霧雨の天使たち 43
「ほれ、着いたぞ」
「ありがと……」
あさみは、少し元気無くゆっくりとシートベルトをはずした。
「これでしばらくシゲルの車に乗る事も無くなるのね」
「あぁ、だけど今生の別れでもないさ」
言いながら、シゲルはあっ、と声を出した。
「そういえば、お前ん家の電話番号を教えてくれるか?」
「電話くれるの?」
「とりあえず照子が出所する情報をつかんだら教えるから」
「あ、そうか、ナンパとかじゃないんだ」
「今さらナンパも何もないだろ。唇を許した仲だしな」
「へ、変な言い方しないでよ! おでこなんか挨拶程度のもんなんでしょ」
あさみは赤くなってシゲルを睨む。シゲルは笑いながら、手帳とペンを取り出した。あさみの電話番号を書きとめた後、自分も何かサラサラと書いて折りたたみ、あさみに渡した。
「これ、俺の住んでるマンションの部屋の電話番号。仕事柄、まっとうな時間には繋がらないと思うけどな。あと、下にあるのがポケベル番号だ。4040って入れて打ってくれればお前ん家に電話するよ。何か困った事があったらかけて来い」
「うん、ありがと」
笑顔であさみは紙を受け取ったが、一瞬の間の後にキッと眉を吊り上げた。
「ちょっと、4040ってヨレヨレの事!?」
「お、洞察力があるねぇ!」
あさみは平手打ちをもう一度叩きこもうとしたが、今度はあっさり手首を掴まれガードされてしまった。あさみが手首をほどこうともがいていると、シゲルは屈託の無い笑顔を浮かべた。
「やっぱり、笑ったり怒ったり表情をコロコロ変えるのが一番お前らしいな。元気でやれよ」
あさみは、力を込めるのをやめ、シゲルを見る。
「シゲルも元気でね」
頷いて、シゲルはあさみの手を離した。
「じゃーな」
あさみは軽く手を振って車を降りた。シゲルはクラクションを軽くならしてからアクセルを踏み、ゆっくりと去ってゆく。雨はまだ降り続けていたが、しばらくの間あさみは去っていった方向を見つづけていた。
霧雨に紛れて段々と見えなくなってゆくシゲルの車が完全に消えた後、あさみはおでこに手を当てフッと笑い、マンションに帰っていった。




