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ミリア動く 二つの手紙 二人の男

ミリアさんのターンです。

ちょっと、ドロっとしてます。

イザーク・チェイニーは、同僚から、手紙を受け取った。

「……誰からだい?」

「私も託けられたんだ。厳つい男だったよ」


差出人も宛名もない封筒を不審に思いながらも開ける。と、

「……ちょっと席を開ける」

と言って、チェイニーはせかせかと部屋を出た。



指示された庭の四阿に、まるで庭の主のような少女が座っている。黒いレースのベールを被っているが、品の良さと見目の良さは隠せない。


「……ダンブルグ嬢」

「……直ぐに動いて下さってありがとう。お座りなさい」

「いえ、ここで」


足元で跪くチェイニーに、目線を合わせずにミリアは小さな声で話す。


「貴方は、エルンスト殿下の庶務方で働いているのよね」

「は。殿下の日程調整などが私の仕事です」

「ごく内密なお願いがあります。

殿下のお立場に必要なお願いなのです」


チェイニーは、こんな所で婚約者の公爵令嬢は何を言い出すのか不審に思う。王宮の四阿。開かれた様で、人の気配のない閉ざされた空間で。


「私の様な下っ端に」

「貴方だからお願いするの。殿下の醜聞を消すために」

「え?」


ミリアは顔をあげたまま、微動だにしない。その姿は既に王族に相応しい気品がある。

チェイニーは婚約者のキャロラインと同い年のこの少女に畏れを感じた。


「殿下に怪しげな者が近づいています。女医が王妃に往診にくる時に乗じて。その者の写真が欲しいの」


「えっ。そ、それは警備に」

「殿下にも内密にしたいのよ」


案外回りの悪いチェイニーに、少し苛立つ声が混じる。

「宜しい?殿下は今、その怪しげな者の言葉に操られている可能性があります。頭ごなしに殿下を諌めたり、警備を使って接触を阻止したりしても、解決しません。むしろ、その様な殿下の振る舞いを広める事になってしまう。それは私の本意ではありません」


「殿下の為に、内密に」


「そうです。殿下を謀っている証拠を揃えて、相応しい場で断罪する。だから、貴方のお力が欲しいの」


チェイニーは、写真如きに何の効力があるのか理解できない。その怪しげな者を秘密裏に排除する。それで十分ではないか。そしてそれは自分の仕事ではない。


「……もし、これが上手くいけば、エルンスト殿下の地位は磐石になりましょう。そうすれば、貴方、私の計らいで、思う地位に上がることも可能ですわよ」

「……地位」


「だって……王太子妃の私と秘密を共有するのですもの……」

そこで初めて、ミリアはベールをずらし、素顔を足元のチェイニーに見せた。


……美しい。


「殿下を排除する勢力を圧する事が出来た暁には、私や私の父の権勢は他に及ぶものがありません。その私が取り立てるのですよ?イザーク・チェイニー」


「……」


(勿論、聞いたお話を漏らせば、何を失うかもお考えになってね)


「……」


チェイニーは、理解した。

ここに来た時点で運命は決まっていたのだ。






《館19時》


その簡潔な手紙は、何時ものミリアの指示だ。ダンブルグの邸は、王宮の西に一区画占めて建っているが、城壁近くにも小さな館がある。


この頃は、ミリアとの逢瀬には、この別宅を使うことが増えた。

外で逢えば、先日の伯爵のような目がある。以前は、たわいの無い集団でのじゃれ合いで済んだのに。


(滲み出るものなのだな)


ミリアと、そういう事になってしまうと、物理的に距離をとっても、漏れ出る何かがあるのだろう。



「……コール」

応接室で待つコールに、ノックも無しに女主人が現れた。

「御機嫌よう。夜の女王が嫉妬するお姿だね」


燃える碧の瞳。揺れる銀の巻き毛。

白い肌に纏うのは、胸元で切り替えたドレス。

コールは、しげしげと眺めた後、手を伸ばしその小さな顎をとる。


慣れた仕草で唇を開くミリアは、コールの儀礼以上の口付けを受け止めた。


「……今夜は?」

「ダメ。しばらくの我慢」


コールは、身体を離して、

「じゃあ、何故、呼んだの」

と、少し苛立った声で不平を言った。


「シャロンと貴方の事よ」

「何?私とシャロン?

