表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/69

修羅シュラバダバダ

ケイト・ブルックは、国葬が終わり人々が動き出した一週間後、やってきた。


ふっくらした身体、ふっくらした頬、くるくるふわふわな髪。

早い話が、ザビーネとは真逆なタイプだが、男好きする女だ。


寮母様の応接室をお借りした。

キャロラインが壁際で、ふんぬ!と座っていてくれるのが、救いである。


「ザビーネ・ライグラスです」

「ご無理言って申し訳ありません。

ケイト・ブルックと申します。

父は、国境近くの町の長を務めております」


えらく落ち着いている。

マリーがお茶を運んできたが、

「あ、悪阻が」

と言って、断った。

ハンケチで口元を押さえ、

(妊婦でーす)

と、主張している様に感じる。


「おめでとうございます。

初めてのお子さんですか?」

精一杯の嫌味をぶっかけてみる。


相手は

ほほほ……と笑い、

「私のような野暮ったい女に情けを下さるのは、エンツォ様くらいですわ」


くうー。嫌な女ね。へりくだったついでに、人の婚約者をdisりやがって。

そんな、蓼食う虫のエンツォに裏切られた私を見下してんのね!


「あら」

第二波、準備。発射!

「本当に、エンツォの子なのぉ?」


今私は、悪役令嬢になっている。


「一緒に住んでいます」

「……!」

「貴女へのお手紙を預かって参りました」

「……。」


そして、悪役令嬢は、早々とざまぁされる……。

詰んだ。



「エンツォ様は、二十歳の青年です。日頃の任務は、重労働ながらも単調です。田舎に刺激などございません。

そんな中で、私と出会ってしまったのは、仕方のない事かと」


エンツォの手紙の蝋を切っている間、ケイトはそんな事をのたまっていた。


「出会うだけなら、どこにでもある話。それが身体の関係になるのは、貴女の意志ではなくて?」


援護射撃のキャロラインがキツく口出しする。

「その関係を続けるのは、二人の意志ですわ」

男好きのする田舎女は、負けてはいない。


しかし、二人のやりとりは、ザビーネの耳には届かない。

手紙を凝視していたからだ。


《親愛なるザビーネ


君には直接会って話したかった。

ケイトが先走って動いてしまってビックリしただろう。

私も不本意だ。


君に会えない心寂しさに、つい過ちをおかした。

軍の任務は、国王のご崩御で、さらに伸びそうだ。私が君に会いに行く事は出来ない。


君の事は愛してる。私には勿体ない位の淑女だと思っている。

だが、生まれてくる子に罪はない。


私は、ケイトの子を私の子と認めたい。けれど、君との将来は、守りたい。

どうか、田舎町の女が子供と一緒に暮らす事を許して欲しい。子供は、私の子として養育をケイトに委ねる。君と合わせる事はしない。


君が成人し、婚姻できるまで、あと3年。君との結婚しか、考えられない。軍人として、出世すれば、賜爵の栄誉に相応しい階級となれるだろう。君にも男爵家の出自に相応しい生活をさせてあげられる。

君との未来を守りたい。

君の夫は、私しか居ない。


どうか、ケイトの言い分に振り回されず、私との人生を考えて欲しい


君のエンツォ 》




(馬鹿じゃない?)


ザビーネは目を剥いた。


こいつ

浮気を認めて、子どもを認知する。

王都に戻るまで、ケイトは現地妻。

戻ったら、私と結婚し、男爵になる


だとーーーお?


「ケイトさん」

ザビーネは、儚げに口元を押さえたままのケイトに話かける。手紙は、ほいっと後ろのキャロラインに投げた。


「貴女の胎の父は、どうやらレンツォの様ね」

「当然です。純潔でした」


……いちいち突っかかる!


「貴女、私に何の話がしたいの?

