保健室の美魔女教師
シャロンさんまだ午後も終わってません(笑)
「偶に池に落ちたドジっ子とか、キラキラを吐いちゃったーとかはあるけど、頭からランチ食べた子は、初めてよおー」
保健室のドクトルは、サバサバとした年齢不詳の女性で、生徒からは親しみを持って呼ばれている。
美魔女教師、と。
「そこのシャワーお使いなさい
入口は鍵つきだから大丈夫ー
で?誰にやられたの」
温かいお湯がそれなりの水圧で出るシャワーブースで、シャロンはほっとする。髪を石鹸で洗うのは軋むけど、スープの匂いでノラ猫を寄せるよりマシだ。
「……ダンブルグ公爵令嬢」
「ほっほ〜。中等部の女主人ね!
あーあ、そっかー、例の通信ね」
先生方も読むんだ。
ザアッーと水圧を高めて髪を洗う。
聞こえない聞こえない。
嫌な噂も、何もかも……
今日、教室にも職員室にも行かなくて良かった。
ランチですらこうだ。
質問責めと、好奇と侮蔑と……
(貴女みたいな貧相な)
(瓶底嬢なんかに)
そうだ。
その通り。
だからどうしろと?
美醜で人の格が決まるのか?
でも、身分はともかく、平たく同年代が横並びになると
比べたくなくとも、比べるのだ。人も自分も。
お母様。
覚えているのは、お母様の膝で、やっと伸びてきた髪を編んで貰っている記憶。優しい声で古謡を口ずさみながら、暖炉の前で、細い指で。
薪のはぜる音。
母は美しい人だった。
(シャロン。なりたい様に人はなるのよ)
そうかな?
今のところ、私は瓶底嬢の醜女だそうだよ、お母様。
………。
「タオルはこれ。はいはい下着と制服ね」
保健室のストックの制服を借りた。下着は新品を貰い、新品を返す規則となっている。
「ローランはモテるからねえ。ここに来る女生徒の噂は、大概、エルンスト王子の事か、留学生のアシム君か、コール・ローランの事だもん。身分を考えたら、見た目で1番は、
あ、終わった?
あ、あら?」
湯気の上がったシャロンは、さっぱりした顔で衝立から現れた。
タオルを肩に掛けて、髪を拭きながら。
まじまじと見入った美魔女教師は、懐かしいものを見たかのように、ホンワカとした優しい笑みを見せ、直ぐにニタリ、と、魔女らしく三日月の笑みを見せた。
「ありがとうございました。お陰様で」
「……はい、眼鏡はここよ。
シャロン、貴女裸眼だとどのくらい見えるの?」
「んー、今の先生との距離で先生が聖女に見える位?」
「ものすごく見えてるじゃないの」
「素敵な返しですねー。
まあ、人の顔の識別はできても、文字を読むのはちょっと」
「そう」
「何でですか?」
「……眼鏡なんて不便でしょ。掛けなくていいならその方が、と思って」
「そうですか。まあ、無理ですね。ドジっ子になって、また、シャワーお借りしに来ちゃいますね」
「ふ。そうか。そうね。……素顔は親しい人が見ればいいものね……
シャロン、髪結ってあげる。濡れてても分からないようにひっつめましょ」
「わ、すみません」
「……もう少しツバキオイルがあればねえー。私のは携帯用のだから足りないわ」
「そ、そんないいですよ。結ってあれば」
「いいわけないわよおー。シャロン。女が髪を結うのはどんな意味か分かる?」
「?」
美魔女教師の指が器用に動く。
(お母様みたい)
「女はね。戦う為に結うのよ。
髪は古来から、魂や魔力が宿る所なの。だから聖女や魔女は流したままの髪型ね。
長い髪を束ね、結い、顔に纏わせる事で、女の兜を整えるの。
装いというのは、備えるために整える事。女は臨機応変、色んな場面で戦ってるからね……はい、いいわ」
美魔女教師が手鏡を渡してくれた。
「わ、ありがとうございました!
自分やメイドじゃ、こんなん出来ないわ!」
細かな編み込みがサイドに施され、前髪と一緒に後ろにまとめ、右側へと三つ編みが流れて、最後はお団子になっている。
「ふふ。テンション上がるでしょう?そ。装いは気分も上げてくれるのよ?シャロン。お勉強もいいけど、少しはお洒落もお勉強しなくちゃね」
「耳が痛いです。うー。あー、こうやってこうなるんだ……やってみます!」
「上等。……貴女のお母様は、本当に美しいストロベリーブロンドだったわ。ここに来ると、髪型を友達に教えてあげていて……
貴女お母様に似るわよ、シャロン・アネット・マルグリット」
……へ?
シャロンは手鏡をずるっと落としそうになり、はっしと持ち手を握りしめた。
母を知って?
生徒の?
美魔女教師、幾つう??
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