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東の城の茶会 その1



「今日は予定を変えましょう。

懐かしい人が来るの」


王太子妃殿下が、入室するなりミリアに告げる。


「……では、本日は私は」

「結構よ、同席なさい。貴女とは面識があるでしょうし。ヴィーが招いた客人なの」


ミリア・ダンブルグは、少し心臓が踊る。


留学から戻られたヴィルム殿下は、兄王子とは違う魅力の持ち主だ。


兄が端正なら弟は華やか

同い年の男子生徒は、幼く感じるが、ヴィルム王子は、何と言うか色気がある。

まだ、先日、兄王子の婚約者と言うことで引き合わせて頂いたが、たちまちときめいたミリアである。


「承知致しました。ご相伴させていただきます」

「そうして頂戴。ああ、ペトラ、ヴィルムに言伝を」


そうして、王太子妃殿下は、ようやく腰を下ろした。


やっと座れる。


本日は月に一度の王太子妃殿下からの講義だった。

エルンスト殿下の婚約者となってから、毎週末の午後に妃教育を受けている。

学者からの講義は小難しい。あまりお勉強が好きではないミリアにとっては苦痛の時間だ。だが、妃殿下との時間は変え難いトキメキがあった。


ジュデイッド妃殿下は、王太子殿下が何としても、と輿入れさせた女性で、4人の母とは思えない若々しさと華やかさを持っている。

気品と色気があるのは当然として、薄い化粧とさりげない装飾品、先端を行く衣装。何とも魅力的で、憧れる。

所作の1つ、笑みの1つ、ミリアは将来自分もそうありたいと、見逃さない。そんな時間であったのだ。


(王子と妃殿下がお揃いになるのなら、いいわ。王子とはもっとお近づきになりたいし)


このところ、東の城に婚約者の姿はなかった。居ても、公務でミリアに会いに来ることはない。文と贈り物が律儀に届くものの、その時間を自分と会う時間に出来ないものか、と、少々拗ねている。

その分、コールや高等部のご子息、女友達と、出かけたり茶会をしたり、その場の楽しさを求めてしまう。


(いいのよ。エルンスト様とは、どうせ政略。素敵な人と会って、お洒落を楽しんで、この妃殿下のような国の頂点に立つ女性として、崇められるようになってみせるわ)


上品にティーカップを持ち、狂いのない所作で紅茶に口をつける。

その王家と繋がる銀の髪と、母譲りの青い瞳が相まって、ミリアの姿は、淑女そのものだ。


妃殿下は、カップに口を付けながら、そんなミリアをちらりと見やった。

裏にどんな思いがあるのかは、誰にも伝わらない微笑で。




「私の客人ですからね。いいですね、わたしがこの茶会の主人ですからね」

「分かっているわよ」

「ティーガウンにまで着替えて、何を言ってるんですか」

「懐かしい人に会うのに、仕事着じゃ申し訳が、ねぇ?」


ねぇじゃないですよ、本当に……

ヴィルム殿下は、どうあっても妃殿下には敵わないようだ。



夏の庭のコンサバトリーには、涼しい風が通り、薄布のシェードが日差しをやわらげている。

瀟洒な家具と、夏の花のティーセット。冷たい氷の鉢に冷やされた水菓子。

茶会を開いたのか。

ならば、謁見のような格式ばった場で無いことにほっとする。


ヴィルム王子の隣の席には少年。

名乗りをすると、ヴィルム殿下の腹心、アンリ・フラット侯爵子息だとわかった。


(平凡な人)

切れ者と聞いている。ただ、ミリアにとっては、整った顔立ちも、ヴィルム王子やコールに比べれば、格段に低い。


エルンスト様と同じ。


「ダンブルグ嬢も迷惑な話だよね」

「私は、殿下とお会いできて嬉しゅうございます」

「兄の方がいいに決まってるのにね」

「そんな。それは勿論ですが、ヴィルム殿下とも心安くなりたいと思っておりましてよ」


ここぞとばかりに、頬を染めてヴィルムに微笑みを見せる。

そのやりとりを妃殿下はじっと聞いていた。



程なく、客人の到来を女官が告げる。王子とフラットは立って迎えた。


「ああ、よく来てくれたね。

今日の君もなんて可愛いんだ。薄水色のドレスが髪色と相まってよく映える」

ヴィルムが甘い言葉でエスコートする。


「お招きにあずかり、ありがとうございます」


誰かしら。

妃殿下が起立しないとなると、王族クラスではないわね。


綺麗な少女。

赤銅色の艶やかな髪をハーフアップにし、その形の良い額を出して目鼻立ちを際立たせている。整った眉。小さな唇。白い白い肌。

何よりその瞳が目を離さない。

大きな瞳が、宝石の様に刻刻と光で色が変化するからだ。


王子が言うドレスも、飾りのないものだが、総レースの生地は、かなりのお値打ち物と見た。

(凄い……ヴィンテージだわ)


お洒落好きのミリアは、嫉妬心が沸く。

ミリアの知らない高位貴族のご令嬢。


(どなたかしら

随分ヴィルム殿下がご執心

……)


その少女は、テーブルの王太子妃に気が付き、小さく息を吐いて、淑女の礼を深くとった。


「まあまあ、十年ぶりね。

ヴィルムの母のジュディッドよ。

覚えていて?」


「……ご機嫌麗しゅう、ジュディッド・エル・ナパテア・エラント王太子妃殿下。その節は、亡き母がご懇意にして頂き、恐悦至極にございます。マルグリットが娘、シャロン・アネット・マルグリットにございます。本日はお招き頂き、ありがとうございます」


その完璧な所作より何より、名乗りにミリアは驚愕した。


(シャロン、シャロンなの?

あの、瓶底?う、うそっ)


瓶底の、痩せっぽちの、くしゃくしゃの髪の、地味で暗い……


およそ正反対の目の前のご令嬢に、ミリアは混乱する。


そんなはずはない。

(どこをどうやったら、こうなるのよ!)


「ああ、お母様にそっくり。エイダ・アネットが帰ってきたみたい!」

「母のドレスのお譲りです」

「そうなの。何処かで見たことがきっとあるわね。私達、本当によくご一緒していたの。マルグリットに取られちゃったけど、私の方がエイダの事好きだったのよ!

さあさ、私の隣にお座りなさい」


王太子妃は、はしゃいだ様子でシャロンを迎える。


「御無礼致します」

優雅な仕草で会釈をし、侍女が下げた椅子に座る。


(シャロン?本当にシャロン?)

着席して近くなった少女をまじまじと見つめてミリアの混乱は収まらない。


「……ミリア、貴女はシャロン嬢をご存知でしょう?」


暗に挨拶をしない事を咎められて、ミリアは、あっ、と気づいた。


「え、ミリア…様?」

美少女が驚いた声を出す。


しぶしぶミリアは

「ご機嫌よう」

と挨拶した。

「ご機嫌よう。申し訳ありません。私、眼鏡をしてなくて」


……眼鏡。

やはり、やっばり、シャロンなの?


(ど、どういう事?

それに、どうして、瓶底がヴィルム王子の知り合いなの?

どうして、こんなに王太子妃殿下がはしゃいでるの?

……何なの、どうして……)


混乱に混乱を重ねたミリアに、シャロンは、ニッコリと、

極上の笑みを見せた。


長いお話ですが、感想やご批評ありましたら。

参考にします!

誤字報告も助かっております。恥。

評価も是非。

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