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抗議されました 何で?

《中等部イケメンパラダイス トップ3がついに! コール様婚約!》



2日後の朝

中等部は騒然としていた。

女子しか購入出来ない『乙女通信』は、朝のうちにさばけてしまっている。


「皆様、ご覧になりましてっ?」

「よ、読みました。……残念ですわ〜」

「お相手って、あの、瓶底嬢でしょ?釣り合わないと思いません?」

「貴女声が大きいわ。まあ、コール様がどんなに素敵でも、子爵家の次男ですもの。あの花の(かんばせ)で爵位を勝ち取ったと言うことよ」

「……瓶底嬢も面食いだったのねえ」

「クスクス……これ程釣り合わないご縁も珍しいわねえー」




はあ〜。


ほおら、内緒なんて土台無理な話だと言う事よ。


シャロンは朝の時間を図書館渡り廊下の閲覧スペースで過ごす。誰も居ない図書館棟にすら、女子生徒のかしましい声が筒抜けだ。


一限は数学。

欠席しようか。

どうせ今日の授業内容は把握できている。教室に行けば、質問の嵐に決まってる。


悪意も善意も

シャロンは人との、同年代との関わりが苦手だ。領地では身分や性別にこだわらずに家の者の息子娘と遊んだ。家の仕事にも混ぜてもらった。


領地での父は穏やかで、父の執務室でシャロンが過ごしても、何も小言は言わなかった。


おかげで、シャロンは、領主の娘としては家人の誰もが親しめる子供ではあったが、貴族の子女という物差しでみると、不出来な変人に仕立て上げてしまった。


令嬢ならではの会話。

本筋にはなかなか触れず、回りくどく腹を探る。自分の好奇心を他人のものとして相手に遠回しに差し出す。

その、自分の立場は傷つけず、必要な言葉を他人から引き出して、保身を図ったり、階級や派閥の中で己が立つよう振る舞ったり、

そんな高等なワザをシャロンは持ち合わせていないのだ。


書物は、真理は、学びは

純粋に個人のものであり、そこに階級も性別もない。

純粋な理論は美しい。

そして裏切らない。


シャロンがそこに活路を求めたのは自然な流れだった。そして、学びはシャロンを裏切らず、次つぎと新たな扉を示してくれた。


おかげで、シャロンは教室に親しい女子がおらず、挨拶と学習内容とお天気の話しか出来ない、いわゆるぼっち状態である。

しかも、その見た目から、男子も冷たい。まあ、ぼっちのくせに常にトップなのだから、男としてのプライドから苛立つのもある。


さらにその学力から、大概の教師は一目置くのだから、面白くはない。


つまるところ、授業以外、学園にシャロンの居場所は教室にはないという事。


それなのに、乙女通信、である。


分かっている

突然の好奇の集中

引き出したい言葉

(お父様が整えたのですわ

何しろ私しか跡継ぎはいないのですから

政略……そうですね

ローラン様は不本意かもしれません)


はあ〜。


皆が聞きたい言葉は

マルグリット家主導の婚約であること

伯爵位と領地を餌に美男子を釣ったこと

ローラン子爵家は嫌々ながらで、あること 勿論コール本人も


(そして私がほんのり頬でも染めれば、あいつらは溜飲を下げるんでしょうね)


瓶底嬢のシャロン博士も

女だったのかー


侮蔑を隠しもしない顔、顔。


そんなウンザリな想像をしていると、目の前の書物に

ダン!

と、手としわくちゃの紙が現れた。


「マルグリット嬢!どういう事だ!婚約をペラペラと!」


「………」


本が痛む。そんな不平を乗せて、じろりと目を向けるが、コールは怒気を隠そうともせず紅潮した顔で睨んでくる。


「ご機嫌よう。コール様」

「おい!」

机の上にはコールが置いた紙屑。

開くと、噂の『乙女通信』だった。


「学園では秘密に、という約束だったじゃないか!」

「私、誰にもお話してはおりませんが」

「現に漏れてるじゃないか!……ったく使えない」


なんだそれ。

私との婚約がそんなに恥か。

だったら結ばなきゃいいじゃないか。大体この縁は、子爵家からと聞いているぞ。


「私は約束を(たが)える人間ではありません。人から婚約を問われた事もございません。この件は、私には非はございません」


「う」


「婚約の日に父は領地に帰りました。社交で我が家から漏れることも考えられません」


「む」


「直接『乙女通信』の方々に伺ってみたらいかがでしょう」


「ぐ」


器用な男だ。一音で会話をつなぐ。


「……っ、まあいい!周りに聞かれたらあれこれ言わず、頷くだけにしておけ!どんな噂が聞こえても言い返さずに。……そのうち皆飽きるだろう」


「そうですね。それがいいと思います。……お話は、それだけでしょうか」

「ああ。まあ、いい」

「コール様」

「なんだ」

「周りの目もございます。せめて私をシャロンとお呼びください」


シャロンは無表情なまま、答えはAです、と同じ口調で告げる。


「あー、わかった」


俯き加減で、座っているシャロンに話していたため、前髪がほつれている。苛苛とその束を耳にかけ、美しい横顔が、ふん!と後ろ向きになり、ドスドスと去って行った。


(やっぱり、午前中はここに居よう)


婚約というのは、もっと甘いものではなかったのだろうか。

女友達も、姉妹も居ない、母も居ないシャロンにとって、それを確かめる(すべ)はなかった。



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