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閑話休題 ザビーネの正体

「それでシャロンさんにスライドさせたの?

うっわ、ひっど」


ビアンカが容赦なく切る。

「会長は貴女が気に入ったのでしょうに」


「去りゆく会長に認められても、残るアルバーンと教室も生徒会でもご一緒なんて、嫌よ」


「まあ、アルバーンじゃ貴女とは合わないけどー、だからってシャロンさんに押し付けるなんて」


キャロラインはじっとりとしたビアンカの目線に、たじろぐ。


「でもね、シャロンさんにとっても、これはチャンスだと思ったの。

未だダンブルグ嬢のターゲットはあの子よ。ランチルームの一件で、ローラン贔屓を隠しもしなくなってるし。なりふり構わず攻撃してくるかもしれない。その時に年下のあの子に必要なのは、肩書きだわ。


それに、初めて私に抗議に来た時の迫力と理路整然とした演説。

まさに、アルバーンとシンクロするわ。まだ3年生なのに、よ?

何だかザビーネのせいで、ぼっちの内気なキャラにしちゃったけど、本来は人の上に立つ人物だと私はおもってるの」


「まあねえ、ランチルームの振る舞いも、反撃の仕方は肝が据わってたわね。ハンケチの家紋で、見事にダンブルグ嬢を引っ込めたのは恐れ入るわ」


「それにね、生徒会という組織が彼女を守ってくれると思うの。

アルバーンは、ちょっと居丈高な権威主義に感じるけど、曲がった事は嫌い。内実が分かれば、シャロンさんの強い味方になると思う」


私にあんなガチガチ男の味方はいらないしねー

キャロラインは、うふふと笑う。


「……そうなると、シャロンさんをどう説得するかよね。

でも、キャリー、貴女がおとつーを捨てないでくれて嬉しいわ。貴女なら生徒会の派閥を使って、女性官僚も可能だったのに」


「似合わないわよ。がっちりした組織で私が我慢できると思って?

子供でいられる時期は短いわ。悔いのないよう、やれる事をやるだけよ」


うん。

と、ビアンカは納得する。

シャロンさんにとっても、キャロラインにとっても、損がないなら。



「ザビーネ、貴女どう思う?……ザビーネ?」



ザビーネは、目を閉じてこめかみを押さえ、ブツブツ何やら呟いている。


「「ザビーネ!」」

「ひ、やっ、はい!」


びくっと美人の変人がたじろぐ。


「どうしたの?悩み事?」

「うー、ん。それがねえー」


何時ものキャロラインの部屋で、ザビーネは普段着ドレスでペタンと床に座っていた。足を組んで片方の指で床に何やらくるくると図を描きつつ。


「……ほら私って、転生者じゃない?」


今更の告白である。


エラント国は、異界からの転生が稀ではないらしい。

転生といっても様々なようで、前世の記憶が全く現世で役に立たず、ひっそりと生きている者。

順応できずに死んでいく者。

知識を活かして活躍する者。

中には、自分の力を過信して、世の中のお騒がせ者になる場合もある。


エラント国の産業発達に寄与する者のおかげで、転生者だからと咎人になる事はないが、転生がわかり次第、国家に素性を把握される。


柔らかな監視と言い換えてもいい。


だから、転生者は、密やかに自分を隠しているのが大半である。


ザビーネは違った。

前世、余程おめでたい性格だったのか、

「やったー!ラッキー!

推しを愛でるぞー」

だの

「はっ、男爵令嬢?

まさかのヒロイン?

この容姿はないわー

じゃ、モブ?

目出度い!」

と、僅か九歳でのたまわり、自ら


「お父様、わたくし、転生者ですの!お役所にそうお伝え下さいまし。モブですから実害はございません。前世のチートもございません。毒にも薬にもならない転生者でございます!」

と、言って、父親を泣かせた。


更に、

「ご安心下さいませ!

せっかくお父様お母様から遺伝したこの容姿、しっかりお家のために良き結婚をし、親孝行させていただきます。

世渡り上手な転生者!

それが私でございます!

