表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/69

シャロン ほだされる

ジト目で見つめると、キャロラインはたじろぐ。


どうやらこの目は、私の武器らしい。近眼が強すぎて、裸眼の自分のがよく見えないから分からないんだけど。


「やっぱり行くのですか」

「まあねー、私がついてるから!」

「ついてるから?」

「あ、あははー」


特別教室棟の生徒会室は、1階の端にあるので、一直線だ。


「まあ、話を聞いて、お嫌なら、その旨お伝えするといいし?」

「どうして疑問形」

「あ、はは、えーと」


キャロラインが挙動不審になるのが、若干面白い。


生徒会。

まだ3年生の身で、しかも女。

到底、自分が相応しいとは思えない。想像も出来ない。

それに、乙女通信を手伝えと言っていたではないか。


そう、いじましく言うと、ビアンカが説得してきた。


(シャロンさん、貴女にとっての利益はね、保険よ、ほ・け・ん)


保険?


(まず、雑音のカット

例の公爵令嬢は、貴女をどうやって中傷しようか、虎視眈々よ。

役員という肩書きが、貴女を守ってくれるわ)


確かに、隙あらば、絡んでくるダンブルグ嬢とそのお友達とは、距離を置きたい。けど。


(第2に、貴女のお家に関わるの。

生徒会には、第2王子がお入りになるわ。王家との繋がりが出来れば、マルグリット家にとっていい事ではない?)


それは……

考えてはなかったわ。

確かに王都に来てみると、マルグリット家が如何に旧家か、思わさせられた。


(何よりね、貴女には自分で立つ将来も考慮しなくちゃ。

麗しのローランは、おつむが良いとは言えないでしょ?ひょっとしたら、ひょっとしたら、よ?貴女が爵位を継ぐ可能性が、ないとは、言えないでしょ)


……はあ〜……

シャロンは、何となくその可能性も案じていた。


(あの時)

叩かれた跡はないが、シャロンにとっては心の傷になって、あの場を思い出してしまう。


コール様との未来。

私自身が家を守るのは必然。

けれど、コール様が、婿に入らないと、言ったら?

伯爵の責務に耐えられないと言ったら?

……私しか居ないのだ。


(その時にはね、生徒会役員との繋がりや、OB達との繋がりが、貴女を守ってくれる。

いい?シャロンさん。

貴女は名門伯爵家の嫡子なの。

私たちとは、身分が違うの。

高位貴族とのお付き合いが必要なのよ)


ビアンカの言うことは、正しい。

学業に逃げても、家は立たない。


(遊びか勉強か、逃げているのはコール様と変わらないわね)


仕事内容を聞いて、無理があるようなら、お断りしよう。

そんな、多少後ろ向きな気持ちを持って、キャロラインに付いてきてもらったのだ。


なのに。



(どうして貴方がいるの?)


部屋に入ると、そこにいた全員が立って迎えてくれた。


会長のオージエ

副会長のアルバーン

会計書記のブノア


そして


「シャロン、さん?」

「アンリさん、どうして、あっ」

お互い名前が口をついて、狼狽え、赤くなる。


「何だい、名前呼びとは、お安くないね」

そう言ったのは、銀髪にルビーの瞳の少年である。

その言葉に、更に焦るシャロンとアンリを後目に、


「初めまして。

ヴィルム・エル・エラントだ。

この度、秋より4年生に転入するんだが、兄エルンストより、生徒会への参加は王家の慣わしと伺った故、本日こちらに伺ったのです。宜しく」

と、胸に手を当てシャロンとキャロラインに挨拶した。


…聡明そうなイケメンね!…

キャロラインが不敬にも、囁く。


「現会長のオージエです。ようこそ生徒会へ。

こちらが、次期会長のアルバーン君、そして役員のブノア君です」


侯爵子息のオージエが役員を代表して紹介する。

2人は会釈をした。

「シャロン・アネット・マルグリット 3年生でございます。以後お見知り置き下さいませ」

と、シャロンは深い敬意の礼をとる。


それにならい、キャロラインも名乗りと淑女の礼をとる。

遅れて、慌ててアンリも名乗りをするが、侯爵子息が末尾とは、やや間抜けである。


その位、動揺していた、ようだ。


「マルグリット嬢。

生徒会へようこそ。誇りを持って次代を譲ろう」

「その件でございますが」


ようやく全員が腰掛けて、オージエが大仰に言った矢先にシャロンが口を挟んだ。


「私は、世間知らずの石頭。学ぶ以外に取り柄のない、瓶底嬢でございます。それに3年生という幼さ。到底、ヴィルム殿下や会長様の気に入る様には務まりません」


「瓶底嬢」

ヴィルム殿下が復唱して、ぷっと吹き出す。

きっ、と目を剥いたのは、恐れ知らずのキャロラインだ。流石である。


「失敬。マルグリット嬢。私が貴女と会った時には、まだその様な眼鏡ではなくってね。とても綺麗な女の子だと、覚えているよ」


(え?)


