4.計画の第一歩
※今回のお話しには、少々不謹慎な表現、吐血表現などが含まれています。
あまり過激なものではなく、あくまでギャグ的表現ですが、不快になられる方はお戻りいただくかこのお話を飛ばしてください。
自分で読み返して「あ、ここまずいかもしれない」って思ったときには書き終わってて、直すに直せませんでした。申し訳ないです。
「ん? 行商人なら昨日帰ったっち、新しい新聞が来るがや、1ヶ月後ばい」
「えぇぇえええーー!! そんなぁ~……」
「オイラの計画がぁ~……」と項垂れているピオを見ながら、ピオの父親であろう人物の前を行ったり来たりする。
ふむ……どうやら今のところ、ピオ以外の人物に私の姿が見えることはないようだ。幽霊のような姿だし、霊感があるやつは見えるとか、そういった類いかもしれない。そこは、要検証……といったところか。
自身の現状について調べる事をリストアップしていると、ピオが不貞腐れたように立ち上がった。
「うーん……そうなると、何をすればいいのか、まったくもって手掛かりがなかと。やることもないし……」
「やることがないっちや? だったら、料理酒と、今朝庭で取れたリンゴを、おばあちゃん家に持って行ってほしいんだがや」
「ん! その程度なら、お安い御用ばい!!」
やることが出来て満足気な表情を浮かべたピオは、やる気充分とでもいうかのように、敬礼のようなポーズをとった。それと同時に、頭の触覚のようなものもピーン!と伸びる。
……その触覚、気になっていたが、お前の気持ちに反応して動くけれど、まさか痛覚とか繋がってないよな?ただの髪の毛の一部だよな?いや、髪の毛の一部であってもなくても、どちらにしろ感情で揺れ動くこと自体が奇怪だが。
ご機嫌なまま、家の食卓につき、母親が籠に積めているであろう料理酒とりんごを待っているピオ。
こいつ、元々の目的である、私の手がかりを探すということを忘れていないか??
……まぁいい。見るからにこいつは頼りにならなそうだし、当てにしない方がいいな。
「ピオ~。はい、料理酒とりんごばい。いいがや? 道中で食べちゃダメばい? あと、寄り道をするのも。すぐ近くだから、そんな心配ないと思うけど~……」
「もぉ~……大丈夫ばい! オイラだってもう、子供じゃなかと?」
「そういって、前だって寄り道しちゃったばい~? ママ、心配で……」
「かっちゃんはいつも心配症ばい。大丈夫! 大船に乗ったつもりで待ってるばい!」
自信満々に胸を叩くピオ。それでも、あまり頼りにならなそうに見えるのは、付き合ってきた月日が違うからだろうか。……いや、違ったとしても、こいつには不安を抱きそうだな。
冷めた目で眺めつつ、食卓についたピオがご飯を食べ終わるのを待つ。今は朝の時間帯らしい。こんな朝っぱらからあんな不気味な薬を作っているピオは、やはりおかしい。
食べ終わったピオは、食器を流し台に戻し、パタパタと玄関方向に走っていく。もちろん、片手には料理酒やりんごが入ったバスケットを持っている。
玄関への階段をあがり、くるりと後ろを向くと、手を振った。
「いってくるばーい!」
笑顔で手を振るピオに、不安そうだけれど手を振る母親と、同じような笑顔で見送る父親。なるほど、血の繋がりを感じるな。
外に出たそこは、歩く道以外が草が生えた場所。よく見ると、その草は薬草ばかりだとわかる。ピオの家が木の中にあり、ちらほら見える木や植物なんかにも扉が付いているところから、どうやらこの村は、植物と共生して生きているらしい。
薬草作りなんかは困らないだろうから、そんな環境が、ピオのような天才を生んだのだろう。……天才、だとは認めたくないが。
少し歩くときのこの家が見えてきた。その目の前で止まったところをみると、どうやらこの家が、ピオの祖母の家らしい。
「コンコン!ばっちゃんー!あーけーてー!」
ノックしているにも関わらず、擬音語を口にするという頭が悪そうな言動を呆れた目で見ながら、中から人が出てくるのを待つ。
しかし、待てども待てども、目的の人物らしき人はでてこない。本当にここがその祖母の家なのか?流石に、家を間違える程馬鹿じゃないよな?
