二十五話
それから、結局すべて食べきることができなかったので、悠が残りを食べて完食した。
「これからどうする?」
「どうって……特に決めてないけど」
「え~? 男の子ならちゃんとリードしなきゃ」
「見たいものがたくさんあるのは芽衣だろ? 俺はそれについて把握してないんだから、芽衣が先を歩いてくれないとわからないよ」
「まぁそれもそっか。じゃあねぇ、まずはお洋服からかな!」
目的地を決めた二人は、フードコートの席から立ち上がり、お店の方へと足を向けた。
まずやってきたのは、CAN’sという洋服店だった。
国内の店舗数は多くはないが、服の種類や小物のデザイン、着まわしやすさなどで若い女性から大人気のブランドだ。
「ここは抜けないよね」
「洋服なんてどれも同じように見えるけどな……」
「全然違うよ! 悠君の目は節穴なのっ!?」
「そこまで言う?」
広い敷地を有するとはいえ、たくさんのお店が中に入っているので一つの店当たりのブースは限りがある。しかしそれでも、最大限に空間を有効活用しているのか服はもちろん小物まで取り揃えられていた。
「ねぇねぇ悠君。これ似合う?」
芽衣が悠に見せたのは白のワンピースだ。もう片方の手にはブラウンのトレンチコートがある。この二つを組み合わせるのだろう。
「いいと思う」
「あ~なにそれ~。そんな投げやりな感じ好きじゃないな~?」
「……似合うと思う、っていうのは本音だよ。そもそも芽衣は何を着ても似合いそうだし」
「そうかな?」
「そうだよ」
モデルが何を着てもそれらしく見えるのと同じように、モデルと引けを取らないどころか勝っているかもしれない芽衣ならば、どんな服だろうがそれらしく見えるだろう。
「……うれしいけどうれしくない」
「どっちだよ」
「うれしいよ! でもうれしくないの!」
「いやだからどっちだよ」
ぷんっとそっぽ向いた芽衣は手に持っていた服をもとあった場所に戻し、店を後にした。
「買わなくていいの?」
「え? なんで一つのお店見ただけで決めちゃうの? 普通はいくつかお店見るよね?」
「そ、そうだな、うん」
悠は初めて知ったなんて口が裂けても言えない。芽衣の目がおかしな人を見るような目だったから。芽衣は本気で心からまさか買う服を即決なんてしないと思っているのだろう。
「で、次はどこに行くんだ?」
「次はね――」
軽い足取りで歩き続ける芽衣。さっきの洋服店での様子からすると、買い物──特にウィンドウショッピング──が好きなのだろう。
ルンルン気分でスタスタと前を進む芽衣の姿を見ながら、悠はそんなことを思っていた。
数時間後、外が若干暗くなり始めた頃。二人の姿は帰りの電車の中にあった。
「本当にウチに来るのか?」
「そのつもりだけど……だめ、かな?」
「いやだめではないんだが……」
悠がそういうのは、芽依の家から離れていってるからだ。元々待ち合わせた場所は芽依の家からの最寄駅で、今日出かけたショッピングモールも芽衣の家から自転車で行けるほどの距離なのだ。だから芽衣は悠が乗る電車に乗る必要はないし、ショッピングモールで別れてしまうのがいいと悠は考えていた。
「今日はありがと。楽しかったよ」
「楽しめたなら良かった」
芽衣が体を揺らす。その反動で僅かにだが、彼女の肩が悠の肩──正確には二の腕あたりだが──に当たった。
ぴくりと微かに芽依の体が跳ねた。いつもなら悠のから距離を取るであろう反応の仕方だった。
けれど──今日は違った。
「芽衣?」
芽衣は悠から離れるのではなくその逆、さらに距離を詰めてきた。ぴったりと二人の腕が触れ合い、悠は芽衣の柔らかさを、芽衣は悠の腕の硬さを感じた。
その驚きの芽依の行動に、悠は隣を見る。
果たして、そこには──
「──すぅ……すぅ……」
気持ちよさそうに寝息を立てている芽衣がいた。ショッピングモールではしゃぎすぎたのだろう。まるで子供のようなあのはしゃぎ様を思い出し、悠の顔には自然と笑みが浮かぶ。
悠達が降りる駅まであと十分程度。疲れた体には不十分だろうが、仮眠を取るだけならば大丈夫だろう。
悠は芽依の可愛らしい寝顔を見つつ、そんなことを思った。
悠は忘れているもしれないが、今日芽衣を誘ってショッピングモールへと行ったのは、先日の件を芽衣に謝罪するためだ。
その目的を、悠は芽衣を起こして電車から降りるまで普通に忘れていた。
芽衣がウチまで来てくれて助かった、と悠は胸を撫で下ろした。
駅から少し歩いて、悠と芽衣は悠の家に到着していた。
鍵を開けて中に入る。
「ただいま~」
「お邪魔します」
そう声をかける悠達。少ししてリビングの方から返事が聞こえた。
「おかえりなさい」
そう言いながら出てきたのは牡丹だった。牡丹は芽衣がいることに一瞬驚いたのか目を見開くが、すぐに元に戻る。
「あら、芽衣さんもいるのね」
「昨日ぶりです、牡丹先輩」
ぺこりとお辞儀をして挨拶する芽衣。
「さ、上がって。二人は悠の部屋に行くのかしら?」
「あー、俺はそのつもりだったけど、芽衣はどっちがいい?」
芽衣への謝罪を思い出した悠は、二人っきりになれる自室に行くものだと思っていたが、牡丹に聞かれ今更ながらに気づいた。
「昨日の出来事もあるし、いやならリビングでもいいと思うけれど」
もしあれなら私達はリビングから出ていくし。牡丹はそう付け足した。
その発言から、牡丹にはすべてが読まれていると悠は確信した。今日芽衣と遊びに行く理由も、芽衣がここにいる理由も。
「いえ、大丈夫です。悠君の部屋に行きます」
果たして、芽衣は悠の部屋に行くことを選んだ。




