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シャロン新学期デビューする

夏は、あっという間に過ぎ去った。


シャロンは、〈淑女教育〉でセリーナの付けた家庭教師に、ビシバシ仕込まれ、セリーナの定期的な〈茶会〉と〈訪問〉で、チェックがなされ……


キャロラインは、週に一度どころか、時には二度三度という王妃の〈診察〉に、コソコソと変装して出かけ、

その度に、エルンストとの語らいと王妃とのガクプル茶話会を行い、


ザビーネは、〈婿探し〉なる名目で、連日夜会に繰り出し、


ビアンカは婿候補と共に、商会の買い付けに地方から隣国まで、バイヤーと化して歩き回り、


それぞれが何某か忙しくするうちに、夏の休暇はあっという間に終わった。


9月半ば。

新学期である。


「……キャリー、何か、変わった?」

ふた月ばかりぶりのビアンカは、キャロラインが何だか大人びて綺麗になったなあ、と、思った。


「変わらないわよー。紆余曲折、疾風怒濤の人生だけど。

それについては、おとつー編集会議で、また」


今は、大講義堂での始業式。

極秘裏にしなければならない案件である。

「ビアンカ、楽しかった?」

「もっちろん。

ずっと旅行みたいなものだから。

今年は随分買い付けを任せて貰えたし」


それだけではない雰囲気がビアンカから漏れでているのが、キャロラインには羨ましい。

恋人とも順調なのは、ビアンカくらいなのかしら……

「んね、ザビーネの件」

「しっ。始まるわよ」


壇上に学長が現れ、生徒は静まる。

「夏は皆さんを成長させてくれたようで、私はとても嬉しく思う。

今年は、陛下のご崩御があり、静かな夏ではあったが、時代が新しくなる気運の高まりも見られて、これからは君たちが担う時代が始まるのだと感じている」


そんな挨拶の後、静かに生徒が壇上に立った。


(あら、あれは)


「新しい友をご紹介しよう。

サマルカンド国から帰国された、

ヴィルム殿下であらせられる」


おお、流石王族。全校に紹介があるのね。乙女通信に、ヴィルム特集組んで良かった!


「ヴィルム・エル・エラントである。

此度の祖父の葬儀にあたり、皆さん及び皆さんの御家族から過分なご弔意を頂き、祖父も王として本懐であったと思う。

これから皆とは学園では等しく生徒である。どうか、異国に育ったもの知らずに温かく御指南頂きたい」


(うおう。完璧)


一斉に湧き上がる拍手の中、堂々たるヴィルムの挨拶に、キャロラインは、こりゃエルンストがいじけるはずだわ、と思った。


銀髪に紅玉の瞳。すらっとした体躯には、適度な筋肉が感じられ、長い四肢が優雅な所作を魅力倍増させている。


「男前ナンバーワンのコールを」

「うん。抜いたわね」


拍手がまばらに収まると、学長はさらに袖の生徒達をまねいた。


(……ん?ん?)


生徒会長のオージエを先頭に、数名が壇上に並ぶ。

中にひとり。

女の子。


「おい、あれ、誰?」

「転校生じゃ?……すっげえ」

「かわ、いい。綺麗」

「どこのご令嬢?」


周りがざわつくのは、壇上の女子生徒のせいだ。


艶々の髪を巻き髪でたらし、小さな顔を華やかに縁取らせ、

形良い額に、赤く光る金髪の後れ毛が揺れ、

制服は体の線が美しく出るように、仕立て直されており、

陶磁器の肌は、健康的な血色で淡く色づき、

桜貝のような唇が艶めき、

何より、その、宝石瞳。揺れるように色彩が藍・蒼・碧・翠…と変化する大きな濡れる瞳。


((シャロン!))

ビアンカとキャロラインはシンクロする。


どうした!魅力倍増、いや自乗!

無敵!完璧!

(素質はあったけど、何あの洗練された美女っぷり!)


今頃ザビーネは滂沱の涙にむせんでいるだろう、と思ったら、やはり5年生の列で、

(コ、コンプリートぉっ!)