「……あー、もしかして。ばっちゃんまたやったかー?」
困ったような顔をしながら、扉を開ける。鍵がかかってないんだったら、最初から入ればよかっただろうに。そう思いつつ、何も出来ない私は、そのままついていく。
階段を降り、リビングである場所にあったのは……
赤に濡れた、倒れた老人の姿だった。
……いや、これまずくないか?普通の生活でこんな人物出てきたら、事件だろ。
それにも関わらず、ピオはのんきに肩を揺さぶり、老人を起こそうとしている。それ死んでるだろ。
『おい、ピオ。どこかに知らせなくていいのか』
「よかよか。いつものことばい」
『いつもの事なのか……? この村は結構物騒だな……』
「暢気な村がや~。危険なことなーんもないし。じっちゃんばっちゃんは多いっちや、別に死人も出とらんし」
『いや、目の前目の前』
「ん、んぁ……」
『生きてるのかよおい』
ピオの揺さぶりにより、老人は真っ赤に濡れたまま、難なく起き上がった。流石に偉大な悪の魔法使いであろうとも、これが日常的な風景なのが納得出来ない。
老人らしい、ゆったりとした動きで立ち上がったその人物は、ピオやピオの母親が浮かべていた笑みにそっくりな笑顔で、ピオに微笑みかけた。
「おや、ピオや。どうしたばい? こんなところで」
「ばっちゃん! おじゃましとるばい。かっちゃんからのお届け物ばい~! 今日は寄り道しなかったがや!」
「おやおや、そうなのかや。それは偉かったやが~。いつもありがとばい、ピオ」
「これくらい、ちょちょいのちょいの、アサゴハンマエだばい!」
普通で見れば、和やかに話す祖母と孫なのだが、如何せん衣服に付着している赤いものがそれを全て台無しにしている。なんなんだあれは。あと朝飯前だ馬鹿。
のほほんと能天気に会話をしていたピオは、そうだ!と言わんばかりの顔をした。
「ねぇねぇばっちゃん! オイラ、聞きたいことがあるばい」
「ほほ、そうかい。なんでも聞いてゴバァッ!」
突然、ピオの祖母が吐血した。
……今、本当になんの前触れもなかったよな??予兆すらなかったよな?大丈夫かこれ!?
目の前の人物がいきなり吐血しては、さしもの私も冷静ではいられない。だと言うのに、ピオはしょうがないなぁとでもいうような顔をしている。
「もぉ~ばっちゃんまたー?」
「いや、またとかいう問題ではないだろう?? 身内が吐血したんだぞ。もうちょっと焦ったりとかはないのか!?」
「いつもの事やき、大丈夫ばい~。あ、ほらほらばっちゃん。口元拭うやが、こっち向くばい」
「あぁ、いつもすまなかと」
何事も無かったかのように口元を拭うピオと、拭われるその祖母。しかし、飛び散った赤色が何かがあったと物語っている。
……この家族、おかしくないか?
「それで、さっきの話だがや、ばっちゃんは、悪い魔法使いがいるところって、しってるばい?」
「悪か魔法使いばい? はて……そんな話、聞いたことなかや」
「んぁ~……そやか」
いや、普通に会話してていいのかこの状況。……まぁ、私にはどうすることも出来ないんだが。
だが、やはり情報収集1発目で貰えることは、流石にないか。今後に期待、だな。こいつに期待するのが不安だが。
「……あぁ、やが、もしかしたら、村の魔女さんやったら、知っとるかもしれんばい」
「『…………村の魔女?』」
***
あの人の良さそうな笑みに見送られながら、俺達はピオの祖母の家を後にした。
……最後の最後まで、血濡れだったけどな。
そうして俺達は、村はずれにある、山へと入る一歩手前にある、魔女が住む共同墓地を目指していた。
『しかし、共同墓地なんてものがあるんだな』
「あり?共同墓地って、一般的じゃなかと?てっきり、普通やがと……」
『あー……まぁ、私は少々生まれた場所が特殊だったからな。聞き慣れないだけだ』
生まれも育ちもスラムで過ごしていたため、死者を弔うという習慣がなかったからか、物珍しく感じてしまったが……そうか、普通の奴らはそうなのか。
幼少期をスラムで過ごし、その後は魔法に没頭し、最後には悪に手を染めた私だ。他人と必要以上に関わらなかったし、興味もなかった。
そのため、少々一般常識が欠けているようだ。昔はそれでよかったが、今ではそれがバレてしまうと、ここの私との接点を探られる可能性が今後出てきてしまうかもしれない……。
ボロは出さない。出しても最小限に留めたい。そのためには、これからの発言ももう少し気をつけるべきだろう。
「魔女さんって、どないな人やがろ~」
『……この村出身なのに、知らないのか?』
「そもそも、共同墓地の家に人が住んでることすら知らなかったがや。あそこはずっと、空き家だっち言われてたばい」
『ふむ……ピオの祖母の話を聞くに、この村にずっといるみたいだがな。もしかしたら、魔法かなにかで認識阻害等をかけていたのかもしれない』
「はわ~……そんな凄い人がこの村にいるがやか……知らなかったばい……」
こいつはダメだ。あてにならない……。
ピオの祖母の話をまとめると、この村は山に囲まれているが、その山を管理する薬事師の魔女が住んでいるそうだ。その魔女は、薬のことならなんでもわかるエキスパートらしい。
悪い魔法使いを知っているかはわからないが、魔女という存在は総じて私達より長く生きている。そのため、何かわかるのではないかということで教えてくれたらしい。なんでピオが村にいるはずの魔女を知らないのかは知らん。
ちなみに、魔女とは長生きした魔法使いのことで、その中でも何かを極めた魔法使いがそう呼ばれる。今回の例でいえば、薬、とかだな。まぁ、便宜上魔女と呼んでいるだけで、男でもそういう存在はいる。それらも魔女と呼ぶが。魔女というのは、性別を表しているのではないのだ。
「あっ!あそこばい!」
指をさして声を上げたピオが、とある空間へと走り寄っていく。それに引き寄せられるように、ふよふよと後ろをついていく私。なかなかこの感覚は慣れない。
違和感を携えながら私たちがついた場所は、昼間だというのに鬱蒼とし、仄暗く、今にも引き摺られそうな空気を醸し出しているその場所。
「ここが、共同墓地ばい!」
共同墓地だった。