おとつー作戦会議 その一
グダグダ書いてますが、ごめんなさい。
お付き合いできる人、増えるといいです。
ビアンカです。
あの後、マルグリット様の身の上話を伺いました。
「父は、私を放任した罪滅ぼしのつもりで婿取りを急いで、ローラン家の話に飛び乗ったのだと思います。……家の切り盛りは自分が父から継ぐつもりで学んでいますし、私自身は結婚できなくとも伯爵領を困らせるつもりはありません。
父はそれは理解しているのでしょうが、女は添い遂げてこそ幸せだと思い込んでいるので。
でも、案の定、コール様は私では不満なのです。私と絆を結ぶつもりはないと判じました。
これはもしや白い結婚になるかもしれない。爵位と王都の館をコール様が持ち、私は領地に籠る事になるかもしれない。
そして、コール様が本当に添い遂げたいご婦人と子供を成して、爵位を譲るかもしれない。
そうやって、私は、家のために結婚しても、一族の血が一滴も入らない者に爵名を奪われたマルグリット直系一族最後の者になるかもしれません」
そんな風に理路整然と語る三年生に、若干引きますが、言わんとする事は明瞭です。
早い話が思ったよりローランがクズという事ですよね。
「ねえ」
キャロラインが、
「いっそ、やめたら?結婚。
なんか、いい事一つもないように聞こえるの」
マルグリット様は、すかさず、
「今更破棄したら、瑕疵のある私に婿となる方なんて望めません」
「結んだのは数日前ですよね。だったらさっさと」
「既に周知されてます。乙女通信で」
これには、三名とも、ぐっとつまるしかありませんでした。要はなかった事にしようとしても、私たちのせいで無理という訳です。
「それに」
と、淡々と彼女は続けます。
「私だって、夫となる人がいるのだと、結婚できるのだと思うと、その事実は心が華やぐのです。
ましてや、一生独身で養子をもらうのと、義務としてコール様と結ばれて子をなす事がある可能性とを比べれば、家にとってもどちらが良いか明快です」
ローランが義務を果たして、後継さえもうければ、それで十分だと言うのですね。
「まどろっこしいなあー」
ザビーネが相変わらずのくだけた口調で受けます。この子これで人前では猫をかぶって使い分けるのですから、ある意味立派です。
「つまりは、ローランと添い遂げたいのね?」
「……はい」
「だったら、ローランに貴女の価値を認めさせる事よ」
「価値……」
キャロラインが賛同します。
「そうよね。マルグリット様はまだ幼いからローランもちゃんと向き合ってないもの。これからよ」
「……私の外面に価値など」
「駄目ですよ、そんな事言ってると、心まで価値がなくなるから」
キャロラインが侃します。
「今日初めてのお付き合いですが、少々マルグリット様は見た目に対して卑屈におなりだわ。そんなに素敵な瞳を持っていて、かえって人は嫌味に感じますわ。ご自分が思うほど人は感じてないものですわよ?」
「キャリー」
私が間に入ります。
キャロラインは声は穏やかでも中身が正論すぎて、賢いマルグリット様にとっては反論できずに下を向くしかなくなります。
この口調で泣かせたんでしょうね。
「マルグリット様だって、初めからこんな風にはお考えではなかったと思うの。学園で同じ制服同じ年頃でひとまとめになると、気になる事ってあるじゃない?」
「そうそう!
身分、出自、見た目、学業、外ヅラ、流行、相手に合わせるコミュニケーション能力、世渡り、そういったものが絡み合う!それが学校!」
ザビーネが参画します。
「スクールカースト!
マウンティング!
爽やかイケメン、スポーツキャプテン!
可愛系女子!綺麗目女子!
カースト底辺と中間モブは、ずっとテッペンには逆らえない!
……そんな社会に私たちは高等部を含めれば九年間もいなきゃいけないのよ?ほーんと、やってらんないわよ!」
ザビーネ。
名前の通りの黒髪黒目、異国風の美人がする啖呵じゃないですわよ。
まあ、そのカーストやらのテッペンゾーンに位置するキャロラインには耳が痛いかもしれないですわね。
私?
ザビーネ好みの美少女ですが平民です。でも、何せ情報通ですからね。カーストやらのどこであろうと渡り合っておりますわ。
「私……王都に来るまで、親交のあるお家がなくって。女の子が何を好むのかも知らないし。社交が出来なくて……人といるより本といたほうが楽で。知識は裏切らないし、駆け引きもいらないし…」
マルグリット様が両手を握って語ります。お辛い事あったんですよね……
「残酷ですからね、特に一年生の頃って。男の子は虚勢はって、残酷な事平気で言うし。女の子は自分を守るために、仲良しを作ってその中に居ない人を蔑めるし。
何とか自分の立ち位置作るのに必死ですから。純朴にお育ちになって、びっくりする事沢山あったのですよね」
「いえ、そんな。そのうち私諦めてしまいました。人に受け入れてもらわなくっても、勉強に差し障りはないって」
「でも、今、差し障るの。コール・ローランには受け入れさせなくっちゃ」
「………」
ど正論だけど、言い方!
「ねえねえ!私たちがいるじゃない!」
斜め上のザビーネが再び、です。
「今夜、私たち3人は、マルグリット様の事理解したわ!そして、確実に、私好みのメガネっ子に自立する事も確信が持てたわ!
まずは、マルグリット様を目立たせましょう。見た目がご自分でも嫌なら、いくらでもプロデュースするわ!それに、私たちが友達なら、公爵お取り巻きにも対抗できる!
少なくとも、私は、マルグリット様ともっともっと親しくなりたい!」
おお、ザビーネの暴投も結果オーライな事があるのですね。
「私も、マルグリット様と親しくなりたいわ。平民で四年生だけど、宜しいかしら?ビアンカと呼んでくださいな」
「私もよ。私、妹が居なくて、先ほどからマルグリット様が、妹みたいで可愛くて…是非、キャリーって呼んで!」
「ザビーネ!呼び捨てにしてよね!」
三人力技の強気です。マルグリット様は、程なくにっこり微笑んで
「私も、シャロンと。お姉様が三人もできて嬉しいです」
と、受け止めました。
こうして、シャロンは私たち乙女通信の三人娘との絆が出来たのです。
それは、
私たちにとっても、これからの人生に関わる分岐点だったのです。
キャロライン達の夜はまだ続きます