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猛毒を飲み干して  作者: 榎本あきな
1【ミックスジュースを飲み干して】
3/6

3.心残り退治

「ちこっと待っとってな」といったピオは、ズボンのポケットから杖を取り出した。

 ふよふよと浮かびながらそれを眺めていると、呪文の詠唱をせずに、浮遊呪文を行使し始めた。辺りに散乱していた空の瓶や、隅に置かれた何に使うかわからない材料の入った瓶が、浮いていく。

 瓶のラベルを一切見ないで、何か別の作業をしているピオは、適当に杖を振る。すると、瓶が意志を持つかのように、するりと、所定の棚の位置に収まっていく。

 飲んだ者の願いを叶える魔法薬の作成に、高度な浮遊呪文を無詠唱……しかも、対象を見ることなく指定の位置に置くことができる。魔力を持っていた頃の私ならば容易いが、普通の者ならば十年かけてようやく、といったところだろう。理解力は低そうだが、魔法に対する素質は十分あるだろう。

 未来で死んでしまう運命にあるのが、惜しくて堪らない人材だ。


 私がそうやって考察している間にも、ピオの作業は進んでいく。

 空の瓶を取り出し、みっくすじゅーすの入った大釜の淵を、杖で二回ほど叩く。

 叩かれた大釜は僅かに震えると、口からみっくすじゅーすを吐き出すようにだし、そのみっくすじゅーすは、縮小しながら小さな瓶の中へと入っていった。そして、コルクで蓋をした。

 見るからに、あの小さな瓶では入らない質量だったが……。だが、あの大釜で小瓶一個分ならば、生産数が低いのも頷ける。

 それに、みっくすじゅーすの製作者が複数いるとも思えない。これでは、どうあがいても市場に出回ることなどないだろう。


 杖をポケットの中へ無造作に突っ込み、小瓶を丈の合っていない片袖の中へと仕舞う。

 そうしてから、ようやく、ピオは床に座って私を見た。


「よい、しょっと……。んじゃま、詳しい自己紹介?事情説明?といこか!」

『ん? 自己紹介はしただろう。それ以上、何をするというんだ』

「やて、オイラ達って、あればい。イチレンタクアン?ってやつになるんのや、お互いのこと、もっとよく知らんといかん思うち」


 イチレンタクアンとはなんだ。もしかして、一蓮托生のことか。流石にこう言う言葉はきちんと覚えろ。馬鹿か。

 ……私の協力者になるのだから、これはもう少し知識を詰め込めさせないといけないかもしれない。

 しかし、そうか……正直、どれだけ才能がある人物でも、私にとって他の人間は塵芥と同等だったからな……。

 だが、これからはピオにも一緒に動いてもらわないと、私はどこかへ行くこともままならない。それならば、ある程度事情を話しておいたほうが、今後の行動もスムーズに行けるだろう。

 もっとも、まだ出会ったばかりの彼を簡単に信用できるほど、私は馬鹿ではない。話す内容には嘘や虚構を混ぜさせてもらおう。

 だが、どこから話したものか……。


『そうだな……。まずは、事情を話す前に私の生前について語ろう』

「えー……ユウさんの話、えらい長そうたい……。……それに、ユウさんの態度って偉そうやから、自慢話入って面倒こくなりそうばい……」

『事実を言って何が悪い。それに、私の事情とも関わりがあるんだ。私の協力者になるのだから、きちんと聞け。……まぁ、そんなに語れるようなことはないがな……』


 事実、本当に話せることは少ない。

 なんせ、私は優秀ではあったが、悪事とともに生き、そして悪事とともに死んだようなものなのだ。その部分を話してしまったら、善良な魔法使いであるならば絶対に協力してくれないだろう。

 悪事を止めるためと言えば、なんとかなるだろうが……。それでも、私の印象が最底辺に落ちることは間違いない。これから先の行動で、私の言葉を信じてくれない時が訪れるかも知れない。仲をある程度良好に保つことは、今後の為にも必要だ。


『まず、前提としてだが、私はこの先に起こる未来を知っている』

「……えっ!?!? それば、先見の能力があるっちゅうことと!? え、じゃあ、オイラが将来、どんな風になっちょるのかもわかるばい!?」

『落ち着け!! 私がわかるのは、私の近くにいた存在と、この世界全体のことについてだけだ。お前の将来のことなどしらん』

「え~……。オイラの将来がわかるんなら、オイラが将来ムキムキマッチョになるかどうか知りたかったんに……」


 ピオが、未来で大絶賛されたみっくすじゅーすの生みの親であるのではないかとは予想している。

 しかし、それが本当ならばピオは未来で死んでいる。そんなことを伝えるわけにはいかない。第一、私は未来のピオの姿を知らないからな。

 あと、ムッキムキの協力者は私が嫌だから、もしなろうとしても止めるからな。


 しかし……そうだな。未来から過去へ来たことを話してもいいものか迷っていたが、先見の能力持ちだと誤解してくれるなら都合がいい。このまま、先見の能力で未来を予言したが、殺されてしまった過去を遡っていない(・・・・・・・・・)魔法使いとして話そう。これから有名になる、邪悪なる者『スコーピオ』とは別の人物だと思わせよう。

 先見の能力持ちだと、私は肯定していない。嘘は、言っていないだろう?


