シャロン パジャマパーティーする
(絶対絶命だわ!)
シャロンは肉食獣の三匹が、悪い顔で待ち受けているのをどう対処しようか策を探していた。
「えっへっへー。シャロンちゃーん」
「誰にも言わない。勿論記事にもしない。だから、ねっ」
「……観念なさった方が、傷は浅いですわよ?」
それぞれの寝着でファッションショーを繰り広げ、お茶とお菓子を楽しんで、夜はふける、と思ったシャロンは甘かった。この三人が、ただお泊まり会をするわけがなかった。
高い天井。天窓には淡い紫に染まった空に星が瞬く。北の高窓からは心地よい夜風が入る。
キングサイズの寝台があるマルグリット家の貴賓室に、恐れ多くもおとつーメンバーがお邪魔した。
(ねえねえ!パジャマパーティーいたしません?
私、1度シャロンのお宅を拝見したいわあー)
パジャマパーティー!
夜更けまで寝室で友達とお喋り!
キャロラインの放ったその響きに、では!と、乗った自分が呪わしい。
彼女に泊めてもらった恩義があって、いつかは、と思っていたから、軽い気持ちで承諾したのだ。
ロイもユーナも大張り切り。
かつては王族が夏にお泊まりになった貴賓室を整え、有名店の菓子を取り寄せ、良くぞここまで、と、僅か放課後からの時間てま準備してくれた。
三人は三人で、
本当に、名門旧家であるマルグリットの、シックなのに上質な誂えに感嘆し、目利きのビアンカなどは、
(玄関と応接室と、この貴賓室だけで、地方の城が買える)
などと鑑定した。
何でも調度も絵画もシャンデリアさえも、国宝級、らしい。
普段が質素なシャロンだが、今更ながら、北のお姫様なのだと、三人は顔を見合わせた。
で、今。
貴賓室は、尋問室となっていた。
「た、たまたま、図書館で」
「うん、それは分かったわ。
で、何があったのかな?
名前を呼び合うに至ったのは、何故かな?」
キャロラインはニヤニヤが止まらない。あの現場にいたのは、私だけ。
衝撃のてん末をこの二人とも共有しなくっちゃ。
「あの、怪我をして」
「誰が?」
「私が。ちょっと、…ぶつかって。それで、保健室に」
ザビーネが寝着を風船の様に、バフッと膨らませて、椅子から寝台に着地した。
「♡鉄板の出会い
『申し訳ない!
さあ、手当を!
いざ行かん、保健室へ
さあ、私の腕にっ』」
と、自分の身体を自分で抱いた。
枕がその顔にヒットする。
「そんな訳ありません!
顔ですから!
歩けました、もうっ!」
投げたシャロンは肩で息。
随分と三人に馴染んだものだ。
仰け反ったザビーネを無視して、ビアンカが
「顔に?シャロン大変、どこを?」
「大丈夫。いっとき冷やして治りましたから」
「で、それがどうして名前呼びに繋がるの?」
キャロラインも又、まだ枕に組み敷かれているザビーネを押しのけて、シャロンに詰め寄る。
「そ、そのー」
シャロンは左側に緩く三つ編みにした髪と同じくらい頬を染めて、
貸し出しカードのサインから、フラットがシャロンに興味を持った事、
お互い読んだ本について語り合った事、を説明した。
「毎回複数のカードにサインするから、シャロンだけサインしているの。司書様も認めてくれているし。だから」
「フラットはシャロンと呼んだと」
「ええ、それを許したら、自分はアンリと呼んで欲しいと」
ガバッとザビーネが枕を放って起き上がり
「くうーっ、ボーイ ミート ガール!」
と、雰囲気だけ伝わる言葉を発した。
「私の情報によると、アンリ・フラットはヴィルム王子の側近候補のご学友。飛び級で学んでいたのに、王立学園では実年齢の三年生。物足りないでしょうね」
ビアンカが説明し始めて、シャロンは、助かった、と心の中でほっとした。
コールの件は知られたくない。
それにしても。
生徒会室での衝撃は、凄まじかった。まさかアンリが一緒とは。
しかもあんな風に、私を……
(こんな小さな可愛い女性が)
アンリ。眼鏡が必要なのは貴方のほうだわ。
「で、さらに!
まさかの王子が告白。
初恋の君がシャロンだと!」
「「ひえええ〜っ」」
ぼんやり考え事をしている間に、話は盛られているようだ。
いや、
本当だけど。
「からかわれたのよ!
私の三歳を想像できる?
王子は四歳よ?
それで初恋って何、幼女趣味なのかしらっ!」
それは随分可愛らしかったろう、と、三人は内心同じように思う。
目の前のシャロンは、眼鏡を外し素顔である。ザビーネのギャップ萌えが一刻前に炸裂している。
「四歳の王子がおマセなのね。
まあ、あれは、名前呼びしたフラットへの牽制だと思うわ」
「マウンティングしたわけね」
「私は全く覚えてないわ。王子も王宮も」
「三歳で鮮明に覚えてたら天才よ」
四歳で覚えている王子は何なのだ。
「王子は、わざわざ一時帰国して学園に立ち寄ったと聞くわ。シャロンがメンバーだとオージエが伝えないはずないじゃない」
「となれば、王子にすれば再会は必然……そうね。あの流れはそう。
と、すれば、軽い王子だけど、遅れて秋から入る王子にとっては、牽制したのね。生徒会のメンバーに、自分のものだとマーキングしたって訳」
「本気じゃーん」
「……」
夜が深まってきた。
「お嬢様」
ユーナがノックして入室した。
「高窓を閉めましょう。
お嬢様方、こちらのワゴンにレモネードとエビアン、それから果実水をお持ちしました。
ご用がございましたら、ベルを押してください」
「ありがとう。いいわ、私がするから。もうお休み」
「ありがとうございます。では、朝のお支度の時に」
高窓を閉め、虫取り灯を下げ、ユーナはしずしずと下がった。
「歳若いのに、できた侍女ね」
「マリーさんが師匠ですもの。今日は精一杯お澄まししているわ」
何を飲みます?と、シャロンが尋ね、いそいそと寝台から下りる。眼鏡をかけて、ワゴンの軽食やピッチャーを確かめ始めた。
「ふふふ。話が切れたと安心したでしょ、シャロン」
今では互いに敬称は省いている。
背中で聞いて、シャロンはぎく、としたが、スルーする事にした。
「シャロン、貴女はどう思ったの?
フラットの純情
王子の初恋宣言」
「胸きゅん、した?したわよねー」
「うふっ。
生徒会、いずれ劣らぬ質の良さ、ってね」
「……。」
シャロンは、三人に背を向けたまま、
「……私は婚約者のいる身ですよ?
せめて白い結婚にならないよう、頑張らないと!」
と、呟いた。
「さあ、みんな!
私、今度はみんなの婚約について知りたいわ!
ね、教えて下さる?」
と、振り返ってニッコリした。
うっ、と、三人は三人とも狼狽えて、
「……キャリー、貴女から」
「え、何よ、いつもの元気は。ザビーネ、言いなさいよ」
「ここは、やはり、ビアンカでは」
「やはりって、何?」
と、モジモジ譲り合い。
よし。乗り切った。
シャロンは、心でガッツポーズ。
まだまだ夏の夜は長いようだ。




