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妹が好きなら妹以外を想っちゃだめですか?  作者: しりうす
Please bless this wonderful destiny !
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六話

 真由による簡単な説明が終わり、下校する時刻になった。


 今朝一緒に登校した牡丹は当然既に帰宅済みである。大体の生徒がそうだが、やはり寂しいものは寂しい。いくら一人に慣れていようとも、実際本当に一人になってしまったら周りの目を気にしすぎてしまうのは仕方がないと思う。


 と、足早に学校から離れようとする悠の隣に、一つの影が現れた。


「悠君一人?」


 芽依だった。両手でカバンを持ち、横から悠の顔を覗き込むようにして聞いてくる。悠は突然現れた芽依に驚きつつ、返事をする。


「うん、まぁね」

「そっか。……悠君はどこに住んでるの?」


 少し強張った声音で尋ねる芽依。心なしか頬がピンクに染まっているように見える。

 それには気付かずに悠は答える。


「ここから二十分くらい歩いたところだよ」

「そうなんだ」

「うん」

「……」

「……」

「……え、それだけ?」


 悠の素っ気ない返事と会話の続かなさに痺れを切らしたのか、芽依が一歩踏み込んできた。物理的にも、精神的にも。


「それだけだけど?」

「むぅ~……ばか」

「馬鹿は酷くね?」


 芽依が一歩踏み込んだのにもかかわらず、悠は全くそれに気付く様子すら見せない。少しムカッときた芽依が悠に向かって悪態をつく。

 それは心外だと悠が声をあげるが、芽依は聞こえないふりをしてプイッと顔を悠から背けた。


「……」

「……悠君は、さ」


 それから数秒。距離にしてたった数歩の距離を歩いたとき。芽依が悠に話しかけた。


「ん?」


 悠は軽く返事をし、前に向けていた顔を芽依へと向ける。


「悠君はさ、私が住んでるところ、気にならないの?」

「ん~。気にならない、かな?」

「なんで?」


 食い気味に言葉を発する芽依。同時にガバッと体ごと回転させて悠の方を向く。自然と目と目がぶつかり合い、視線が混ざり合う。


「なんでって言われても……」

「そ、そうだよねっ!」


 目が合ったことに動揺したのか、芽依は慌てたように強調する。頭をぶんぶんと縦に振り、それに付随してボブカットの茶髪がふさっと揺れる。

 太陽の光を反射する彼女の髪は、キラキラと粒子をまき散らしながら輝いているように見えた。


「逆に芽依は気になるのか? 俺の家」

「う~ん、どうだろう?」

「どうだろう、って……芽依が聞いてきたんじゃないか。ということは気になるってことじゃないのか?」

「私って、昔から同級生の家とか知りたかったんだよね。で、誰か休んだ時には私がプリントとか手紙を届けてたの」

「そうなんだ」

「だから、同級生に家の場所を聞くのは、癖、かな」


 恥ずかしい事を言っているわけではないのに、さっきよりも紅い気がする。


「それって正確に場所を知るために一人で訪ねたりしてるのか?」

「そうだよ?」

「じゃあその癖は直さないとな」

「なんで?」


 理由がわからない芽依は、人差し指を顎に当てながら小首をかしげる。髪がふわりと膨らみ、揺れる。


「高校生なんだから、もう少し危機感を覚えた方が良いぞ」

「ききかん?」

「そ。もし強引に連れ込まれたらどうするんだよ」

「あはは、ないよ~そんな事」

「わからないだろ。特に男子」


 思春期真っただ中の男子高校生が、芽依のような可愛い子に一人で家に訪ねられたら何するかわからん。流石にヤバい事はしないだろうけど、何もないとは言い切れない。

 昔は大丈夫だったかもしれないが、それは昔なので、今はどうなるかわからない。体も成長しているし。

 まぁ弱っているので大丈夫だとは思うが。


「わかった。気を付けるね」

「そうした方が良い。……で、芽依はうちに来たいと思うか?」

「悠君……」


 芽依からジトーっとした視線が贈られる。無理もない。今さっきまで言っていたことと捉え方によっては矛盾するような質問だったのだから。いや、普通に矛盾している。


「いや、今日は多分親もいるし、芽依が気になるならうちに来てもいいかなって」

「ふ~ん? ま、今日は遠慮しておくね」

「わかった」


 そこで会話は途切れた。無言で二人並び歩き続ける。しかし、イヤな空気ではない。

 二人の距離は少し離れている。一歩近づけば肩と肩がぶつかり合う程の距離。たったそれだけ。

 不意に芽依が悠に近付いた。悠の鼻孔を芽依のいい匂いが擽る。


「私、隣駅だから。ここまでだね。バイバイ、また明日」

「ああ、また明日」


 いつに間にか二人は駅近くまで来ていた。芽依は悠に手を振り、駅舎内へと入っていった。悠も手を振り返し、芽依が見えなくなったところで歩き出す。

 一人になった悠は、少し寂しさを覚えつつも自宅への帰路を進んだ。


「ただいま~」

「おかえりなさい、悠」

「ただいま、牡丹」


 家に帰った悠を迎えたのは、新しく義理の姉となった牡丹だった。

 胸元に猫のブローチが付いた、紺色のエプロンを着ている。料理中だったのだろうか。


「スンスン、スンスン……これは女の匂いね」

「彩芽?」


 牡丹の後ろから現れたのは、義理の妹の彩芽だった。悠が神聖視している子だ。

 悠のすぐそばまで近付いた彩芽は、悠の匂いを嗅いだ。悠からは女の匂いがしたようだ。実際少し前まで芽依と居たので大正解。鼻が良いのかもしれない。


「あら、悠。もう彼女ができたのかしら?」

「できてないよ。ただの友達だって」


 確かに芽依とはうまくやっていけそうだとは思ったが、それは友達としてであって、恋人とかそういうことじゃない。第一、もう恋人ができてる人なんているのだろうか?


「もうすぐご飯だから着替えて来て。今日は私の手作りよ」


 そう言って牡丹はリビングに戻っていった。彩芽もその後ろをついていく。

 悠も階段を登り自室に向かう。真新しい制服をハンガーに掛けてクローゼットにしまう。そしていつも通りのラフな格好になってリビングへ向かった。


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