「殿下、シャ、マルグリット嬢とはご面識が?」

アンリが顔を上げて割り込む。


「うん。彼女は3歳かな。

王宮に、ご母堂様と。母娘そっくりで覚えていた」


(お母様と……)


「マルグリットは古い王家の遠戚でね。貴女のご母堂様は母と仲が良かった……。

いえ、私が思い出し笑いをしたのはね、その母がこの頃、目が悪くて執務に眼鏡が必要なんだ。

それで、私達が〈トンボ様〉と、からかっているものだから…くっくっ」


誰も笑えない。

王太子妃殿下に何て事を。


会長は肩をすくめて、

「……こんなくだけた方だから。

マルグリット嬢、そう固く考えずにやってみないか?」

と、押してきた。


…くだけたって言うより、お喋りな王子よね…

シャロンはキャロラインの囁きが漏れてないかとひやひやする。


「それだけではございません。

私を登用したい要因の一つに、女生徒だという事がございましょう。しかし、私は社交が苦手。女生徒達とは距離がございます。

高学年であれば、尊重はなされるでしょうがまだ3年生。

人望のない私では、力不足でございます」


「その頭の切れ、我々が必要な人材だと思うが」


……石頭本家のアルバーン……

(キャリー、耳打ちしないで!)


「生徒会は学生の自治を守る組織。交渉折衝に、私の様な」

「それだけ滑らかな口なら大丈夫だよ」


オージエがニコニコ言う。

営業用で。


……腹黒会長…

(もう〜、聞こえちゃうってば!)


包囲網から逃れがたいかと、思ったところに、


「無理はいけないですよ。

こんな小さな女の子に」

王子がシャロンを庇う。

「殿下……?」


「ヴィルムと。

貴女の名前を呼んでも?昔の様に」

「は、あ?」

((何、この人、か、軽い!))


ほぼ同じ言葉を心でシンクロした女子2名である。


「可愛かったなあ。手を繋いで庭を案内したんだよ?キラキラした眼でヴィー様と、幾度も呼んでくれたんだ。

うん。君はお仕事より、もっとお洒落や遊びを覚えた方がいい。また王宮に遊びにおいで、シャロン」


ヴィルム殿下は蕩ける様な微笑みでシャロンを見つめる。

シャロンは、真っ赤になってドギマギする。


「と、いう訳だから、会長、彼女は「お待ち下さい!」」


ガタン!と、立ち上がったのは、フラットだ。


「シャ…彼女が入らないなら、私も遠慮させて頂きます」


ん?と、フラットを見遣る。

先程の様なアワアワした感じは消えて、図書館での出会いの時の様に、冷静な表情だ。


「アンリ。君は私の側近だよ?」


「私も生徒会には興味はありません」

「それはオージエやアルバーンに失礼だね」

「先輩方から学ぶ事は多くあります。殿下を支える立場として今後お付き合いして参ります。ですが」


アンリは、大真面目に言い放った。

「これ程の知識、これ程の才覚、世間知らずの私は出会った事がありません。しかも女性。

こんな小さな愛らしい女性が……

これ程の才媛を逃すような胡乱(うろん)な生徒会では、私の力は必要ないかと思います!」


「「「「………。」」」」


……何、これ、愛の告白?………


シャロンに聞こえたキャロラインの囁きに、我に返ったシャロンは真っ赤に染まる。


パンパンパン!

何だか上機嫌の王子が手を叩く。


「熱弁ありがとう。流石はアンリだ。

シャロン嬢、アンリが居ないと私は駄目王子なんだ。

アンリの為にも、 入って、くれる?」

と、上目遣いの王子が甘くお願いする。


はっ、となったアルバーンが

「マルグリット嬢。

貴女の優秀さは承知している。

その才能で是非、助けて欲しい」

「ブノアは?」

「……フラットが入らないと困る……」


「だってさ。シャロン嬢

あー、アンリが居ないと困るなあ〜」


ニコニコと王子は迫る。

ニコニコと成り行きをオージエが見ている。


……腹黒な笑顔が2つ……


「く、っ、……わ、わかりました!

入ります!……入りますわーっ!」


両の手に拳を作って、ヤケにヤケたシャロンが叫ぶ。

はあはあ。


羞恥にシャロンは真っ赤な上に涙で潤んでいた。

(何、この人達!)


「そ。良かった。

ねえ、アンリ」


笑っていない笑顔で王子はアンリに声をかけたが、

その言葉に、真顔だったアンリの表情が崩れ、

みるみる赤く染まり、

それでも、嬉しそうに微笑んだのを見て、ヴィルム殿下は本当に、本当に、


あはは!

と、破顔した。














ブックマークありがとうございます!

次も読もうと思って頂けるって、嬉しい。


評価下さった方、ありがとうございます。

次も書くぞ、とエネルギーになります。


さて、アンリが腹黒くないので、もうちょっと頑張って成長して欲しいものです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