碍にもできず…」


 なんかそこまで聞いてムカついた。要は断る選択肢がないから仕方なく来たのだと聞こえる。できるものであれば自分が喜んでしたものを。なるべく表情には出すまい、落ち着け、と頭の中で何回も念じる。


 そこでサルトナはしげしげと二人を眺めた。そして思い出したように「ああ!」と言った。


「君たちは中等部で有名だった『双頭の金鷲』だな?数々の武勇伝は高等部にまで聞こえていたよ。相当な使い手で将来が楽しみだと教授陣が湧いていた。」

「ありがとうございます」タムスンはいつもの柔和な笑顔を浮かべ会釈も交えながら丁寧にお礼を述べた。


 その時、背にしていた階段の上からたたた、っと急いで降りてくる足音が聞こえた。心臓が一瞬跳ねる。今日の主役の登場だ。

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