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妹が好きなら妹以外を想っちゃだめですか?  作者: しりうす
Please bless this wonderful destiny !
9/46

九話

 牡丹とさつきとの昼食が終わり、悠は教室に帰ってきた。昼休みは未だに継続中だ。まだ十分近くある。


「悠君」

「芽依? どうした?」


 自席に座って休憩していた悠のもとに、芽依がやってきた。その表情を見るに、心なしか少し怒っているようだ。

 そのことに気付いた悠は、芽依に問いかける。


「どこに行ってたの?」

「屋上」

「……美人な先輩二人との昼食デートは楽しかったですか?」

「芽依本当にどうした? 何かおかしいぞ」

「……ばか」


 話しかけてきたときよりも、怒りの感情がわかりやすくなっている。これは何か不味い事でもしたのかと思った悠は、一つの結論に至った。


「そうか、芽依も一緒に食べたかったんだろ?」

「ふぇ⁉」

「じゃあ明日から一緒に食べるか」

「ええ⁉」

「ん? いやだったか?」

「え、あ、いや……うん、一緒に食べたい」


 少しもじもじとした態度で答える芽依。いつの間にかクラス中に甘い空気が発生していた。発生源は当然悠と芽依の二人。


 その空気に当てられたクラスメイト達は、一瞬視線を交錯させ、一言も言葉にせず条約を結んだ。すなわち、あの二人の行く末を邪魔せず見守る、という条約を。


 そのことを知らない悠と芽依の二人は、さらに話を続ける。


「明日私、どうすればいいの?」

「ん? 俺の席の近くにいればいいんじゃないか?」

「お弁当は?」

「? 当然、持ってくるだろ」

「……悠君の分、私が作ってきてあげようか?」

「いや、大丈夫」

「……そう……わかった……」

「……あーいや、作ってきてもらってもいいか?」


 悠が作ってこなくていいと言った瞬間、芽依がしょんぼりとしてきたので前言を撤回する。

 因みにクラスメイト達の気持ちは一致していた。


「「「「「(こいつら絶対既に付き合ってるだろ……)」」」」」


 昼食を一緒に食べる約束をし、弁当を作ってきてもらう悠と、作ってあげる芽依。その構図はどこからどう見ても熱々ラブラブなカップルだった。


「うん!」


 満面の笑みで悠のお願いを承諾した芽依は、鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌に悠の下から離れていった。かと思ったが、急いで帰ってきた。


「悠君の嫌いな食べ物聞くの忘れてた!」

「俺の嫌いな食べ物? 別に入っててもちゃんと食べるぞ?」

「悠君はよくても、私が嫌なの。悠君には好きな物だけ食べててほしいな」

「そうか。まぁ、俺特に嫌いな食べ物とかないんだよな」

「そうなんだ。じゃあ好きな食べ物は?」

「う~ん」

「……それも無いの?」

「いや、ありすぎて選べない」

「あはは、一通り教えてくれるだけでいいよ?」

「そうか? 俺が好きな食べ物だろ? ハンバーグに卵焼きに唐揚げ、それから……」

「悠君、子供っぽい食べ物好きなんだね?」

「子供っぽい言うな。自覚してるんだから」

「あはは、ごめんね~」

「絶対思ってないだろ」

「うん」

「肯定した⁉」


 夫婦漫才を見ているクラスメイト(ほとんど男子)からしたら早く昼休みが終わって欲しかった。女子は昼休みでこれなのだから放課後はどうしているのか気になって仕方がなかった。


 一部からはもう一線を越えたのでは? 将来を誓い合っているのでは? と言った憶測も飛び回っている。しかし誰もそれを否定しない。できるほどの材料を探し集めることが難しい上に、今までの光景を見ていると説得力が尋常じゃないほどあるからだ。


「じゃあ明日、お弁当楽しみにしててね?」

「ああ、楽しみにしておく」

「じゃあね」

「またあとで」


 やっと終わったかと、男子が嘆息し、机に突っ伏す中、女子は早速動き出した。


「芽依~どこまで進んだの~?」

「ふぇ⁉ な、何が⁉」


 条約の内容は二人を邪魔しないこと。事情聴取することは違反ではない。故に女子の行動派は早かった。


 自席に戻った芽依を全員で囲み、芽依を逃げられなくした。副次効果として芽依の様子を悠を含めた男子に見られない。

 さぁ、会場の準備は整った。追及の時間だ。


「どっちから告白したのさ?」

「こ、告白⁉」

「キスは⁉ 口付けはしたの⁉」

「キス⁉」

「もしかしてもう、芽依は私達より一段上の存在になってしまったの?」

「どういう事⁉」

「どこを好きになったの⁉」

「好き⁉」


 女子から矢継ぎ早に投げかけられる質問の嵐。芽依は顔を真っ赤にし、アタフタするだけで答えられない。頭からは湯気が出ているかもしれない。


 それを遠くから見る男子。全員が耳を澄まし、一言一句聞き逃すものかと全神経を集中させていた。


「単刀直入に聞くけど、橘樹君のどこが好きになったの?」

「ふぇ⁉ す、好き⁉」

「違うの?」

「違うよ! ただ、何て言うか……そう! 悠君の事を考えてると、ああしてあげたい、とか、こうすれば喜んでくれるかな、とかそういう考えになっちゃって、それを実行してるだけだよ!」

