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妹が好きなら妹以外を想っちゃだめですか?  作者: しりうす
If I'm pretty, would you love me even I'm not your sister?
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四十四話

 ショッピングモールから歩くこと数分。モール付近の賑わった様子は無くなり、閑静な住宅街と言ったような雰囲気の場所に、目的地はあった。


「近くにコインランドリーあるらしいです」

「あ、じゃあ濡れた服はそこで洗うのです」


 決して大きくはないが、地域の人々の憩いの場となるにはちょうどいい大きさである銭湯の暖簾をくぐり、中へ入る。

 入ってすぐ、両脇に備えられた靴箱に靴を入れスリッパに履き替える。そして右側にある受付へ。


「大人二人で」

「1600円です」


 財布から二千円を出し、渡す。お釣りをもらい、ロッカーのカギを受け取る。その片方をさつきへ渡し、そこで別れた。


「あんまり待たせないようにするのです」

「ゆっくりしてきていいですよ」

「でも悠くん暇じゃないです?」

「さつき先輩の為ならいくらでも待ちますよ」

「……じゃあお言葉に甘えるのです」

「存分に甘えてください」


 そのあとも一言二言だけ交わし、悠は男湯に、さつきは女湯に消えた。


 十分後。しっかり洗って十分に温まった悠は湯船から出て、二階にある休憩スペースにいた。そこには二機のマッサージチェアと長いベンチ椅子があるだけで、他の利用客の姿はなかった。

 そもそもこの時間帯に銭湯を利用する人が少ないので、有名人であるさつきが入浴するためには結果としていい時間だったかもしれない。


 さつきに二階の休憩スペースにいるとメッセージを入れて、悠はスマホ片手に椅子に座って待つことにした。


 ぽかぽかと温く、住宅街特有のかすかに聞こえる生活音。その全てが悠を睡眠へと誘う薬となって襲い掛かる。人が眠気に抗うのは難く、悠も例にもれずゆっくりと瞼を下した。


 どれくらい経っただろうか。すっきりとした目覚めと、窓からのぞく外の景色からして、寝てしまってから一時間といったところ。


「あ、起きたのです?」

「……おはようございます」

「おはようなのです」


 当然、一時間も寝ていればさつきはお風呂から上がってくる。ここに来る前に買った服を身に纏い、悠の顔を覗き込んでいた。


 悠のイメージ通り、選んだ服はさつきに似合っており、前の服よりもさつきの大人びた雰囲気というものを増強させ魅力的にしている。


 濡れた髪で服を湿らせないように、貸し出されているバスタオルを肩にかけ、ふんわりと香るのは備えつけられていたここのシャンプーの匂いだろう。悠も同じものを使ったはずなのに、不思議とさつきの方がいい匂いに感じる。


「あの、さつき先輩」

「どうしたのです?」

「辛くないですか」

「可愛かったのです」

「質問の答えになってないです」

「悠くん」

「はい」

「可愛いの前には、なにものも等しく無力なのです」

「そうだとしても、俺は可愛くないですよ」

「寝顔は可愛かったのですよ?」

「全然うれしくないです」


 くすくすと笑うさつきは、悠の頭の下に手を差し込み、起きやすいように軽く持ち上げた。

 まぁ、もう予想はついていると思うが、つまり今まで悠はさつきに膝枕してもらっていたのだ。こう、さつきのさつきがさつきの顔を半分くらい隠してる。悠は目を逸らした。


「それにしても、すみませんでした。時間を無駄にしちゃって」

「気にしてないのです。こういうデートもいいと思うのです」

「デート……」

「違うのです?」


 違うわけがない。さつきにとってはただ友達の義弟と遊ぶというだけの感覚でも、悠にとってはさつきを落とすための大事な日なのだ。

 いくら男除けのためのカモフラージュだとしても、大して好きでもない男を彼氏とするのは抵抗があった。

 悠にとってのデートとは少し違ったが、さつきにとってはこれもデートなのだという。


「さつき先輩は、今日楽しかったですか?」

「逆に聞くのですけど、悠くんは楽しくなかったのです?」

「それは──」


 思い出す。今日の出来事を。


 駅前で待ち合わせして、水族館へ行って、水槽を泳ぐ魚たちを鑑賞し、頭から水をかぶるというアクシデントがあり、急いで近くのショッピングモールへ向かい、海水を洗い流すためスーパー銭湯へ。そして今、さつきに膝枕されたまま眠っていた。


 途中から予定していた流れとは違ったが、それが不満であったり楽しくなかったりするわけじゃない。むしろその逆。楽しかった。ともすると予定し想像していたそれよりも、さらに。


「──楽しかったですよ。すっごく」

「よかったのです。びしょびしょになったときは焦ったのですよ。悠くんに嫌われちゃったらって」

「あれくらいで嫌いになれるほど、俺の中のさつき先輩への好感度は低くないですよ」


 その後のことを考えると、むしろ上がっているだろう。


「あたしもそうなのです。今日一緒にいて、ずっと楽しかったのです」


 そう笑顔で言われると、悠は顔を背けたくなる。あまりにも美しすぎて、見つめるのが恥ずかしくなるのだ。

 しかしそれはできなかった。それほどまでに彼女の笑顔は蠱惑的で妖艶で、悠の瞳を捉えて逃さなかった。

 ぽーっと見惚れる悠に気づいたのか、さつきは頬を薄く染めて顔を逸らした。


「……帰りますか」


 悠が起きたので、もうここにいる理由は無くなった。まだ日は落ちていないし、もう一度ショッピングモールでウィンドウショッピングができるだろう。

 そう思い階段へ向かって一歩踏み出した悠だが、次の一歩は出なかった。


「さつき先輩?」


 悠の方を向いたさつきが、控えめに服の裾を掴んでいた。


「……もう少し、あと少しだけここにいたいって言ったら──」

「いいですよ」


 幸いとして、利用者は少ない。なので、もう少しだけ。この広くも狭い空間で二人きりの状態を。


おまけ


「それにしても悠くん」

「はい?」

「あたしが膝枕してあげたのに、感想の一つもないのです?」

「……言った方がいいですか?」

「包み隠さず本音でお願いするのです」

「えっと、その……さつき先輩の太ももは一見細いのに俺の頭を支えるだけのしっかりした柔らかさがあって、お風呂上りってことでいい匂いもしてました。あとは……人智を超えた霊峰を見た時の感情と感覚を味わえました。控えめに言ってさつき先輩の膝枕は最高です。ありがとうございました」

「それだけの内容を一呼吸で淀みなく言えるって、悠くんはやっぱり牡丹が言っていたようにへんたいさんなのです?」

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