霧雨の天使たち 23
閑静な住宅街の路地を通り、五人はりりす宅についた。立派な家だが、心なしかひっそりとしている。
シゲルが玄関の呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてから、元気の無いりりすがそっと門を開けて出てきた。
「よう、りりす。何か大変な事になってるみたいだな」
シゲルが気さくな笑顔をりりすに向けた。りりすはしばらく、何が起こっているのかわからなかったらしく、無言で穴が開くほどシゲルを見つめていたが、次第に涙があふれ出し、ありったけの力でシゲルに抱きついた。
「シゲル! ……シゲル、シゲル……会いたかった……」
大粒の涙をぽろぽろと零しながら、声にならない声でりりすがぎゅっとシゲルを抱きしめている。そんなボロボロなりりすを、シゲルは優しく抱き返した。
「ばっかだなぁ、高校生にもなってまだ泣き虫が治らないのか」
口ではそう言うものの、シゲルのまなざしは柔らかだ。
この光景を、あさみは何故か直視できなかった。イライラ、というかチクチクするような感情が沸き起こる。そっと目を逸らしたあさみに遷が気づく。美和も美和で、りりすに対して多少の違和感を感じていた。
しばらくシゲルに抱きついていたりりすだったが、やっと感情の昂ぶりが収まったのか、少し顔を赤くしてシゲルからそっと離れた。そこでやっとシゲルの後ろに居た四人の姿に気づいたようだ。
「あら、私ったら……いやだ……」
少し赤かった顔が、一気に赤くなった。
「実はこいつら、俺の知り合いでもあるんだ。一緒に見舞いに来たんだ」
「そう! …そうだったの?」
りりすは驚いて四人を見る。
「まぁ、ごめんなさい。せっかくいらしたのに……狭い所ですが上がって下さいな」
まだ目を赤くしたまま、りりすは微笑んで皆を家に招き入れた。
居間の豪華なソファに座り、六人はしばらくとりとめのない談笑をした。時折、りりすがシゲルに送る恍惚の視線をあさみは見逃さなかった。そんな視線を見るたびに、あさみの心が少しずつ蝕まれていくような気がする。自分がどんどん嫌な人間になっていくようでイライラしていた。居心地の悪くなったあさみは、すこしお手洗いに行く、と行ってその場を離れる事にしたが、美和も一緒についてくると言ったので、二人で席を離れる事になった。
清潔で綺麗な手洗いの洗面台の前で、美和は言いにくそうにあさみに質問をしてきた。
「あさみ……変な質問するけど、りりす先輩ってうちの部長の兵藤先輩と付き合ってるのよね?」
美和は、さっきのシゲルとりりすのやりとりを見て、違和感を感じていた。いとこ同士というよりは、恋人同士のように見えるような気がしていたのだ。
「うん。でも、きっとりりす先輩の本当に好きな人は……」
そこまで言って、そういえばまだ美和にりりすと勉の裏庭でのやりとりの話をしていなかった事に気づいた。急いで、りりすが振って欲しいと勉に言っていた事を話した。それを聞いた美和は、やっとスッキリした顔になる。
「そう、そうだったのね。あのシゲルさんへの涙、少し親戚に対するものとは違うと思ったのよ。きっと、りりす先輩はシゲルさんが好きなのね」
「そうかな……」
答えるあさみの顔が曇っている。
「でも、りりす先輩は凄く素敵な人よ。あんなシゲルなんか似合わないよ。……似合わない」
あさみは意図していなかっただろうが、声は硬く、冷たかった。
「あさみ、あなたもしかして、シゲルさんの事が……?」
そんなあさみの様子を見て、今までずっと引っかかっていた疑問を美和は思い切ってぶつけてみた。だが、あさみは表情を変えない。
「そんな訳ないじゃない。どうしてあんな奴の事なんか」
ぷいと顔を背け、あさみは居間に戻っていった。残された美和も、顔を曇らせ、うつむいてため息をついた。




