星に願いを
コチ コチ コチ コチ
時計の針の機械的な音だけが、無機質で薄暗い部屋に響いている。暗闇の隅に独りの少年が立ち尽くし、暦を険しい顔で見つめている。
少年の瞳は死んだ魚のように曇っていて、どこか遠くを見ているようで、それでいて何も写ってはいないようだ。
コチ コチ コチ コチ
そこは都会の住宅街の中でも一際目立つ豪邸であったが、少年が独りで棲むにはあまりに広く、近所の子供達からは幽霊屋敷として怖れられるほどに人気が無かった。
コチ コチ コチ コチ
少年は暦に赤でバツ印をつけどうやら落胆しているように俯いていた。よく見ると彼は全身水浸しで、着替えもしていなかった。暦は今日が7月6日であることを示していた。
コチ コチ コチ コチ
そして時計の針は、今が23時55分であることを指していた。さて、0時の鐘が鳴る前にそろそろ彼に話しかけてみることとしよう。そう、何を隠そう私はこの日彼に会うために地上に降りたのだから。
「なあ、さっきから何を落ち込んでいるんだ」
少年は暦を見つめたまま
「ああ、それは俺が☓☓するのにまた失敗したからさ」
と応えた。
「私は今宵お前の願いを叶えに来たのだが、たしかお前の願いは星になりたいであったと記憶しているのだが」
何を言って、そう言い返そうとしてようやく少年は私の存在に気がついた。
「だ、だだだだ、誰だお前は」
「慌てるな、私はお前たちの世界でいう天の神だ」
「天の神?いったい何を言って」
そう言って震えながら少年は私を視界に捉えようとするが、光に包まれた私の姿を、人の子が見ることはかなわない。
ゴーーン ゴーーン ゴーーン
0時を告げる鐘の音に少年の震える声はかき消された。
「まあよい、今はお前を願いを叶える前に、お前をある場所へと誘おう」
眩い光は徐々に大きくなり少年を包み込んだ。
「恐れることはない、さあ目を閉じるがよい。次に目を開けるときお前は…」
最後の言葉を聞くより早く、少年は意識を失った。
7月7日星祭りのその日、独りの少年がこの世界から消えた。