表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/69

ミリア 父に泣きを入れる

ミリアは邸に戻ると、父の姿をを求めた。あまりのミリアの剣幕に、執事が慌てて公爵に話を通す。


「どうしたのだ、お前は今日から学園であろう」

公爵は夫人と共に、書斎に居た。


「お父様!あの伯爵を倒して!」

ミリアは、そう叫ぶと、タガが外れたかのように泣き出した。


「ミリア。ミリア、はしたない。どうしたの?」

オロオロと夫人はなだめようとするが、その手すら、振り払って、ミリアは嗚咽し続ける。


「しっかりしなさい」


執事達も退室させ、親子だけになった書斎で、ミリアはハンケチで涙や鼻を拭いながら、切れ切れに話し出す。


「……お父様。私は、……エルンスト殿下の、婚約者よね」



「そうだ……何があった?」

「あったなんてもんじゃ……わあっ!」

ミリアが再び火がついたように泣くので、よしよしと夫人は抱きながら、ソファに導く。


ようやくハンカチを握りしめながら、母に支えられてミリアは語った。



王宮での皇太子妃が、身内の茶会にマルグリットの娘ばかり可愛がり、自分を蔑ろにした事


考えて見れば、妃から親身に付き合って貰ったことがない事


そのマルグリットの娘は、野暮ったい根暗な瓶底眼鏡で、学園でも誰も敬遠していたのに、人気者のコール・ローランと婚約したら、何だか色気づいた事


そのせいか、王宮でも、フラット侯爵の息子に色目を使い、あろう事かヴィルム殿下までもが、初恋の人だと言い寄っているのを否定もせずに秋波を送った事

夜会でも、フラットと踊り、コールが不快を訴えた事


そして

生徒会に入り、飛び級し、学園も王家も生徒会も……



「何もかも、あの女が奪うのよ!

何もかも!

しまいには、エルンスト様までっ!ああああぁっ!」


そこまでは、気難しそうに聞いていた公爵が、王子の名前に反応した。

「殿下が何故?

公務でお前ともお会いできない方だぞ?」


「嘘よ!みんなウソ!

殿下ったら、こそこそとあの女を王妃の所に呼びつけて、会っているわ!」


王子の醜聞に夫人は眉をしかめ、

「まあ。ミリア……慎重に。

本当に、殿下は、貴女以外の女と逢瀬を?」

と、確かめた。


「お母様!私見てしまいましたわ!

北の対から廻廊に出てきた殿下が、頭巾と白衣で変装した瓶底マルグリットを連れているのを!

何が公務よ!私と会う時間は無くても、マルグリットを内密に呼びつける暇はあるって言うの?

こんな、こんな、こんな!

侮辱です!侮辱ですわ、お父様っ!」


わあっ!と、キリが無い程泣きじゃくる娘。


うう、む。


マルグリットの娘がどれだけ多情であっても、痛くも痒くもないが、

エルンスト殿下まで籠絡するとなると、話は別だ。


自分の娘は、王家に嫁がなければならない。

そして、王妃となり、その外戚の我が家は、長男次男を王宮に送り込み、権勢をものにする。

仲睦まじくなくともよい。

婚姻さえ結べば。

正妃にさえ着けば。


「王宮に行く。殿下に訪問して頂こう。喪もあけて久しい。言い訳はできないだろう」

「……どうせ来ないわ」


「お前が病なら、婚約者は駆けつけなくてはならない。

そう謀ろう。

ミリア、しっかりしなさい。お前は家柄・美貌、何をとっても極上の娘なのだよ?

お前の微笑みに心奪われない男はいない」


「……」


「殿下がよそ見したのなら、こちらに引き寄せるだけだ。立太子まで後3年間もあるのだから、ふらふらする時もあるだろう。しかしな、我々高位貴族も王族も、好いた惚れたで婚姻できる身分ではない」

「そうよ。それが分からない王子ではないはずよ」


「……。」


「ミリア、お前の腕の見せ所ではないか。殿下をしっかりと捕まえ直しなさい」

「……分かりましたわ。でも、お父様」


ミリアは持ち前の勝気さを取り戻して言い募る。


「マルグリットは許せない!

お父様、あの女を辱め、引き落とす方法はありませんか?

私!このままでは、憎くて辛くて、本当の病になりそうです」


「マルグリット、か……」


立場を明確にせず、のらりくらりと昼行灯。彼奴は儂と手を組むつもりは無いだろう。

フイッセルとは?

いや、ああ見えて筋を通す男だから、王太子が余程のクズでない限り、直系から無理を通す事に与するとは思えない。

では、ヴィルム殿下は?


(そうか)

公爵は考えを巡らす。


もし、ヴィルム殿下がマルグリットの娘に執着し続け、娶りたいとなったら?


北の名門伯爵の令嬢なら、資格は十分。


(不味い。

あの王子を勢いつけるのは不味い)


只ですら、第二王子の帰国以来、王宮の均衡は怪しくなっている。凡庸なエルンスト殿下に比べ、聡明なヴィルム殿下の株は上がる一方。

ただ、ヴィルム殿下の後ろ盾がフラット如きでは、敵ではない。それが。


(マルグリットが外戚となったら)


不味い。

どうする。


「お父様?」


「……ミリア。マルグリットの娘は、婚約しているんだったな」


「そうよ!

学園一の美男子よ!

あれには勿体ない…」

(……本当に?)

ミリアは上げたこぶしを下ろさず言葉を切った。


(今のシャロンに、コールは?

あの美貌。家柄。生徒会の一員という特権。飛び級する頭脳)


コールには相応しくないと非難してきたけれど、今は?


(逆よ。

シャロンの婚約者にはコールは格下。貧相だわ……)


なんて事。

コールまで、本気で彼女にしがみついたら?心奪われてしまったら?


「ミリア」

公爵は、押し黙った娘の肩を優しく掴み、

「我々は、ダンブルグだ。

策を弄し、じっくりと獲物を狙い、仕留めようぞ」

「……お考えが?」

ミリアの目に輝きが戻る。


「マルグリットに恥をかかせ、領地に引きこもらせよう。

お前の目の届くところに、その娘が居られない位の、な」


「お父様……」


流石は、お父様だ。

やはりすがって良かった。


(見てらっしゃい。ダンブルグの本気をお見せするわ!)


生き生きと血色が戻る娘に、公爵は、

(一石二鳥とは、この事だわい)

と、酷薄な笑顔でほくそ笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