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妹が好きなら妹以外を想っちゃだめですか?  作者: しりうす
If I'm pretty, would you love me even I'm not your sister?
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四十話

 無事にチケットを購入できた悠とさつきは、さっそく館内に入ることにした。

 入り口の様子から見て予想はできていたが、すごい込み具合だ。


「すっごいのです……」


 さつきはその人数の多さに驚いていた。通路を埋め尽くすほどではないが、水槽に張り付いて魚を見ることはできそうにない。

 もし悠が水槽を見たかったら、子供くらいの身長になるか、肩車をするしかないだろう。


「ちょっと行ってくるのです!」


 何やら興奮した様子で、さつきは水槽の方へ駆けて行った。さつきの身長なら見れなくはないだろう。さつきの前にいた子供は上からの柔らかな重圧に沈むことだろうが。うらやまけしからんことこの上ない。


「悠くんも来ればよかったのです。すごくきれいだったのですよ?」

「あの人ごみに混ざるのは無理ですよ。さつき先輩じゃないと」

「あたしの身長が低いから行けたって言いたいのです?その喧嘩買いますよ?」


 さつきがにっこりと笑った。どこか恐ろしいものを感じるが、どうしても愛らしさが勝ってしまう。悲しいかな可愛ければ怒りを表現できないのだ。

 つい悠はさつきの頭を撫でた。ほぼ無意識の行動だった。例えるなら、近所の子供をあやすときのような、そんな手つき。


「さらに喧嘩売ってくるです!?よーし絶対買ってやるのです!」

「さつき先輩が可愛いのがいけないんですよ」

「私のせいなのです!?」

「……俺も少しからかい過ぎました」

「全く、本当にそうなのですよ。でも優しいあたしは許すのです。感謝するといいのですよ」


 悠が謝ったことで気が済んだのか、さつきは怒りを鎮めた。もとより本気で怒っていないので、ただのイチャイチャだ。


 一つの水槽ごとにわいわいと騒ぎ、自然と二人の距離も縮まってくる。

 待ち合わせのときは一歩くらい離れていた二人の間も、今ではすでに肩が触れ合うほどに近い。正確にはさつきの肩と悠の腕なのだが、細かいことは気にしない。


「ちょっとお手洗いに行ってくるのです」


 ちょうど半分くらいだろうか。休憩スペースみたいな場所に辿り着いた二人は、一休みすることにした。歩いた距離的にはそんなに長くはないが、いかんせん人が多すぎる。人混みが苦手な悠はもちろん、さつきでさえ人ごみに酔ってしまっていた。

 近くにあるトイレに向かい歩いていくさつきを見送りながら、悠は今日の目標を確認する。


 さつきと二人で水族館へ行く。クリア。

 さつきと二人でカップルチケットを買う。クリア。

 さつきと二人で水族館を散策する。クリア。

 さつきと距離を詰める。クリア。

 さつきの魅力をたくさん見つける。クリア。

 さつきと手をつなぐ。

 さつきと腕を組む。

 さつきに好きになってもらう。

 さつきに告白される。


 今のところこんな感じだろうか。中には無理な目標もあるが、そんなことはもとよりわかっている。今日の目標は手をつなぐところまでだ。

 さて、あと半分しか水族館は残っていないわけだが、果たしてこのままで手をつなげるのだろうか。というより、悠も心の準備をしないと手を繋げそうにない。


「ふぅ……よし」


 たっぷりと時間をかけて、覚悟を決める。

 牡丹に言われて協力しているこの作戦だが、悠にとって一番難関なのは自分自身だ。


 悠は親の再婚により可愛い義姉妹と出会い、そのつながりでさつきという超美少女に出会った。しかしそれよりも前の悠は、正真正銘の陰キャ。積極的にコミュニケーションを取ろうとせず、目立つことを嫌う。なので美少女どころか女子と話すことすらつらい時がある。


 そんな悠が、あろうことかさつきを攻略することになった。はてさて、そんなことが悠にできるだろうかいや無理だ。無理に決まってる。


 ただ、一つ望みがあるとすれば。それはその当事者たる悠が、覚悟を決めること。限定的な範囲ではあるがコミュニケーションを取り、美少女を連れることで目立つことは避けられないのでそれに慣れる。その他にもいろいろあるだろうが、それらすべてに対する覚悟。


 考えるだけでも心臓がバクバクする。緊張と、期待と、不安。様々な感情が悠の胸の内に渦巻き──


「お嬢ちゃん迷子?」

「俺たちが案内してあげようか」


 ──二つの声を拾った。


 その声の方を向くと、そこには一人の少女を囲む二人の男が。

 男たちは、見るからにチャラそうな見た目。そしてその二人に挟まれた少女は、低身長ながらアンバランスに大きな果実を揺らし、愛らしい顔を困ったように歪めていた。誰でもない、さつきだ。

 悠は男たちの視線が顔より下にあることを見抜いた。頭ごと向いていたので丸わかりだ。

 その光景を把握した瞬間、悠は駆けた。


「さつき、どうしたの?」

「あっ、悠くん」

「あ?誰だテメー」


 悠がさつきに駆け寄り話しかけると、さつきに話しかけていてた男のうちの一人が睨みつけてきた。ナンパしている最中なのだから当然といえば当然だろう。


「俺はさつきの彼氏ですけど、なにか?」


 ここで下手に友達というより、彼氏と言った方が威力は高いと判断した。カップルチケットもあるので、信憑性は高くなるだろう。

 さらに攻撃するために、悠はさつきの手を取った。当のさつきは、何が起こっているのか分からない様子で悠と男たちを交互に見ている。


「……チッ」


 やがて観念したのか、男たちは舌打ちを残し去って行った。素直に引いてくれて助かった。


「さつき先輩、行きましょうか」


 問題は解決した。ならば残り半分の水族館を楽しむとしよう。さつきにそう言って先を歩きだす悠だが、しかしその足は一歩踏み出すだけで止まってしまった。


「あ、あの、悠くん……」


 袖をさつきにつままれたからだ。人差し指と親指でちょこんと服引っ張っている。

 なにかしてしまっただろうか。ナンパ男たちを撃退するために繋いだ手も今は話しているし……あぁ、彼氏と言ったことが不満だったのだろうか。


「嘘でも俺が彼氏とか嫌でしたよね」

「あ、いやっ!それは全然大丈夫なのです。悠くんなら」


 ふむ。いじらしくそう口にするさつきは頬を赤くしていた。さっきのことを思い出したのかもしれない。


「……て」

「なんですか?」

「手を、繋いでほしいのです」


 いつの間にか袖をつかんでいた指は離されていて。その代わりに、さつきは小さな手を悠に差し出した。真正面から見ることができないのか、顔を悠から背け、ちらちらと悠に視線だけを向ける。

 果たして、こんな健気でかわいらしい誘いを断ることができる男がいるのか。いやいない。いてたまるか。


「さつき先輩の手、温かいですね」

「悠くんのはちょっと硬いのです」


 思いがけず目標の一つを達成してしまった。これはもしかしてもしかすると腕を組むあたりまでは行けるかもしれない。

 そんな期待に胸を膨らませ、悠とさつきは休憩所から先の水槽に向かって行った。


おまけ


「あたしナンパされちゃったのです」

「そりゃあさつき先輩は可愛いですから。ただあの男たち……」

「変装しててもあたしの魅力は隠せないみたいなのです」

「ただのロリコンの線もありますね」

「お?まだ喧嘩売ってたです?」

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