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妹が好きなら妹以外を想っちゃだめですか?  作者: しりうす
Please bless this wonderful destiny !
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二十六話

 悠の部屋にやってきた二人は、しばらく無言でベッドに座っていた。

 すっかり外は暗くなり、空には月が浮かんでいる。星は生憎と、住宅等から放たれる光によって地上からはあまり見えない。


「……今日は、ありがと。悠君」


 沈黙を破ったのは芽衣だった。俯いて、組んだ手を見ながら、そう口にする。


「いや、うん。まぁ、なんというか……ただのエゴ、だろうけど。芽衣が楽しんでくれたら、それでよかったかな」


 狼狽しながらもそう答える悠は、目の端に芽衣の手を捉えた。


「……?」


 芽衣の手が、微かに震えていた。

 その震えを抑えるように、鎮めるようにもう片方の手を被せているが、その手も震えているので全く隠せていない。それどころか、はたから見ただけでもわかるほどに震えてしまっている。


「(……それもそうか。あんなことがあったらな…………)」


 同級生の男の子に、襲われかけた。単純に説明すればこんな感じだろう。正確には、直接襲われかけたのが牡丹で、その近くに芽衣はいただけだが。

 しかしそんなものは、身の危険を感じた者からすれば変わりない。直接だろうが近くにいただけだろうが、恐怖したことに変わりはないのだから。


「……芽衣」

「!?……っど、どうしたの、悠君?」


 ぴくっと一瞬だけ肩を跳ね上げた芽衣は、名前を呼んだ悠の方を向く。するとそこには、芽衣の方を向いた悠の姿が。

 芽衣の脳裏に、とある未来が視えた。それは芽衣が悠に襲われる未来。二人っきりで、近くには悠以外の誰もおらず、強引に唇を奪われ、そのまま……

 そこまで想像したところで、悠が動いた。それに警戒するように芽衣は顔を強張らせ、体が固まる。


「──昨日は本当にごめん!」


 しかし、芽衣の警戒は杞憂に終わった。

 悠はベッドから降りると、芽衣の前に正座し、頭を床につけた。


「え?……え?」


 突然の事態に芽衣は当然困惑した。

 目の前で、同級生の男の子が、自分に対して土下座をしている。

 現況を振り返ってみても、やっぱり意味が分からない。


「ゆ、悠君? 何してるの、早く頭上げてよ……!」

「いや、芽衣の許しが出るまで上げる気はない!」

「ゆ、許すって何を!?」

「それは……昨日の、アレだよ」

「アレ……?」

「ほら、俺の部屋であっただろ? 俺が牡丹に……」

「あ、あーアレね、アレ! 許す! 許すから頭上げて、ね?」


 芽衣の許しを得て、やっと悠は頭を上げた。

 その顔には後悔と反省の色が浮かんでおり、本気で芽衣に謝罪したことがわかる。

 あまりの本気さに、芽衣は若干引いたが、それ以上に嬉しかった。


「悠君」


 あれから少し経ち、今は二人ともベッドの上にいた。

 芽衣はベッドのうちに座り、悠はベッドの上で正座しているという、座る体制に微妙な差異はあるが、気にせずに。


「悠君、私、怒ってないよ?」

「……え?」


 芽衣からカミングアウトされたのは衝撃の事実。実は芽衣は全く怒っていなかった。


「確かに、私はあの時怖かったよ。もしこのまま事態が進んだら、私どうなっちゃうんだろ~って」


 実際、芽衣はあの時悠の豹変ぶりに恐怖していた。いつもの、優しいクラスメイトの悠と違って、あの時はメスを前に発情したオスのような、そんな感じに思っていた。

 確かにあの後、悠の部屋からリビングにいた時は、どうしてこんなに怖い思いをさせるのかと、悠に対して怒っていた。

 しかし家に帰ってよくよく考えると、考えれば考えるだけあの時の光景が鮮明に思い出され、遂に真実に辿り着いた。