エンツォの手紙では、認知はする。養育費も出す。けれど結婚は私とする

そんなクソな事言ってるんだけど!」


背後から、カサカサという音がする。キャロラインが手紙を手にわなわなしてんだろう。


「はい。

平民の私が男爵令嬢の婚約者とねんごろになったのは、私の責任でございましょう。

この機会を逃せば、二度とお目にかからないかもしれない。

そう思ったので、貴女のお顔を見ておきたかったのですわ」


ううむ……。


「エンツォ様は、こう申しておりました。


いっときは王都の勤務になるが、希望すればまた国境に帰って来られる。君をこのまま、我が子の母とだけ見るのは、私には出来ない。

必ず、この地で君と子どもと暮らすから、と」


……絶対、ハンケチの下は、あざけ笑いで口が歪んでいるに違いない。


「つまり、エンツォはザビーネと結婚し、ほとぼりがさめたら、アンタの所に戻って、ザビーネをお飾りの妻にする、と、アンタを丸め込んだのね!」


キャロラインがアンタ呼ばわりになった。


「丸め込む?」


「そうじゃない!エンツォの口車にまんまと引っかかったのよ!

アンタも、騙されているんだわ。

王都に戻れば、その労から昇格するわ。そうすれば、任地期間はもう少し短くなるでしょう。

そうやって、任地を転々とする度に出世する。軍人はそういうものよ。

アンタの所で家族ごっこするのは、いっときなのよ。

このままエンツォは、二人の妻と家族をお手玉して、両方にいい顔するつもりなのよ!」


ケイトは、目を見開いて、そして、鉄板の涙を流した。

「……エンツォが愛しているのは、私です。」

と、鉄板を言って。


クスンクスンと泣いて、彼女は続ける。

「エンツォは、私に出会って初めて与えられる愛を知ったと。

婚約者は、美しく聡明で、魅力的で、やりとりするのは楽しい方だが、私を思っているとは感じられない。

おまけに、あと三年は、清い関係を強いられる。

私は疲れたよ。君が私にくれる愛は、優しくて豊かだ。

と」


何のこっちゃ。


貴族のしきたりの純潔を自分が守れないくらいサカったから、

ちょうどいい女とやっちゃった。

どうせ見てないからと、ズルズルと。んで、孕んで、女は責任とれと。


今ここ。


ザビーネは、次第に腹が冷えて来るのを感じる。


「ねえ、ケイト。

貴女どうして私に?

私なら、エンツォの実家に行くわ。または私の父の所に。

大体、妊婦が無理して動いて。

なんかあったら、大変じゃない」


ケイトは、毅然と

「双方の家に行けば、金で解決しようとしますでしょ?……お金なんて、田舎町で暮らすくらい、私の家は資産がございます。

胎が大きくなり、出産すれば、子供と王都に来るなんて出来ませんもの。安定期の今しか」

「詭弁ね」


ザビーネはピシャリと切った。


「貴女、私に会いたかったのでしょ?どんな女がエンツォと結婚するのか、見たかったんでしょ?

本当は、あの男の言ってる事なんて、デタラメのその場しのぎ。

見捨てられる。

それが分かってるから、将来の旦那はこんなクソだと告げ口に来たんでしょ?

本当に愛されているのは私だと、呪いをかけたかったのよね」


「……」


涙増量のケイトに、ザビーネは、自分のハンケチを差し出した。


「……いいわよ」

ふうっ、と、ザビーネは息を吐いて告げる。


「あげる。

あんな男、こっちから願い下げよ。ったく、責任とるなら、男爵位に未練残すんじゃないわよ!

どっちにもいい顔できるほど、いい男でもあるまいし。

私の方から先方に言っておくわ」


ザビーネは、

(さあ、決めゼリフ!)

とばかりに、腰に手を当てた。

こんな修羅場でもザビーネはザビーネである。


「ザビーネ・ライグラス男爵令嬢は、エンツォ・ヘラルド曹長をざまぁするわ!

婚約は破棄します!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