三十四話
「お邪魔しました」
「またいつでも来てね」
「はい!」
「じゃ、俺は送ってくる」
「いってらっしゃい」
牡丹に見送られ、悠と芽衣の二人は駅へ向かう。
街灯が設置されていて真っ暗ではなく、かといって明るいわけでもない。街灯の下は照らされているが、少し歩けば月の光しか届かない。
「今日は楽しかったよ、ありがと」
「本を読んでただけだけどな」
「それでも、だよ。なかなか本を読む機会ってないからさ」
「友達付き合いでか」
「うん。まぁそれが嫌だってわけじゃないんだけど」
「だけど?」
「たまには、ああやってゆっくり本を読みながら過ごす日もいいなぁって」
「沼にハマった?」
「読書の沼にはね」
「妹──」
「ない」
「さいですか」
クスッとはにかむ芽衣の横顔を、街灯のぼんやりした光が照らす。
「ま、いつでも来ていいって牡丹も言ってたし、俺も歓迎だから」
「うん」
「また本読みたくなったら、うちに来な」
「ありがと」
そこで会話は一旦区切りがついた。しばしの沈黙が訪れる。
そこでふと、悠は思った。
「「初めてだなぁ……」」
どうやら芽衣も同じことを考えていたようだ。同じことを言ったことがおかしくて、二人とも少し笑う。
「何が初めてなの?」
先に落ち着いた芽衣が、悠に問いかける。
「こうやって女子と夜の道を歩くこと。休みの日に女子と二人で過ごすこと。まぁとにかく今日あったことはほとんど初めてのことだった」
「私も。男子と休みの日に遊んだことがなかったわけじゃないけど、それはグループで遊んでたし。こうやって送ってもらうのだって初めての経験」
「そうなんだ。俺の勝手なイメージだと芽衣はこういうこといっぱいあるのかと思ってた」
「私は予想通りかなぁ。悠君友達少なそうだし」
「失礼じゃない?」
「まぁ悠君だしいいかなって」
「相手の気持ちを考えよう」
「相手の気持ち、ねぇ。そうだなぁ……今あなたはこう思っているでしょう。『芽衣にいじられるのは嫌じゃない』と」
「……」
「おやおや?図星ですかぁ~?」
「ち、チガウヨ?」
「わっかりやすいなぁ」
ケラケラと声を上げて笑う芽衣の姿を見て、ずばり今の気持ちを言い当てられた悠は再度認識する。
「うん、やっぱり俺は芽衣が好きだなぁ……」
「ふぇ!?」
「ん?」
「な、何でもない!じゃ、じゃあ私ここまででいいから!」
「え、でもまだ駅まで距離が──」
「ううん!ここまでで大丈夫!じゃあね悠君!今日はありがとー!」
「え、あ、うん。またね、芽衣」
急に慌てだした挙動不審な芽衣に疑問を抱く間もなく、芽衣は早足で駅へと向かって行ってしまった。別れを告げた以上追いかけることはできず、現状を理解できずに立たずむ悠だけがそこに置き去りにされていた。
連休が明けた。長いようで短かったゴールデンウィークが終わり、憂鬱な気分になりながらも学校へと向かう。
「行ってきまーす」
リビングに声をかけて家を出た悠は、一人で通学路を歩き始めた。
まだ五月と言えども気温が上がってきている。さすがに夏ほどではないが、四月よりも暖かいのは確かだ。そろそろ冬服を着るのが嫌になってくるだろう。
悠が家を出て数分後、ズボンのポケットに入っているスマホが震えた。誰かから連絡が来たようだ。
因みに悠はクラスLINKに入っていない。一年の時に入っていないので、二年になったとしても入ろうとは思えなかった。クラスの情報はすべて芽衣から聞いている。
なので、必然的に今来た通知は知り合いの誰かから、ということになる。選択肢は廉人、菫、牡丹、彩芽、芽衣、さつきの六人となる。悠は泣いた。
そんなことを考えながらスマホを取り出すと、画面には送信者の名前が表示されていた。
「牡丹……?」
ついさっきまで家にいたのに、何故LINKを送ってくるのか疑問を抱くが、そういえば今日は会ってないことを思い出した。言いたくても会えなかったら言えないだろう。
「なんだ、一緒にお昼を食べようってだけか。特に約束もないしオッケーしとこ」
悠が返信するとすぐに既読が付き、屋上で待っている旨の返信が来た。それにスタンプで返した悠はスマホをスリープさせポケットに入れた。
送ったメッセージに既読が付いたのは確認したし、それ以降通知が来ないので牡丹も学校へ行く準備をしているのだろう。
牡丹とやり取りをしているうちに学校へ到着していたので、悠は靴を履き替えて教室へと向かった。
おまけ
「ここだから言うけどあのセリフ完全に誤解させにかかってるよね」
「俺も思う」
「じゃあやめてよ」
「作者に言え」




