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妹が好きなら妹以外を想っちゃだめですか?  作者: しりうす
Please bless this wonderful destiny !
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二十二話

 悠も牡丹も目を合わせず、気まずい空気が充満しているここは、悠の部屋。

 先ほどまで芽衣もいたが、インターホンが鳴ったのでそっちに行ってしまった。


「私も下に行くわ。悠、今のことは秘密ね?」

「あ、当たり前だろ。言えるわけない」


 この空気に耐えられなくなったのか、牡丹は若干早口でそう言った。悠も牡丹に続いて下に降りることにした。


「芽衣さんには悠から口止めしておいてちょうだい」

「わかった、と言いたいところだが、あんな場面見られてまともに話してくれるか心配だぞ」

「……がんばりなさい」


 牡丹はそれだけ言うとそそくさと階段を下りて行ってしまった。

 自分の犯した失敗のせいで気が重くなった悠は、一つため息を吐いてから一階に降りた。約束は約束なので、芽衣と牡丹は一緒に料理を作り、それを悠と彩芽が食べなくてはいけないのだ。

 あの雰囲気を作り出してしまった本人である悠は、今すぐにこの家から出ていきたかった。


「あっ……」


 リビングに入って早々、芽衣を目が合った。芽衣はそれもうものすごい早さで目を逸らした。頬が赤くなっているので、そういうことだろう。


 それも仕方ない。自分の貞操が危なかったのだ。悠が十分に反省すれば、誠意を見せ続ければ、いずれ仲は戻るだろう。と、信じたいところだが、それは神のみぞ知るところである。


 悠はソファに座った。隣には(少し空間を開けて)彩芽が座っている。先ほどの一件での唯一の救いは、彩芽が居なかったことだろう。もしあの場面を目撃されていたらと、悠は恐ろしく思った。


 これはタラレバの話だが、もしあそこに彩芽が居たら、悠はあんな行動を起こさなかっただろう。彩芽に見られているところで、からかわれた仕返しだとしても、姉に迫るところを見せるわけがないからだ。


 ダイニングテーブルにはさつきが座っていた。今か今かとキッチンのほうを見つめ、目を輝かせている。


「お姉ちゃんに何したの」


 隣から冷え切った声が聞こえてきた。牡丹と芽衣はキッチンで準備をしているので、彩芽しかいない。

 彩芽は悠を蔑んだ目で見て、断定的な口調で問いかけた。


「何もしてない」

「嘘。うちがどれだけお姉ちゃんのことを見てきたと思ってるの。どこからどう見てもおかしいでしょ、今のお姉ちゃん。二階に行く前はいつも通りで、降りてきたらおかしかった。あいつとは普通にしゃべってるから、消去法であんたしか犯人はいないの。わかった?」

「すごい推理力」


 確かに、ちょっとした変化でも十数年一緒にいる姉妹だ。気づかないわけがない。

 そしてそこから展開されていく推理は、ごく自然な流れだった。ぐうの音も出ない。


「まあちょっとな。でもこれは秘密だ。多分牡丹に聞いても教えてくれないぞ」

「なにそれ」


 冷徹のジト目で悠のことを睨む彩芽。しかし悲しいかな妹好きである悠にその視線は痛くもかゆくもないどころかご褒美でさえある。悠は変態。


「……なにそれずるい。秘密の共有なんて私でもまだなのに……」

「ん? 何か言ったか?」

「な、何でもないっ!」

「ごふっ」


 ごにょごにょと何か小声でつぶやいた彩芽に悠が聞き返すと、彩芽はそばにあったクッションを勢いよく悠の顔面へと向かって投げつけた!


 悠はそのクッション攻撃が顔面にダイレクトでヒットし、さらに投げつけるときの慌てたような声にクリティカルが上乗せされた。結果悠は斃れた。悠は変態。


 そうこうしているうちに、料理が始まったようだ。キッチンの方から野菜を切る音が聞こえてきた。ついでに二人の楽しそうな声も聞こえてくる。あ、さつきのご機嫌な鼻歌も聞こえてきた。素晴らしいハーモニー。


 悠はどうやって芽衣に言い訳……ではなく説明するか考え始めた。おそらくこの空間にいる人物の中で唯一気分が急降下しているだろう。




「悠? どうしたの?」


 どれくらい考えていたのだろうか。軽く三十分以上は考えていたはずだ。

 思考の海から浮上すると、目の前には牡丹が居た。どうやら声をかけても返事をしない悠が気になって覗きこんでいたらしい。


 テーブルの上を見てみると、すでに料理が運ばれていた。ほんのりと湯気が出ているから、できたてだろう。ということは声をかけられてすぐに気づいたというわけだ。


 もし自分のせいでみんなが食べてなかったりしたら申し訳なかったところだ。そもそも、悠が居なくても食べ始めていたと思う。悠は全力でその思考を放棄した。泣けてくる。


「なんでもない」


 さっきのことをいまだに気にしている悠は、牡丹の顔を直視できずにそう答えた。


「そう、なら早く席についてちょうだい」


 牡丹はそれだけ言うと芽衣や彩芽、さつきのいるテーブルのほうへ行ってしまった。


 その動きはいつもと何ら変わりなく、まるでさっきの出来事がなかったかのよう。そう思わせるほど、牡丹の所作は自然的で、つまりいつも通りだった。これは料理し始めた時から変わらない。


 そう考えると、彩芽はよく変化に気づいたと悠は思う。まだ出会ってから日が浅いとはいえ、一緒に住んでいる悠が見抜けないほどのちょっとした変化だ。逆になぜ、どこを見たらその変化に気づけるのかが気になるところである。


 悠はそんな疑問を抱きつつも、テーブルに座った。


 隣に芽衣が居て、目の前には牡丹が。牡丹の隣には彩芽が鎮座し、さつきはお誕生日席だ。

 作ったのはパスタらしい。少量をお皿に乗せ、各人の前に置かれている。


 種類は豊富で、ナポリタンにカルボナーラ、ぺペロンチーノ。コンソメスープを使ったパスタや明太子スパゲティもあればキノコを使った和風ソースのパスタもあった。


 そしてスープカップの中にはミネストローネがある。滅多に見られない豪勢な昼食だ。


 なお、これは余談だが、さつきの前には悠たちよりも見るからに多めにパスタもミネストローネも置かれていた。

 小さな見た目のわりに、かなり食べるらしい。それでも身長が伸びないのは、栄養がすべてどこかに注がれているからだろうか。どこにとは言わないが。


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