二十三話
芽衣と牡丹が作った昼食を食べ終わり、今は食後の休憩に入っている。ソファに座ってテレビを見ていたり、食器を洗っていたり。
「おいしかったのです。また作ってほしいのです」
「そうね、私も一緒に作ってみてとても楽しかったから、また一緒に作りましょう?」
「はい、こちらこそお願いします!」
楽しく談笑している女子をよそに、悠は何をしているのかというと、自室に籠っていた。
昼食を食べ終わったあとすぐにリビングから出ていき自室に向かった悠は、勢いよくベッドにダイブした。このまま明日までふて寝してしまおうかと考えたほどだ。
だがそうは問屋が卸さない。今日は土曜日とはいえ、明日になってしまえばその次の日は学校だ。学校に行けば芽衣に会う。それまでに何とか芽衣の誤解を解かなければいけないのだ。今寝てしまえば貴重な時間をドブに捨てるようなものだ。
「とはいっても、どうするかなぁ……」
おそらく、芽衣は悠の弁解を聞き入れてはくれるだろう。だが、それだけだ。今日与えた恐怖は心に残り続け、二人の間に亀裂が入ったままになってしまう。
「それだけは、いやだ」
せっかくできた友達だ。こんなことでなくしたくはない。そのためには……
「弁解? いや、違うな。そもそもが間違っていたんだ」
あの出来事は何でもないんだ。勘違いしている。あれはただのおふざけ、冗談だった。
そういうことは簡単だ。でも、本当にしなければいけないことは、それじゃない。
「俺がしなければいけないことは……謝ることだ」
自己弁護するのではなく、相手に対して誠意をもって謝ることが大切だ。
いくらあれがおふざけで、冗談で、本気でやっていたわけではないにしても。相手を怖がらせたことは事実だから。だから、そのことに対して謝るのが、正しいことなのではないだろうか。
「……うん、絶対そうだ」
そうとわかれば後は行動するのみだ。幸いにして、まだ芽衣は一階にいる。今から謝ることはできる。
「でも、今俺が芽衣の前に出ていって、大丈夫なのか?」
時間が経っているとはいえ、それは精々数時間程度。たったそれだけの時間で蒸し返され、芽衣はどう思うだろうか。
「でもだからと言って時間を置きすぎるのはな……」
学校に行ってから謝るのも手かもしれない。けれど、それはそれで時間が空きすぎているのではないか。一日以上時間を空けてからでは、いやな記憶を思い出させることになってしまうのではないか。
「どうすればいいんだ……」
悠は頭を悩ませる。時間が経っていなくてもいけないし、経ち過ぎていてもいけない。その微妙なラインは……
「明日、だよなぁ」
適切に時間を空け謝る。それにちょうどいいのは、明日だという結論になった。
けれど、どうやって謝る。どこで、明日のいつ、どうやって。
問題はいまだに山積みだ。
「とりあえず芽衣に明日の予定を聞いて、何もなかったら遊びに誘ってみるか」
そうと決まれば後は行動するのみ。細かいことは未来の自分に丸投げして、今を生きる悠は早速階段を下りた。
「帰った?」
「ええ、この後少し用事があるって、逃げるようにして帰っていったわよ」
若干目を細めながらそういうのは牡丹だ。
リビングにやってきた悠が見たのは、仲良く二人でテレビを見ている牡丹と彩芽だった。芽衣もさつきもいなかった。
わけを聞くと牡丹が先ほどのように答えたということだ。
「そうか……」
芽衣が帰ってしまったということは、直接会って誘うということができなくなったということだ。
そうなるととれる方法はあと二つ。電話をかけるか、RINKを使うか。
けれど実際のところ選択肢は一つに限られていた。
「『明日って用事とかある?』っと……」
部屋に戻った悠はベッドに横になりながらスマホで芽衣にメッセージを送った。
するとすぐに既読マークがつき、返信が来る。
「『特にないけど……どうしたの?』か。『なら明日どこかに遊びに行かないか?』」
またしてもすぐに返信が来た。文を読んでから文字を打ち込んでいるとは思えない速度だ。今の女子高生ってこんなに打つのが早いのだろうか。
「『いいけど……どこ行くの?』……考えてなかった」
女子と二人で出かけるときって、どこに行けばいいんだ?
というか今考えてみるとこれってデートじゃないのか? 付き合ってないからデートとは言わないのか?
それはともかく、行き先を考えなければ。
候補はたくさんある。動物園、水族館、遊園地、映画館。
「わからない……もういっそのこと聞いてみるか?」
メッセージを送った後、すぐに既読マークがついた。けれどなかなか返信が来ない。もしやこれがうわさに聞く既読無視では……と考えたが、芽衣がそんなことをするとは思えないのでただ悩んでいるだけだろう。そうだと願いたい。
五分ほどして、返信が来た。やはり悩んでいたのだろう。
「……ショッピングモール?」
芽衣が指定してきたのは、隣町にある最近――と言っても一年前だが――できた超大型のショッピングモールだった。




