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キャロラインのお部屋で  メガネっ子って何?

えぐえぐ泣くシャロンに

「お菓子!お菓子はいかがかしらっ?そうそう、これにあう紅茶を入れましょうか!あっ、砂糖漬けのスミレもあったはず!」


と、あせあせ構うキャロラインだが、余程我慢をしていた様で、しゃくり上げが止まらない。


「そーだ!乙女通信の過去号なんてどうかしらっ!」

「お嬢様」


マリーがシャロンにおかわりタオルを渡しながら、キャロラインを止めた。


「泣きたいから泣いているのです。こう言う時は身体が収まるまで、泣く方がスッキリするのです」

「そ、そうなの?」

「そうですよ……御可哀想に、泣いて済ませる事も思い出さずにいらしたんでしょうねえ……」


シャロンの眼鏡をそっと外させて、マリーはシャロンのうなじを蒸しタオルで優しく拭く。

精一杯のエネルギーで泣いているのだ。汗もかくだろう。


「お嬢様は、ご自分がお好きですから、ご自分を反省したり褒めたりなさいますでしょ?」

「……まあ、ね」

「世の中には、ご自分が嫌いで嫌いで、人様にも甘えられなくて、気持ちを殺してご自分を守る人もいるんです」


(マルグリット様は……)

「このお嬢様がそうだとは申しませんよ。ですが、余り怒りを外に出したり悲しみを人に伝えたりなさらないのでしょう。泣き方をお忘れになって、程というものが分からなくなっていらっしゃるのです」


「マリー」

「ですから、お嬢様に出来ることは、この方のお宅に、

今日はこちらで預かるとご連絡なさる事でございましょう」


マリーはにっこりと微笑んで可愛い主を促した。


「わ、分かったわ。

……ありがとうマリー」

キャロラインはぴょんと立ち上がって、階下に急いだ。






「ごめ、いわくを 

 おかけしました………」

しょぼしょぼした目元を真っ赤に腫らし、それより更に頰を赤らめて、タオルをとうもろこしをかじっているように持って当てているシャロン。まだ、口元からは嗚咽が出て来そうだ。


「大丈夫!お家には使いを出したから。ロイさん、だっけ?お着替えを持たせて下さったわ」


キャロラインの書斎の窓からは夕陽がもう姿を消そうとしている。空は菫色が濃くなって来た。


寮は、戸建ての集合住宅といったあつらえで、バスルームや簡易キッチン、メイドルーム、書斎兼応接室、主寝室とゲストルーム、バルコニーが備わっている。


「スッキリされましたか?」

マリーがサンドイッチを数種類、小さく切って並べてくれる。


「はい。……マリーさん、ありがとうございました。泣くって空っぽになるんですね」

「そうでございましょう。容れ物には限りがございます。たまに吐き出して綺麗にいたしましょうね」


マリーがニコニコとテーブルを美味しそうなもので一杯にしていると、

「キャリーっ!夕食も取らないで、ど!」

言葉とノックと同時に黒髪の少女が突入して来た。


「ど、ど、ど?」

「…」

「ザビーネ」






ザビーネが見たのは、いつもの椅子に座っているキャロラインと、つつましやかに立っているけれど、実は不審者に即対応できるよう手刀をスタンバイしている侍女のマリーと、


「……何、この、…うわ」


いつもザビーネやビアンカが座るカウチにちょこんといる、女の子。


小さくて、痩せてる女の子。

赤茶っぽい金髪を編み込んでお団子にして、色白の小さな顔に巻いたタオルを両手で押さえて

その手のひらが隠れるくらいのダボダボの筒袖


泣きはらした目は薄くしか開いてないけど、

まつ毛が長くて、本来は大きな瞳であることを示す幅で……

そしてそして

テーブルの上には、



「……眼鏡っ子?

やだっ!萌え袖、お団子!ズギュンだわっ!か、可愛い!カワイイーっ!」


にぎにぎした拳をフルフルさせて身をよじるザビーネである。


(か、可愛い?)


新たな局面に対応できないシャロン。はあ、と短いため息のキャロライン。ニコニコした表情だが、こめかみがひくひくしているマリー。


ザビーネはくねくね捩っていた身体をくううーっと屈めてから、がばっと跳ね起き

「貴女!ツボ!私のど真ん中!

あーっ、萌えるわあー!もう全身がカワイイっ!」


「ザビーネ……」


「いやーん、メガネかけてみて!いや!これじゃない、そうだ!私の部屋に度無しがあるの!持ってくるから待っててっ!」


そう言ってザビーネとやらは踵を返して弾丸退出した。


「あ、あの」

「ごめんなさい。あの娘、ちょっと訳ありで。常識に欠けると言うか超えていると言うか…ザビーネも乙女通信の1人なの」


ああ、変人なのか。

価値観が違う人なのか。

だから私を可愛いなんて。


「申し訳ないけど、あの娘は止められないわ。危害はないから大丈夫。ちょっと、ちょーっと広ーいココロを持ってあげて。

……取り敢えず、あの娘が戻って来るまでに、腹ごしらえしましょう!さ、食べて食べて」


戻ってくるのか。


テーブルのサンドイッチやフルーツ、焼き菓子が

そういえば空腹だったんだ、と思い出させて、シャロンは遠慮なく手に取った。



十分後

「いやーん!可愛い!」


シャロンはなぜか黒縁メガネや丸メガネ、色んな眼鏡を取っ替え引っ換え、かけさせられた。


「ね!それでそのまま、片手をこめかみにしゅたっと!敬礼!って」

「こ、こうですか」

「……くうぅ!萌え袖敬礼!お団子頭のメガネっ子!完璧!カンペキよおおぉ!」


何が何だか分からないが、どうやら本気で自分を愛でている事は理解した。


「ザビーネ」

「ああ!試験管と白衣が欲しい!理科室の施錠さえなければ!」

「ザビーネ」

「背景が図書館てのもいいわね〜。ちょっと眼鏡ずらして是非セーラー襟で!」

「ザビーネ」

「男物の白いワイシャツ!……くうーっ」

「ザビーネ!」



果てのない妄想を止めるべく、キャロラインはシャロンとの間に入って、シャロンをぼふっと抱きかかえた。

シャロンの視界が制服の紺色になり、柑橘系の良い香りが包む。


「まず、ご自分を紹介し合いなさい!それから()()マルグリット様はお食事の途中なの!終わるまで()()()よザビーネ!」


よく分からないが、いつの間にか、ジュゼッペ嬢はシャロンを我が者にしたらしい。

そして、黒髪のザビーネという少女は、私をお人形のように愛玩していたけれど、ジュゼッペ嬢にはペットの犬のようにされているらしい……



「く、くっくっ……」

「あ、あら」


キャロラインの腕の中で、シャロンはくすくす笑い出した。













マリーさん30代

ジュゼッペ卿からお嬢様を任された腕っぷしもいい有能なメイドさんです

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