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ランチルームにて 何で私が?

結局、司書にたしなめられて、昼食時を過ぎて図書館棟から追い立てられてしまった。


朝礼もサボっているので、館に帰るという手もある。けれど、抗議は今日の方がいい。

シャロンは、『乙女通信』のスタッフに抗議をするつもりでいた。


(何よ、何で他人のせいで、私がコールに叱られなくちゃならないのよ)


賢くとも14歳。夏で15歳。

思いの外冷たい婚約者に、本当は怒りたいのだが、しばらくは内密にという段取りを壊された事に苛立った。

早い話が、とばっちりである。


(たしか『乙女通信』の代表は4年生のキャロライン・ジュゼッペね。4年生ではピカイチのやり手。社交も勉強も積極的な方と聞いてる)


シャロンとは真逆の人物と言うことか。

それでも、壁新聞程度ならともかく、発行部数が百単位となった情報紙の影響は考えて貰いたい。


それにしても、お腹が空いた。


そろそろランチルームは人が捌けて来ただろう。昼休みももう終わる。


そおっと中に入ると、案の定まばらな席に人がいる程度だ。しめしめと、安い定食を頼んで、壁に向き合う席に座った。


無駄遣いはしない。

昼は腹を満たせばいい。


さて本日はお魚のスープ仕立てねー。と、平らなお魚用ナイフを取った途端に


「シャロン・アネット・マルグリッド、ちょっと宜しいかしら」

と言う声が背後からかかった。


……お魚……


「……私でしょうか」

振り返ると、銀色の艶やかな髪をアップにして頭頂からふわふわと垂らした、えらく濃い美少女が腕を組んで立っていた。


その少女を囲むように、キツい顔つきの少女達も立っている。

制服のラインは、青。

5年生か。


「わたくしは、ミリア・ダンブルグ。ご存知でしょうけど」


知らんかったよ。

お名前は聞き及んでいるけど。

公爵令嬢。第一王子の婚約者。


「初めてお目にかかります。シャロン・アネット・マルグリットです」

一応、立って目下としての礼をとる。


……お魚が冷える…


「貴女、辞退して頂戴」

「は?」


「鈍いわね。コール様との婚約よ。貴女のような醜女にコール様は相応しくないじゃない」

「はあ……」


「嫌だわ。わたくしが王太子妃になった時、あの麗しのコール様が貴女みたいな瓶底嬢をエスコートしているのを見なきゃいけないなんて」

「……はあ。左様ですか」


「それまで待たなくとも、社交界ではパートナーになるわね。美しい華の隣に萎れた花を置くなんて!コール様まで貧相になってしまうわ!」

「……」


だから、魚が冷えるだろうに……残念


「女はね、着飾って華やいでこそ女。何なの?博士なんて威張って」

「いえ、威張ってなど」

「恥ずかしいからご自分から婚約を断りなさい!身の程知らず!泥棒猫!」


いえ、泥棒とは。貴女の持ち物だったのでしょうか。

………ああ魚が 魚があ〜


「そうですわ!たかが北の伯爵のくせに!」

「しょぼくれた財産と爵位で、皆様のコール様を買い上げたなんて!」

「嫌がるコール様が逃げないように、乙女通信に告げ口してまで、しがみつきたいのね!冴えない醜女のくせにっ!」


お取り巻きがぽんぽんと悪態をつく。その加勢に、公爵令嬢はニヤニヤとふんぞり返っている。


はあ〜。


「……お魚が冷めてしまいました……」

思わずこぼした私の言葉に、令嬢が反応した。


「何よっ!こんな大切なわたくし達の進言を無視して食い意地のはった女ね!」


「そんなにお食べになりたいなら、こうして差し上げるわ!ほら!」


「「「……あっ」」」


バシャッ

という音とともに、頭からびろーんと白身魚が落ち、肩に乗った。


(……思った程、冷めてなかった)


