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霧雨の天使たち 39

 ふと目が覚めると、目の前に心配そうなシゲルの顔があった。

「……あれ?」

 半分寝ぼけながらあさみが起き上がる。が、頭がくらくらして手をついた。

「おい、まだ寝てた方がいい」

 シゲルはあさみに毛布をかぶせた。事態がいまいち飲み込めないあさみは、ぼんやりと周囲を見渡す。カメラ機材がそこら中に置いてあった。どうやらシゲルの車の中のようだ。

「私、ここで寝てたの?」

「ああ」

「じゃあ、倉庫で私が死にかけたのは夢だったの?」

 シゲルは顔を曇らせる。

「いや、夢じゃない。あの後お前は気絶して、ここに運ばれた。今、皆は警察の実況検分に行っている」

「そう……」

 まだはっきりしない意識の中、ぼんやりとあさみが答えた。シゲルは、そんなあさみの手をそっと握る。

「すまない。やっぱりお前を連れてくるべきじゃなかった」

 見慣れないシゲルの行動に、あさみは瞳に不思議な色を浮かべた。

「私が好きで勝手に行っただけよ。麻薬を抜き取ったのも勝手にやったんだし、狙われるのは自業自得よ」

「でも、お前が居なければ俺は死んでいた。ありがとうな」

 優しい微笑みをシゲルが浮かべる。あさみは、恥ずかしくなってプイとそっぽを向いた。そうしているうちに、皆が車に戻ってくる。

「あさみ! 大丈夫?」

「あさみちゃん、もう起きた?」

「あさみさん、体の具合はどう?」

 口々に皆があさみに語りかけた。

「うん、もう大丈夫よ! 私、そんなにヤワじゃないわよ!」

 ガバッと起きあがってガッツポーズをとってみせる。一同はホッとしたようだった。

「私なんかより、照子さんの方が……」

 言いかけて、あさみは照子の姿を探したが、視界には居ない。美和達は、悲しい目をしてうつむく。目を伏せながら、シゲルが言った。

「照子と彼氏は自首しに警察のところに行ったよ」

 あさみは目を見開いてシゲルを見た。

「そう……。そう、なんだ」

 あさみの心に冷たい風が吹いたような気がした。たった半日程度しか一緒に居なかったが、昔からの友達が居なくなってしまった感覚になる。

「早く警察から解放されるといいわね」

「出てきたら、また一緒にお話したいね」

 美和と美咲の言葉にあさみもうなずいた。

「そういえば警察の人が、私達を送ってくれるって言ってるんだけど、どうする?」

 美咲がふと思い出して言った。

「私はそうさせて貰うわ」

 と美和。

「俺もそうするかな」

 と遷。

「私も警部さんに送ってもらうけど……」

 美咲はあさみに微笑んだ。

「あさみちゃんはシゲルさんに送ってもらったら?」

「え?」

 あさみは美咲とシゲルを交互に見る。

「いいの?」

 あさみがシゲルに訊ねると、今度はシゲルが遷を見た。

「いいのか?」

 遷は少々面食らった様子になる。

「いいですよ。別に俺はいつでも学校で会えますしね」

 最後の部分が少々挑発的だったが、シゲルは肩をすくめた。

「はいはい。じゃあお姫様をお送りしましょうかね」

 シゲルはポケットから車のキーを取り出すと、ふと思いついたように遷に話しかけた。

「遷くん、今度競馬でもしないか?」

「競馬……ですか?」

 遷の目が点になる。

「そう、以前、君が言っていた気の荒い馬、俺もちょっと狙ってみたくなってな。早くお前がジャジャ馬の手綱を取らないと、俺が横から万馬券かっさらうぜ」

 シゲルの言っている意味を遷は理解した。胸がずしりと重くなるが、顔だけは平静を装って見せる。

「事件は収束しちゃいましたから、もうなかなかシゲルさんと会う事も無いでしょうし、俺の方が有利ですけど、いいですよ、競馬しましょう」

 にっこり笑って遷は言った。正面から受けてたつ覚悟はできている。

「言うな、お前」

 にやりと笑ってシゲルは車に乗りこんだ。

「ちょっと、何を遷くんに競馬の話なんか持ち掛けてんのよ! あ、じゃあまたみんな明日学校でね!」

 あさみは、皆に手を振ってシゲルの車に乗りこむ。

 緩やかに走り出したシゲルの車を見送った三人はやれやれとため息をついた。

「ねぇ、今シゲルさんと、かなり際どい会話してたわよね?」

 美和が遷に聞いた。

「あぁ。この会話でもう俺の気持ちがあさみさんに気付かれたな、と思ったんだけど……」

「多分、気付いてないわよ」

 美和が肩をすくめて答える。横で美咲がニコニコしていた。

「だってー、あさみちゃんは多分、自分がじゃじゃ馬だって事を自覚してないと思うよ?」

「あぁ、確かにね」

 あさみが居ないのをいい事に、美和と美咲は言いたい放題だ。

「手強い人を敵に回したかな……」

 顎に手を当てて遷がつぶやく。そんな遷の肩を美咲がポンと叩いた。

「大丈夫だよ、少なくとも美和ちゃんは遷くん派だから」

「俺……派?」

「もう、美咲! いらない事は言わなくてもいいの!」

 美和が赤くなって美咲の口を塞いだ。

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