霧雨の天使たち 8
道すがら、あさみは那子の事や遷の事について改めて話をした。
「なんか私って男運が無いんですよね。普段の行いが悪いんでしょうか?」
あさみは自分で言って苦笑いする。だが、りりすは茶化したりはしなかった。
「大丈夫よ、あさみちゃんは可愛らしい女の子なんだから。タイミングの問題だったりすると思うわ。だからめげないで頑張ってね」
「でも、りりす先輩って理想的な彼が居て本当に羨ましいです。兵藤先輩って優しそうですよね」
何気なくあさみは言ったが、急にりりすの顔が曇った。少しうつむいたりりすの顔は、影が差して、あさみからはあまり表情が見えない。
「えぇ……。でも、優しすぎるのよね、彼」
「でも、優しくない人よりはいいと思うんですけど……」
りりすの様子がおかしい事に気付いたあさみは、言葉を慎重に選ぶ。りりずは相変わらずうつむき加減のまま、歩いていた。
「確かに兵藤は優しいし、私の事も好きでいてくれる。私もそんな兵藤を好きになれると思ったし、実際好きになる事が出来たんだけど」
そこで一旦、言葉を切って、りりすは顔を上げた。深い色の瞳は、どこか遠くを見ている。
「私、どこかで迷ってる」
あさみは何と言って答えればいいのか分からなかった。たぶん、あさみが答えられるようなものでもないのだろう。
「……ふふ、いきなりごめんね。変な事を言っちゃったわ」
りりすはフッと息を吐くと。やっと普段の柔らかい表情に戻った。あさみはホッとする。
「いいえ、そんな事無いです。もともと私の愚痴を聞いてもらってたんですから」
顔では笑って見せたが、心の中は動揺している。りりすと兵藤が上手くいっていないと思わせるセリフを聞き、あさみは言ってはいけない事を言ってしまったのだろうかと少し後悔した。
「妹みたいな感覚で、ちょっと愚痴っちゃったわ」
りりすは舌をちょっと出す。そんな仕草がとても可愛らしかった。
「妹さんが居るんですか?」
「ええ。あさみちゃんとはまた別のタイプだけどね」
あさみは、りりすのような姿を想像する。きっと、おしとやかで姉のように優しいのだろう。敵うはずはない、とあさみは内心しょげた。
「私にも姉が居るんです。でも、りりす先輩と違って高飛車で遊んでばっかりで妹に全然優しくないんですよ」
ここに美和が居たなら、ドングリの背比べと言ったに違いない。
「それは、あなたを信頼してるから素顔を出せるのよ」
りりすはサラッと言う。そんな機転のきくりりすを、あさみはますます好きになった。