乙女通信部 編集会議
「ごきげんよう!早速ですが、6月第1週の乙女通信編集会議を開きます」
ここはキャロライン・ジュゼッペの部屋。彼女の両親は外交官で、隣国に在任している為、学園の女子寮で生活している。
「編集長」
「はい、ザビーネ、どうぞ」
「新たな婚約を発見しました!」
ザビーネ嬢はワケありの男爵令嬢だが、その件は後ほど述べさせて頂く。
「ザビーネ、ホント?」
ビアンカ・アズーロが可愛い声でキョトンと尋ねる。彼女はアズーロ商会の娘で平民だが、裕福でそこいらの貧乏貴族より品がいい。学園も市内も、情報網を有している。
スクープをザビーネに上げられて、ちょっとおかんむりである。
「ホント本当。誰だと思う?」
「焦らさないでよ。高等部?中等部?」
「ふふ。私と同じ学年」
「え?5年生?」
「焦らさないで、誰?だあれ?」
豊かな黒髪のザビーネは、悪戯な顔つきでにやにやしている。むう、とむくれるビアンカの百面相が面白くて仕方がない様子だ。
「ザビーネ」
「はいはい。
……コール・ローラン」
「「えっ!」」
思い通りの表情を引き出せて、ザビーネはますますニヤニヤする。
「あの色男、ついに首根っこ掴まれたのねー」
「フリーなのをいい事に浮名を流すだけ流してるもんねえ、乙女通信のカモだもの」
「で、お相手は?」
「シャロン・アネット・マルグリット……3年生」
「あら、良縁!」
「ええー?何で?」
「だって、マルグリット伯爵家の一人娘よ?子爵の次男が婿に入るんだから」
ふんふん、と2人は頷く。
キャロラインの父は官僚だが子爵筋だし、ザビーネは男爵、ビアンカは平民。3人ともそれ程家柄は良い訳では無い。
それでも、すでに婚約者は決まっており、それぞれ家格も人柄も納得できるお相手であり、円満な未来が待っている。
だからかもしれないが、
3人とも学園生活を謳歌する事には貪欲で、初めは噂話や取材内容を女子寮内で貼り出していた『乙女通信』が、今や学園内で定期発行する程になっている。
記事担当のキャロライン
挿絵及び企画担当のザビーネ
情報通のビアンカ
3人の発行する『乙女通信』略しておとつーは、王立学園の名物となった。
女子学生による女子学生のための情報は、ゴシップ、ファッション、デートスポット、先生方攻略、イケメンパラダイス、と、多岐にわたる。
「シャロン博士も、人の子だったのね。やっぱり決めてはイケメンかしら」
「ビアンカ?博士って?」
「シャロン嬢は才媛よ。入学時からずっと首席を譲らない。本の虫。
いつもいつも何かを勉強していて、ついた渾名が、シャロン博士」
「へえー賢いー。では今回のトップ記事は色男と才媛!これでいく?」
「意義なー、……ん?ビアンカどうしたの?」
ビアンカは頬杖をついて、考え込んでいる。
「……しっくり来ないのよねー」
「何が」
「だってえ、あの男、毎日女の子と居るわよ?それもあちらこちらの華と。学園外もよ?
……ウチの商会経営のお店には、な・ん・と、ダンブルグ公爵令嬢と、居たのよ?
……とてもじゃないけど、婚約を済ませた男には見えなかったわ」
「ダンブルグ様?ちょっと、王子の婚約者ではなくって?!」
大スクープにザビーネが色めきたつ。
「まあ、4、5人で座ってらしたけど。上手いこと複数で居るから言い訳が立てるんでしょうけど。私が観察したところ、かなり怪しいわよー、目配せなんかしちゃって」
「あいつ、派手な女の子好きだもん。ミリア・ダンブルグ嬢なんて、コテコテの美少女ですもんねー。連れ歩く子、みんな派手!」
「そうなのよ。で、マルグリット伯爵令嬢ときたら、見た目は、そのー、地味?って子よ?何せ分厚い眼鏡のせいで、瓶底嬢、って二つ名もあるくらい。
あの顔だけ男が連れ添うかしら?」
んー、と3名は唸りながら、 それぞれの想像を巡らせる。
キャロラインは、ティーカップをカチャリと置いて、
「ふう、濃いわねー情報が。
取り敢えずダンブルグ様は置いといて、コール・ローランが年貢を収めた事に集約して記事を打ち出しましょう」
そして、キャロラインはガサガサと紙を広げ、記事の割付けを書き出す。
「じゃ、スクープとして私が書くわ。挿絵も入れるわね」
ザビーネが早々とペンとインクを出して似顔絵をすらすら描く。
イケメン達なら、見ないでも描ける、というザビーネの特技である。
「了解。連載の《先生攻略》は、『第3弾リーゼンバーグ言語学教授』でいきましょう」
「じゃあ、《デートスポットいかがでしょう》は、私ね。今流行りの寄せ植えとハーブティーのお店で良いかしら」
写真を選びながら、ビアンカが確認する。
ここまでくると、後は分業で原版を作り、印刷機使用を予約するのみである。
「では、皆様!張り切って参りましょう!」
「「了解!」」
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