……上手くやっているよ?

少し色気も付いて、お相手も楽しくなってきたし。

相変わらず幼くて、何もできないけどね!髪や指にキスを落とすと、それだけであの宝石の瞳が揺れるんだ。

堅物だから、俺もお堅い男になって我慢してるんだぜ」


自慢げなせいか、口調がくだける。


ミリアは少し嫌な表情で、

「シャロンに夢中なのね」

と言うので、

「馬鹿言わないで。君が言った通り、あれを懐柔しているだけだよ。あんな子供、どんなに綺麗になっても、まだ女の魅力はないからね」


(綺麗になって、デレデレしてるのはわかったわよ)


「今夜の用はね。コール、貴方、選んで欲しいの」

ミリアは、カウチに座って、繋いでいた手を引き、隣にコールを座らせた。

そして耳元に寄せて囁く。


(お堅い伯爵令嬢か、私か)


凄みのある微笑みが、何時もの睦事で無いと言っている。


「……何を言ってるんだい?

私にシャロンと仲良くなれと言ったのは君だ」


「でも、捨てて欲しいの。

私とこの国で栄華を尽くしたいなら、ね」

ミリアは愛おしげにコールの髪をゆびですく。


「……」


「考えてみて?

伯爵になればあの舅に仕えるのよ。引きこもりの北の伯爵。いまだ壮年。貴方は跡継ぎとして、約束を違えて、田舎で仕事させられるかもしれないわ?

そして、何十年も爵位を我慢した挙句、伯爵が亡くなって、継げるのよ」


「 ……馬鹿な」


「その点、私なら、貴方の思う地位など自由自在。王妃が望む人材として、貴方に好きな位につけてあげる。

勿論、私と会えるところによ?」



どっちがいい?

格上で裕福な伯爵家の婿として精進するのと

王妃の秘密の愛人として、近衛、いいえ、近衛隊長について、好きに生きるのと



「私も、自分が可愛いの。だから、貴方とシャロンが切れない限りは、貴方を愛することはできないわ。

……シャロンか、私か

選んで欲しいの」


「……今?」

「今。でも、あの子に伝えるのはもう少し後。

もっともっと貴方を好きにさせて、切るの。最高のタイミングで奈落に落とすの!」


コールは、逡巡する。


ミリア。

次代の王太子妃。

今までどうして、このパイプに気づかなかったのか。

彼女が一言言えば、コールの地位など自由に描けるではないか。

しかしミリアを選べば、王妃の愛人。

どんな位に就いても、それは色眼鏡で見られる。

けれど、出過ぎた杭は打たれない。

ダンブルグの後ろ盾で、気楽な王都生活が送れれば、それはそれで良い人生。


一方、シャロンとなら、今ミリアが言った人生となるだろう。

言い含んで、別居し、次期伯爵として王都で職に就く。そんな期待は、あの伯爵に会ってからは萎んでしまった。極力王宮で、何らかの名誉職を賜り、王都に住む期間を持とう。思ったより裕福な資産も転がり込む。


自由をとるか

我慢して金持ちになるか



「あの子を選ぶなら、今すぐ出ていって。ダンブルグは私に恥をかかせたマルグリットを許しはしない 」


一体どうしたというのか。

シャロンの何がこの令嬢の逆鱗に触れたのか……。



(幸せは先に楽しむ

楽はしたもの勝ち……だ!)


「……決めたよ、ミリア。

君だ」


取るならダンブルグだ。

マルグリットでは、太刀打ちならない。


「嬉しい」

ミリアはコールに抱きつく。

「おいおい、我慢なんだろう?……自制出来なくなるよ」

「……いろいろ細かい所を詰めなくてはならないの」

ミリアは上目遣いに恋人に囁く。


「コール、夜は長いわ

まだ、帰らないでね」

嫣然と笑うその表情は、とても16歳のそれではなかった。











次回は、ヴィルム王子のターンです。

誤字訂正しました。


お好きなお時間にブックマークでお読み下されば幸いです。

お忙しい中、いつもお付き合い下さって、ありがとうございます!

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