「君!大丈夫か?火傷はっ!」

ランチルームの職員が走り寄ってきて、ぼおっと立つ私の周りがザワザワしてきた。


「大丈夫です。人肌ほどで。わふ」

モコモコのタオルが頭にかかった。

うう、制服にもしみ込んでる、私が食べるはずのお魚スープ。


「何があったんだい?」

「この、この子が、魚を食べたいと皿を」

「そ、そう!そしたら私の手が当たってしまって!ゴメンなさいねー」


事故にするんだ……

人の婚約にイチャモンつけて、人の容姿にイチャモンつけて、挙句の果てに人の食事を……


ぶちっ。

ぶちぶち。


「タオルしばらくお借りします。ありがとうございます」

「ああ。足りなかったらあげるからね」

「はい。後は()()()が居ますから」

「そうかい?じゃ、床は後から拭くからそのままでね」


職員は、何となくお察しはしたが、貴族の娘たちのする事に介入してはろくな事がないと判断していた。シャロンも火傷している風はないので、危うきに近寄らずの方針を取った様だ。


「ごーめーんーなーさーあーい?」

「大丈夫?美味しかった?」

「あらあ、肩にパプリカと玉ねぎ。貧相な貴女の素敵なアクセサリね!」


ほざけ。

こういうシーンになると、豊かな語彙をご披露してくださりやがる。


眼鏡が曇る。

びしょびしょだわ。


私は俯いたまま眼鏡を外して頭のタオルでふきふきした。

油膜が取れるかなあ。見えるように、あ、なった。


ん?

「………」


「ロゼット?どうなさったの?」

公爵令嬢に横向きの私に正面となるロゼットさんとやらは、あんぐりあいたお口のまんま、固まっている。


どうしたのかな?


ま、いいや。顔は拭いた。服は、ん〜脱がないとダメだ。

そして、副菜のマッシュポテトと黒パンをどうしよう。

あの職員さんに包んで貰うかな。

さて。


「ダンブルグ公爵令嬢」

私は、ボスに向き直った。

ぽたぽた三つ編みの先っぽから滴るスープはアミノ酸の香りかなー


「な、何よ、汚い子」


私はスカートのポケットからハンケチを取り出した。

「損害賠償を請求します。これは私が刺繍した我がマルグリット家の紋章が入っております。こちらを証拠に、私の制服の洗濯代と名誉毀損の慰謝料を」


ダンブルグ公爵令嬢は、最後まで聞いてしばらく間をあけてから、真っ赤になって怒り出した。


「何よ!たかが制服が汚れたくらいで!は、伯爵家如きが公爵家に逆らう気?」

「逆らうも何も。私は何もしておりません。あなた方が一方的になさった事」


「! な、生意気ね!チビのくせに!」

「身体的特徴は、関係ございません。一方的な破損に対する抗議です。家紋を差し出した意味をお考え下さい」


取り巻きは、なんか、ヤバい、と言った風にそわそわし出す。少ないながらもランチルームに居た生徒は、見るともなくこちらの様子を伺っている。


「たかが……」

「はい。たかが制服。であれば、賠償も容易でしょう。ただ、家紋に賭けて、確かな賠償を請求しているのです。ああ、謝罪は求めません。そんな心にもない形だけの事、無駄ですから」


ミリア・ダンブルグは、苛苛と爪をかみ、言葉を探している。

「わ、わたくしがかけたのですから、わたくしの家が弁償しますわ!貴女、公爵家に喧嘩売るなんて非常識しないで頂戴!必ず、このハンケチと一緒に、新品の制服をとどけるから!それでいいでしょ?」


皿を振り上げた少女が、あせあせとシャロンからハンケチをもぎ取った。同時に、はっと気がついた周りのお取り巻きが

「ミリア様、午後の授業が始まりますわ。参りましょ、ね?」


やや凝固した公爵令嬢を促して、1団が移動を始める。


ハンケチを持った少女が最後に

「貴女、ミリア様を敵に回しましたわね……お気の毒に」


そう言って、先程の憎々しさや高慢さではない、素顔を見せて後を追った。


はあ〜。

お腹空いた。


さて、ドギーバックに残りを入れて貰って、保健室を頼ろうか、とシャロンは算段する。

いずれにしても、授業は欠席。

言語学は出たかったなあー。


シャロンの性格に馴染んで来ました。よしよし。

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