という叫びが通った。


「ミリア様、あれ」

取り巻きが不安げに促すが、既にミリアは承知していた。

キリ、と糸切り歯を鳴らして、憤怒の表情である。




「皆さん」

学長が、ざわつきを制して話す。

「新学期にあたり、二つの事を皆さんに知らせたい。まず、生徒会について」


促されたオージエが、恭しく礼をし、

「若輩の私が会長を務めて来れたのは、皆さんの御協力のお陰である。そして、現生徒会役員の働きに寄るところが大きかった。

その生徒会も、新学期にあたり、一新する事が教授会でも決議された。

ここに、私は会長の任を降り、新会長および新役員に委ねる事とする。

紹介しよう」


オージエは、アルバーンに手をかざし

「オリバー・アルバーン。4年生。

会長」

拍手が湧き上がる。

「イーライ・ブノア。4年生。副会長」

「ヴィルム殿下も副会長兼参議として参加する。4年生」

わっ、と歓声入の拍手が起こる。


「それから」

オージエが、ヴィルムより少し小さい男子を指して、

「アンリ・フラット 書記。

途中転入で3年生だったが、能力と学歴から、今学期から4年生に飛び級する」


(はあん。なるほど。ヴィルム殿下の腹心だもの。同学年の方がいいわよね)

キャロラインは、アンリの生真面目で聡明そうな顔を見た。以前会った時より、男らしくなっている。


成長期って、早いわあ

なんて、おばちゃんモードに入る。

そのモードのまま、隣のシャロン。

(さあ!

新学期デビューよ、シャロン!

オージエ、いけっ!)


「最後に、会計担当の」


……ごくっ。


「シャロン・アネット・マルグリット」


濤!と、天井まで震える声が湧き上がった。


「「「………!」」」

「何だって?」「うそ」「ええっ!」「何で?」「デタラメ?」


おお、大混乱☆

キャロラインは興奮しながらも、してやったり、である。


「ミリア様」

「おだまりになって!話しかけないで頂戴!」

ミリアは、肩で息をして、自分を律しようとするが、手の震えが止まらない。


(あんなに美少女になれたの?

どうやって?何があって?

何よあれ、あの制服は一流の仕立てだわ。あのブーツ。子牛の皮ね。珍しい臙脂色)

どう考えても、マルグリットの見立てであるはずがない。

そして、王宮でのシャロンよりずっとずっと美しく輝くような容姿に進化している!




学長が再び手のひらで制する。

「静粛に。

なお、マルグリット嬢も、今学期から4年生に飛び級する。

余りに優秀で教官が根を上げたのでな、教授会でも推すものが多数で、フラットと同様、学園始まって以来の複数の飛び級である」


すげー、流石ー、やった同年、

シャロンちゃーん!

などの声がやんちゃにかかり、

シャロンは、ほんのり恥じらって赤くなっている。

益々可愛い。



生徒会の紹介で、始業式は終わった。

ぞろぞろと退出する流れの中、ミリアは憤怒の炎で、壇上のシャロンを睨む。


壇上では、ほっとした表情のシャロンに、アンリがいたわるように何かを伝え、ヴィルム殿下までが、シャロンに微笑み、からかいの言葉を出したのか、皆が和んで笑っている。


(……ヴィルム殿下まで)

屈辱の王妃との茶会を思い出して、顔が怒りで更に赤く染まる。


許さない。

許さないわ。

ヴィルムにチヤホヤされてたくせに、エルンストにコソコソ会って!

飛び級ですって?

教授まで落としたっていうの?

何よ、オージエの優しい声!

何で、なんで、あの瓶底が、こんなに男たちに取り巻かれるの?

どうして!


(お父様!お父様に何とかして頂かなきゃ!)


「私、帰ります」

「……え、ミリア様っ」


ミリアはスカートを翻し、カツカツと大扉から出る。

その姿をまばらになった生徒の中から見届けていたザビーネが


「……ぃ、いよっしゃあっっ!!

新学期デビューざまあ!!

か、ん、ぺ、きっっっっつ!」


と、ガッツポーズで身を捩って、大きな釘を撃つかのように、拳をブンブン下へ押し込んだ。

その背中から、放射光が出ていそうな勢いである。いや、出ていたかもしれない。


無論、貴族にそんな奇人は彼女しかいないので、壇上のシャロンも、まだ残っていたキャロラインとビアンカも、


(……ザビーネ……)

と、呆れ果てていた。

それでも、キャロラインとビアンカは、


(うふふ。ミリアの凹み方!

いい気味だわ)

と、淑やかながらも毒のある笑顔でほくそ笑んでいたのだから、あまりかわりがない。


さて。

放課後の編集会議は徹夜かもね。


そんな事を考えるキャロライン自身が、ミリアの憤怒に1枚かんでいることにはまだ気がついていないのだった。






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