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霧雨の天使たち 21

 署についたあさみはてっきり遷とともに事情聴取を受けるものだと思っていたのだが、別室になってしまった。初めての事なので緊張していたが、隣にいた猪飼が優しく声をかけてくれたので随分と精神的に助けられる。

 あさみは緊張で乾いた喉を潤すために持っていた飴を舐めた。ふと、猪飼にも余っている飴を差し出すと、少し驚いた様子をしていたが微笑んで受け取ってくれる。刑事は怖いというイメージがあったが、この青年は何故か親しみやすかった。

 事情聴取は当日の事をいくつか質問されただけであっさりと解放された。あさみとしても、たまたま死体を発見しただけありで、殺害現場を目撃したわけでもないので、警察側もあくまで参考程度にするのであろう。

 同じタイミングで扉から出てきた遷に気づいてあさみは声をかけた。

「遷くんも今終わったの。何だか思ったよりあっさりしてたわね」

「あぁ、カツ丼とか出されるのかと思ってた」

「私も思った! ちょっと食べてみたかったんだけどな」

「じゃあ今度二人でカツ丼食べにいこうか?」

「それもいいかもね!」

 あさみと遷は開放感に浸りながら警察署の入口ロビーまでやってくる。ロビーのソファーには美咲と美和が座って二人の事を待っていた。

「あ、二人ともお帰りー!」

 美咲が手を振る。

「一体どんな感じだった?」

 あさみ達は、色々喋りながら警察の正面玄関から出ていくと、玄関前では、何局かのテレビ取材が入っていた。来る時は裏口から入っていったので、四人は初めてこの報道陣の存在を知った。

「へぇ、U町の殺人事件の報道をしてるのかなぁ?」

 きょろきょろと美咲があたりを見渡す。

「でも、この間の事件よりは数が少ないみたいね」

「あの時は、芸能レポーターも入り混じってたもの」

「まぁ、レポートというよりは取材って感じがするよな」

 四人が、そ知らぬ顔で取材陣の間を通りぬけようとしたその時、ふいに列の最後を歩いていたあさみの袖をグイッと引っ張る者が居た。

「ちょっと、何すん……」

「お前、あさみだろ」

 聞いた事のある声に、あさみの心がざわめいた。自分の袖をつかむ手から肩へ視線を上げ、顔を見ると、そこには露木シゲルが立っている。あさみは心臓をぎゅっと掴まれたような気がした。

「あんた……! 露木シゲル!」

 あさみの声に、前を歩いていた三人が振りかえる。

「あっ、本当だ!」

「カメラマンさん、お久しぶり……」

 美咲と美和は、それぞれ違う表情でシゲルを見た。遷は面識が無いので、よく事態がわからないようだ。

「ちょっと、今あさみって呼び捨てにしたでしょ! ドサクサに紛れて失礼な奴ね!」

 あさみの怒声を軽く流してシゲルは皆にひらひらと手を振った。

「みんな久しぶりだなぁ。って言っても、一ヶ月くらいしか経ってないか」

 そう言ってから、改めてシゲルはあさみを見る。

「じゃあ、これからはヨレヨレリボンって呼べばいいのか?」

「……あさみでいいわ」

「シゲルさん、一体こんな所でどうしたんですか?」

 美和が質問する。

「それはこっちのセリフだ。俺はU町事件の取材で来てるが、お前らここで何してるんだ?」

 四人は微妙な顔をする。それを見たシゲルはピンときたようだ。

「ははーん、やっぱり事件に絡んでんのか。また君かな?」

 シゲルは美和を見た。だが、美和は横に首を振って、あさみを指差した。

「へー、今度はお前か。妙なローテーションが回ってるな」

「ほっといてよ」

 あさみはむくれる。だが、言うほど悪い気分ではなかった。

「どうだ、また情報交換でもしないか?」

 シゲルは交渉に入ってきた。そら来た、とあさみが鼻を鳴らす。

「そんな簡単に情報を漏らす訳にもいかないわよ。何も話さないわ」

 本当は事件に関しては大した情報は持っていないのだが、どうにかして奢らせようとあさみは頑張ってみるつもりだった。だが、そんなあさみを美和が止めた。

「ちょっと待ってあさみ。今回はちゃんと話をした方がいいと思うの」

 ためらいつつも、真剣な顔で美和はシゲルを見た。

「あの……亜麻りりすさんという人を知っていますか?」

 美和の言葉に、シゲルの表情が固まった。

「お前、なんでりりすの事を……?」

 見たことのないシゲルの表情に、あさみが心臓が嫌な鼓動を鳴らし始めた。真面目な表情で呼び捨てにするような関係なのだろうかと疑ってしまう。

「今回のU町の事件にはりりすさんと双子の妹さんが関わっている可能性があるんです。こちらも話をしますから、あなたの話も聞かせてもらえますか?」

「……あぁ、いいだろう。とりあえず場所を移すか」

 さっきまで見せていたおちゃらけた顔とは全然違う、きりっとした表情でシゲルが言った。

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