「芽依……」

「初心なんだ……」

「芽依ちゃん、かわいい……っ!」

「え⁉」

「芽依、よく聞いて。それは……恋だよ!」

「恋? あはは違うよ。だって悠君のこと考えてると苦しくなるもん。胸が締め付けられるような痛み、かな。それなのに恋なわけないじゃん。だって恋って、相手に会いたくて会いたくて仕方なくなるものじゃない」

「「「だめだ、これ……」」」


 満場一致で結論が出た。つまり……


「「「無自覚……っ!」」」


 芽依は超初心だった。という結論で女子は落ち着いた。しかし終わりではない。


「じゃあ次は……」

「「「橘樹君!」」」


 好奇心に動かされている女子の追及の手は止まらない。

 しかし、ここで問題が起こる。


「で、誰が話しかけに行く?」

「「「……」」」


 そう、話しかけづらいのだ。芽依は同性だったからほぼ無抵抗だったが、悠はそうはいかない。芽依が最初話しかけた様子から見るに大丈夫だとは思うが、絶対とは言えない。


 しかももし自分たちが話しかけて芽依が焼き餅を焼いたり嫉妬で妬んできたらと思うと、想像を絶する。まぁクラスが一丸となって行動しているので、グループではぶられたりすることはないだろうが。

 となると……


「……芽依が焼き餅焼く姿、見たくない?」

「「「見たい!」」」


 女子の総意だった。

 そして、『赤信号みんなで渡れば怖くない』精神で、全員で突撃するとこにした。悠への迷惑の考慮? んなもん知るかと。今はそれよりも芽依の焼き餅焼く姿が第一だと。女子の中では言葉にせずとも確定していた。


「ね、橘樹君」

「え、何?」

「橘樹君はさ、芽依のことどう思ってるの?」

「え?」


 突然周囲を女子に包囲され困惑する悠に、一人の女子が尋ねた。彼女の瞳はとても輝いていた。


「芽依の事……?」

「「「「「〝芽依〟……!」」」」」


 悠が芽依の事を呼び捨てで呼んだだけでこの反応。悠はちらりと芽依の方を見るが、彼女は未だに顔を赤くして呆けていてた。

 そしてその視線に気づいた周囲の女子たち。すぐさま話のネタにする。


「今芽依の方見たよね⁉ よね⁉」

「え? あ、ああ、うん、まぁ……?」

「橘樹君も芽依のこと気になってるの⁉」

「ん?」

「察しが悪いなぁ~。橘樹君も芽依のことが好きなの? って聞いたんだよ!」

「嫌いではないな」

「「「「「きゃ~! 愛の告白ぅ!」」」」」

「ちょっと全員で耳鼻科行ってこようか?」

「「「「「それってつまり、『お前らは邪魔だ。俺と芽依の二人だけにしてくれ』ってこと⁉」」」」」

「超訳ぅ!」


 悠の周囲にちゃんと言葉の意味を理解できる女子はいないらしい。助けを求めようと男子の方を見るが、妬まし気に睨みつけてくるだけで誰も手を貸そうとしてこない。

 四面楚歌とはこういうことを言うのかと、悠は実体験から学習した。


「なぁ、そこまでにしてやろうぜ。後は二人に任せて、二人のペースで進んでいくべきじゃないか?」

「「「「「皇君は黙ってて!」」」」」

「酷い!」


 そんな男子勢だったが、一人だけ動いた人物がいた。帝だ。別に彼は悠を助けようとしたわけじゃない。ただ悠の周りに女子がいるのが気に入らなかっただけだ。せめて一人くらい俺のそばに来てくれないかという感情があった。

 実際は全く相手にされないと言うメンタルをごっそりと削る結果に終わったが。


「で、どうなの⁉」

「芽依のことだろ? う~ん。よくわからないな。好きではあるんだが、どっちかっていうと友達として、の方が強い」

「好きではあるんだ」

「実際、可愛いしな。芽依だからというのもあるんだろうが、可愛いからというのも理由の一つだ」

「ふむふむ、つまり『芽依のことは可愛いし優しいから好きではあるけど、それが友達としてなのか異性としてなのかはまだわからない』ということ?」

「まあ今はそういう状態でいい。九割九分友達として、だろうが」

「まだ一パーセントが残ってる!」

「皆、絶対成功させるよ!」

「「「「「おー!」」」」」


 元気のいい女子たちだ。そんな感想を抱きつつ、悠は芽依の方を見た。未だに呆けていた。


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