「悠君。あの時、本気で襲う気はなかったんだよね? ただのからかいの延長で、牡丹先輩に一泡吹かせてやりたかっただけんだよね?」

「あ、ああ。そう、だな……」


 芽衣の驚くほどの推察力に、悠は驚きすぎて言葉ができない。

 たったあれだけで、その背景まで読み取れるとは。


「それにね?」

「……それに?」

「私あの時……ううん、やっぱりこれは言わなくていいかな。ごめんね、これは秘密にさせてほしいな」


 頬を赤くしながらそう言う芽衣に、悠は疑問を感じながらも頷いた。そもそも、今の悠にだめだなんて言う権利はなかった。

 これで一件落着。悠は芽衣に謝り、芽衣は悠を許した。今回の事件はからかいの反撃とは言え悠が発端だ。これからは周囲に迷惑をかけないよう、牡丹だけを狙って反撃すればいい。これを糧にして、より高度で高威力な仕返しを考え、牡丹に使う。そしてそれを繰り返す。そうすればおそらく牡丹は、悠をからかうことがなくなるだろう。


「あ、そうだ」


 と、そこまで考えていた悠の耳に、芽衣の声が響いた。

 どうしたのだろうか? そう思った悠は芽衣の方を向いた。


「悠君って、私で興奮するの?」

「ぶふぉぁ!?」


 いきなりのあんまりな質問に、悠は盛大に噴出した。


「げほっ……げほっ……え、な、なんだって?」

「だから、悠君って、私で興奮するの、って」


 聞き間違えじゃなかった。


「な、なんでそれを聞く?」

「単純に気になったから?」

「どうして?」

「どうしてだろ。私にもわかんないや。で、どうなの?」


 質問を取り消す気はないらしい。これは悠が答えるまで終わらないだろう。そう判断した悠は、芽衣から目を逸らしつつ答える。


「そりゃあ、興奮するだろ」

「え、きも~い!」

「それはあまりにもひどくないか!?」


 芽衣が折れなさそうだから悠が折れ、質問に答えたというのに、答えた結果が芽衣に引かれるという……しかも結構ガチな方。悠はメンタルにクリティカルダメージ!


「まぁまぁ、冗談だって、半分くらいは」

「半分本気な時点で落ち込むんだけど」

「でもさ、興奮しないって言われても同じ反応だったと思うよ?」

「実質選択肢一つしかないじゃん!」

「そりゃあそうでしょ。私みたいな超絶美少女に興奮しないって、悠君ロリコンなの?って話だし」

「断じてロリコンじゃないからな。俺は──」

「シスコンな変態でしょ?」

「あながち否定できない」


 けらけらと笑う芽衣と、うんざりしたような表情で、けれども少し楽しそうな悠。いつの間にかいつもの雰囲気で、けれどもいつも以上に芽衣が悠をからかって。いつもとは違うような、しかし同じような笑顔を咲かせる二人。

 今回の事件ははたから見たらとんだ茶番のような感じかもしれないが、二人から見たら重大な分岐点だった。仲直りするか、絶交するかの。

 結果は火を見るより明らかで、前者の方に転がった。

 災い転じて福となす、というが、この諺は今の状況に対しぴったりな表現だろう。

 分岐点を通過した悠と芽衣の二人は、以前よりもより親密になり、二人の距離はより縮まったのだった。


 因みに、翌日学校へ登校した二人を見たクラスメイト達が密かに盛り上がるのだが、それはまた別の話。


おまけ


「悠君私が超絶美少女だって言ったとき反論しなかったね」

「事実そうだから、反論する意味がないだろ」

「そ、そうなんだぁ~。てっきりロリコンに反応して反論するの忘れてるのかと思ってたよぉ~(冗談で言ったのに素で返されるとすっごい恥ずかしい……)」


おまけ2


「ねぇねぇ見た? 芽衣と橘樹君」

「見た見た!」

「あれってもう……」

「うん、どこからどう見ても……」

「「一線超えちゃって既にカップルの枠にも収まらなくなって、遂に夫婦になっちゃったらしいね!!!」」

「よくそんな長台詞寸分違わず揃えられるな」

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