『お前の将来はしらんが、私はこの先の未来を知ってしまった。邪悪な魔法使いが、この世界の殆どを焼き尽くしてしまう未来を。それに立ち向かう者を。……知ってしまったからには、止めるしかない。だが、その前に私は死んでしまったんだ……』

「……なんか、凄い胡散臭か……。ユウさんがそんなシュショウな心の持ち主やとは、とうてい思えんちや……。……それに、ユウさんの手伝いすんのは、なんか癪だぎ……」


ぐ……。さっきはこいつの勘に助けられたが、今度はこいつの勘によって追い詰められるのか……。勘がいいと言うのは、案外厄介だな……。

確かに私は、もし未来が本当に見えたとしても、止めることなどしないだろう。したとしても、突然乱入して掻き乱すか、自身の力を試す為だけに気まぐれにどちらかの味方につく程度だ。そんな殊勝な心掛けは持っていない。


『だが、いいのか?』

「何がと?」

『私にも、正直何故私がこの姿になったのかわからない。唯一の心当たりは、先程いったこれだけだ。この未来が変われば、もしかしたらお前から離れることができるかもしれない。お前も、この先の人生私と四六時中一緒は嫌だろう。私だって嫌だ』


 まぁ、私がきれる切り札といったら、これしかないな。

 この少しの会話でなんとなくわかったが、私とピオの相性はよくない。そんな相手とずっと一緒にいるのは嫌だろう。私が。……ピオも、同じことを思うだろうが。

 一緒にいるのは嫌だ。でも、離れるという選択肢がない。唯一可能性があるとすれば、私の話に協力することだけ。私並みか、私以上に頭がよければ、他の方法を考えつくのかもしれないが、“殊勝”を使いこなせない頭で考えつくとは、到底思えない。

 そして、案の定返す言葉もない様子のピオは、私の言葉に従うのが嫌だという感情を全面に出しながらも、しぶしぶ頷いた。


「……確かに、オイラ達が離れることができそうなことは、それしかないがや。……しょうがないから、ユウさんのその心残りってやつ、手伝ってあげるちや」


 大分上から目線なのが気に食わないが……手伝ってもらう側なのだから、それくらいは飲み込んでやろう。この体じゃ、何もできないしな。

 ひとまず、私たちがやることは“邪悪な魔法使い(私)を止める”ことに決まったが……。さて、何からやればいいのやら。この年は……確か、生まれ育ったスラム街にいたから、そこに向かえば、私に会うことはできるだろう。


「手伝うって言ったからには手伝っちゃるけんど……何からすればいいと?未来が見えるって言ったって、そいつが今いる場所はわからんばい?それに、そいつがどんなやつかもわからんしなぁ……。やったら、ここは情報収集からやと?」

『あ、ああ……確かに、そうだな……』


 なんなんだこいつは……。頭が悪いと思ったら、有能なところを見せて……。もしかしたらこいつは、興味があることには頭が働くタイプなのかもしれない。

 自分の生まれた国の言葉なのだから、母国語くらい興味をもてといいたいが。イチレンタクアンは酷い。


「でも、そうなるとどこに聞けば……そやっ!!」


 妙案が思いついたらしいやつは、袖で口元を隠し、にししっとよくわからない笑い方をした。口元は見えないが、目が弧を描いているため、笑っていることが丸わかりだ。

 にやにやして、私にその考えを伝えるべく、やつは口を開いた。


「新聞をみればよかと! そんなにわっっるいやつなら、なんか悪さとか起こしたりするがや? ヒノナイトコロニケムシハタタズ?ってやつばい!」

『それを言うなら、火のないところに煙はたたずだ。だが……確かにそれは一律あるかもしれない』


 正確な場所を教えたら怪しまれる。かといって、断片的に教えてもたどり着けないだろう。ここはこいつの、馬鹿だけど阿呆ではない頭を信じて、辿り着けるように導くのがいいだろう。

 私も自分の中である程度のを方針を決めると同時に、ピオが心得たように頷き、立ち上がる。


「それじゃあ、ユウさんの心残り退治、頑張るっちよぉー!!」

『あぁ』

「明後日ぐらいには離れられますよぉーーにっ!」


 いや、多分それは無理だと思うぞ

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― 新着の感想 ―
[一言] 新聞を見れば、日付が一目瞭然ですね! そうすれば、いろいろと逆算とかできるわけですし。 さて、鬼と出るか凶と出るか。
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