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シャロンのデビュー その1

「お嬢様。お手紙が届いております」


朝食をおえるタイミングで、ロイが声をかけてきた。


「私?……あら、コール様だわ」


花束以来、放置されていた気がするが、急にどうしたのだろう。


白い便箋に黄色い小花が添えてある。ほのかに柑橘の香りがする。


「……本日伺いたい、って。

ロイ、急にどうしましょう。

お父様も会議でいらっしゃらないのに」


「お嬢様」

ロイがにこにこと応じる。


「婚約者が訪れるのは、当たり前の事です。むしろ、今まで疎遠だったのがおかしかったのです。

ご当主さまがこちらにいらしたのを耳にしたのでしょう」


ご準備を、というロイの言葉に、シャロンはソワソワした。





■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪





「……う、あぁ、暇っ!」


ザビーネがキャロラインの部屋で、伸び伸びする。


「私は忙しいのよっ。

貴女、社交があるでしょ」

せかせかと、書き物をするキャロラインは、振り向きもせず応える。


「あんなもん、父の顔を売ったら、はいおしまいよぉー。エンツォは、国境に行ったっきりで、夏は帰らないしー」


「ビアンカに、相手して貰って」


「ビアンカは、お家の商売のお手伝い……ねえ、明日行くの?」

「そう。だから、こうして無沙汰するおことわり状を書いてるの」


夏は学生陣の社交も活発になる。

各地の領主一族は、良縁を結ぶために娘達息子達を引連れて、茶会や夜会に繰り出すからだ。

逆に、王都に住んでいて、尚且つそのような〈婚活〉が逼迫しない貴族達は、避暑地へ赴く。

中には、避暑地から王都へと、〈縁談〉の為に、行き来する場合もあるのだ。

そのため、学園は、夏に長い休暇に入った。所謂〈国あげての婚活休み〉である。



しかし、おとつー三人娘は関係ない。

ザビーネは、婚約者が軍にいるため、遠距離恋愛だし、

ビアンカは、元より平民。

唯一、官吏である婚約者と親交を深めるべきキャロラインは……


「アズーナ王国の立太子式よ。

各国の貴人が参集するわ。

これをのがしては、おとつー代表の名がすたる」


「いいわねえ。大使の御令嬢で。

チェイニー様も行くんでしょ?

いいなぁ〜」


チェイニーとは、キャロラインの婚約者の官吏だ。

少し頬を染める。

「……チェイニーは、エルンスト殿下のご出席に係る事務方で行くの。別行動だし、仕事よ?」


「でも、祝賀会には、同伴するのでしょ?異国の夜会にー。素敵ぃー」

「両親が一緒だってば」


キャロラインの父は現在アズーナ王国へ大使として駐在している。国の大きな寿ぎに、一家で祝いに出る事が必要だった。


「はあー。キャリーも、何気に良いとこのお嬢様よね。シャロンと一緒で」

ピクリ、とキャロラインのペンが止まる。


「ザビーネ」

「何?」

「監視して」

「何を?」


振り返ってキャロラインはザビーネにガバッと突っ込む。


「……夜会の時は、ローランを。

茶会の時は、ミリアを、よ」


ふ、む。

ザビーネは納得する。


「シャロンが蔑ろにされないように、という事ね。来週だっけ、デビュタントの披露」

「……シャロンもこの夏で13歳ですもの。私の居ない2週間は、多分シャロンにとっては、社交の洗礼を浴びる事になるわ。守ってあげられるのは、貴女だけ」


「そうね。

学内と同じ位置関係で、煽られたり、虐げられちゃ、シャロンが元通りになっちゃう」


「夜会は伯爵と出るだろうから、とてつもない事は起きないわ。問題は、茶会よね」


ザビーネが、ブツブツと呟きながら、例のなんとやらゲームの世界に入っていった。


(お願いね、ザビーネ)

勿論シャロン自身が、立ち回らなければならないのだけれど……


(このまま、指を咥えるタマじゃないわよ、ミリア嬢は)






■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪






「私に、これを?」

シャロンはコールから受け取った

金細工の髪留めをしげしげと見つめた。


「王都の職人の中でも、腕のいい者の作品だよ。今度のデビューに是非、つけて欲しくて」


「コール様のお色……」

「そうさ。ドレスは白と決まっているからね。せめて飾りで君と居たいんだ」


シャロンは、その見事な細工に感嘆する。繊細なレースの様な花の中央に、我が家の象徴の小鹿が立つ。


(家紋を尊重して下さって……

しかも、ご自分のお色)


「君がこの頃、お洒落に気を配っているのを見て、気がついたんだ。

私の為に、頑張っているのだろう?……男冥利に尽きるよ。

まだまだ君はつぼみの花だ。

その花を私好みに仕上げるのは、婚約者の私の勤めであり、喜びだよ」


蕩けるような瞳で、コールはシャロンの手をとり、指に口付けを落とす。


シャロンは心が満たされる。


この人は、心無い事を言っていたけれど、分かって下さったんだわ……

そして、

私を好ましいと

ふさわしい女に育てると、言ってくださるのだわ……


「ありがとうございます。コール様」

「呼び捨てにして?

明日は、伯爵はいらっしゃるかな。勿論、毎日訪問させて頂くよ。君に私が色々教えてあげたいんだ」


「嬉しいわ……こ、コール」

「うん。いいね。君が好きだよ、シャロン」


シャロンは、初めての呼び方に、ドキドキしていた。

そんなシャロンを見つめるコールの目は、

笑ってはいなかった。









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