ですから、このザビーネ、乙ゲーの知識を駆使し、天衣無縫な学園生活をする我儘をお許し下さいませ!」


と、のたまわって、更に父親を泣かせた。


役所は、面談し魔術師にも観てもらったが、

〈毒にも薬にもならないケース〉

と裁定し、ほぼ放置となった。


さあそれからザビーネの進撃が始まる。


入学式には、遅刻して目立ち、

高位貴族の子息に、タメ口を叩き、

木登りして、イケメンに抱っこされ、

ネコを抱き、引っ掻かれ、


そして


「うん!やっぱりヒロインじゃないわ」


と、言った頃には、象牙の肌と艶やかな黒髪と、すらっとした四肢、整った顔立ち、そして、魔力のように惹き付けられる濡れる黒い瞳で、


かなりの男子生徒を籠絡していた。


そのさっぱりとした性格と変人ぷりで、幸い婚約者の恨みを買うことなく、男たちは

《女神の容姿に、女将さんの性格》

という、面白く付き合えるザビーネと、男女の仲とは異なる親睦を深めていた。


ザビーネ親衛隊である。


そして、キャロラインとビアンカが入学し、女子寮に入ると、

前述の通り、ビアンカの美少女っぷりに狂喜乱舞し、

キャロラインの竹を割った性格と頭の回転の良さに惚れ、

おとつーメンバーが揃ったのだ。


5年生の中だけでなく、高等部にも彼女に一目置く者もいる。

学園の特異キャラだが、憎めないし、仁義を通すし、身分の上下関係にも如才がない。

流石世渡りできる転生者である。


「転生が何に関わるの?」


「うん……私のカンが……

どうしても言うのよ……

シャロンちゃんが、ヒロインだって」


「は?」「ん?」


ザビーネの表情は真剣だ。


「誤差以上の齟齬はあるのよ。

シャロンちゃんは、伯爵令嬢。

決して低い身分じゃないし、

ドジっ子じゃないし、

実は魔力が〜ってわけでもないし」


「だから?」


「でも、私のカンが言うのよ!

生徒会!

もしかしたらシャロンちゃんは、役員全員攻略するかも!

そして、エルンスト王子も!

んで、悪役令嬢と衝突するのよ」


「……確かに、ダンブルグ嬢からは、嫌がらせがあるだろうけど」


「エルンスト王子は、生徒会から離れるでしょ?

オマケに、あの石頭とブツブツ唱えるブノアよお?

籠絡したって、ダンブルグ嬢に実害ないじゃない」


待って、待ってと、記憶を辿って指を動かすザビーネ。

と、

ぴた、と人差し指を止めて、


「キャリー。さっき言ったわよね。アルバーンが、キャリーの他にもう1人考えているって」


「ええ。ブノアが多忙だからと」


ビアンカも頭をフル回転させる。

「ちょっと待って。高位貴族で、4年生以下となると……」


「フラット侯爵子息、3年生

マルベル侯爵子息、1年生


伯爵子息だと、4年生に後5人、

3年生には、うーんと、7人。

以下は、2年に6人、1年5人」


指を折って唱えるビアンカにザビーネは頭を振る。


「ううん、もっと……彼女がヒロインなら、王族のはずよ」

「居ない居ない。第2王子は…」

パン!とビアンカが手を打った。


「いる!来る!

ヴィルム王子が、ナダルカンド国から!」


ザビーネも、手を叩く

「それよ!

第2王子が、留学から帰って来るのね!」


「ええ。私たちと同じはずよ。

秋から転入すれば」

「即、兄王子の後を継ぐ!」


居た、居たわーっ!と、手を取り合って喜ぶビアンカとザビーネ。


((……ん?))


「あ」「え」「は?」


思考が固まった3人の中で、ザビーネが真っ先に喚く。


「シャロンちゃんがヒロインだったら、攻略対象は、ヴィルムお、おーじーぃ??」


「「ステイ!」」

ビシ!



「…婚約者(ローラン)お目覚め作戦は

どうなるのよ!

あの子を何処に持っていくつもりよ!」


生徒会にシャロンを売った癖に、

転生親友に思いっきり乙女通信でハリセンするキャロラインであった。




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