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霧雨の天使たち 16

 休みになり、四人はりりすの居る三年E組に向かった。教室内では、りりすがいつものような優しい微笑みを浮かべて友達と一緒に話をしている。

 ごくりと唾を飲んだあさみは、思い切って扉を開けた。

「りりす先輩! ちょっといいですか?」

 三年生が一斉に扉の方を見る。上級生の目が集中しているのであさみは少々居心地が悪かった。

 あさみの呼び声に気付いたりりすは、友達に断りを入れ、あさみのところまでやってくる。

「あさみちゃん、どうしたの?」

 話し掛けてきたりりすは、あさみの知っている優しい先輩のりりすだった。

「あの、ちょっと話があるんですけど、ここではしづらいので裏庭まで来てもらえませんか?」

「ええ。一体なにかしら?」

 あさみ達はりりすを伴って階段を降りてゆく。途中、あさみの友達として美和、美咲、遷を紹介した。遷は昨日の夜にりりすと遭遇していたはずだったが、りりすは「はじめまして」と挨拶をする。各々が疑問を抱えつつ、一行は裏庭までやってきた。

 他に誰も居ないのを確かめると、あさみはりりすをじっと見た。

「あの……先輩。昨日の夜九時前くらいにU町のゲームセンターに居ませんでしたか?」

 一同は、りりすの反応を用心深くうかがったが、少し首をかしげると首を振った。

「いいえ、居ないわよ。その時間は家に居たわ」

 ホッとあさみが一息つく。他人の空似だったと思いたかった。

「私、昨日の夜、ゲームセンターでりりす先輩とそっくりな女の人と出会ったんです。でも、少し怖い雰囲気で、チンピラに追いかけられてたみたいなんですけど……」

 あさみの話を聞くりりすの顔色が一気に青ざめてきたのを、美和は見逃さなかった。鋭い瞳をして、りりすに声をかける。

「りりす先輩、何か心当たりがあるんですか?」

「私に似た人……」

 りりすの声が掠れている。

「あさみちゃん、照子を……妹を見かけたの?」

「え?」

 意外な答えに、四人は目を見開いた。

「お願い! もっと詳しく教えてもらえないかしら? 照子は、照子はどうしていたの?」

 あさみの肩をりりすがグッと掴んだ。驚いたが、あさみはたどたどしく説明を始めた。ゲームセンターに居た時にりりすにそっくりな人とぶつかり、走ってきた方向に行くと死体があった事――。

 そこまで聞くと、りりすはふらりと倒れこむ。あわててあさみは抱きとめた。細く、色白く、ガラス細工のような身体だった。

「ごめんなさい……ちょっとショックで……」

 りりすの顔から血の気が引いていた。唇を動かすのがやっとのようだ。

「いきなり変な話をしてすみません……。あの、妹さんって?」

 あさみは華奢なりりすの体を抱えながら訊ねた。

「照子はね、私の双子の妹なの。ちょっと悪い人たちと付き合っていて、ここ数ヶ月は家にも帰ってなくて……心配で心配で仕方なかったんだけれど、まさか殺人なんて……」

 りりすの体重が、急に重く感じられた。かくりと首をもたげ、りりすは目を閉じてしまう。どうやらショックのあまり気絶してしまったようだ。

「りりす先輩!」

 あさみはりりすを揺さぶろうとしたが、美和が止めた。

「しばらく、そのままにしておいた方がいいわ」

「……そうね」

 あさみは、りりすを抱いたまま、近くの縁石に腰をおろした。

「俺達が見たのは、りりす先輩の妹さんだったんだな」

 遷がつぶやいた。

「そうね。そっくりだったわ。……でも、この事、りりす先輩に話すべきじゃなかったのかな……」

 あさみは、瞳を閉じたりりすの顔を見ている。その疑問には、誰も何も答えられなかった。答えなど、見つかるはずも無かった。

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