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妹が好きなら妹以外を想っちゃだめですか?  作者: しりうす
Please bless this wonderful destiny !
17/46

十七話

 午後の授業も順調に消化し、下校の時間になった。


「さぁ悠一緒に帰ろう今すぐ帰ろう! ゴー、バック、クイックリー!」

「皇君、それを言うならLet’s go back nowだよ?」

「発音いいな」


 各自帰宅していく傍ら、帝が悠の肩に腕を回し、どこかに向かって指をさした。天井だろうか。それよりも上を見ているのかもしれない。


 帝のダメダメな英語の発音に、正しい発音と文法でツッコミを入れたのは、明るい茶髪をボブカットにしてスカートを太ももの半分ほどにまで上げている芽依だ。

 芽依の発音の良さに感嘆したのが悠だ。


「そう?」

「ああ、ネイティブみたいだった」

「えへへ、ありがとっ!」


 因みに、これは完全なる余談なのだが、帰ったクラスメイトのうち、女子はほぼ全員が教室を覗き見ている。


 その手法は様々で、スマホのカメラ機能を使って内カメラにしてみたり、小さい手鏡を使ってみたりとバラエティに富んでいる。


 彼女らの視線の先に、悠と芽依の姿はない。いつもならばそっちを見るのだが、今日は帝に全視線が向いていた。


「(なんで皇がいるの⁉)」

「(知らないよ!)」

「(邪魔しないでよ!)」


 ……視線には多少の殺気が混じっているようだ。


 その視線を意図的に無視しているのか、気付かないようにしているのか、はたまた本当に気づいていないのか。帝は元気に悠を下校に誘っていた。


「ほら早く行くぞ! 青春が俺を待っている!」

「はいはい、今行きますよ~っと。それじゃあ芽依、行こうか」

「うん!」


 悠と芽依プラスαで下駄箱へ向かう。そこには昨日と同様に人だかりができていた。その中心に居るのは牡丹とさつきだ。

 二人は悠と芽依に気付くと、その輪から抜け出し三人の前に立った。


「……悠、その人は?」

「俺のクラスメイトだ。女子の知り合いが欲しいらしい」

「皇 帝です。以後お見知りおきを」

「橘樹 牡丹よ。よろしく。それじゃあ悠、芽依さん、帰りましょうか」


 挨拶もそこそこに、若干速足で靴箱へと向かう牡丹。さつきもその後を追う。


「俺って女子と仲良くできないのかなぁ……」

「……悲しいな」

「そこは嘘でも慰めろよぉ!」

「……ごめん、俺は無力だ」

「どういう意味だっ⁉」

「でも、私は皇君の友達だよ?」

「女神や……女神がご降臨なさった……俺と付き合ってくれ」

「あはは……それはちょっと」

「ガチ引きはやめて⁉」


 割と真面目なトーンで断る芽依に、帝は涙目だ。ついでに悠も手を合わせておいた。合掌。


「私達も靴履き替えようか、待たせちゃうのはいけないしね」

「そうだな。じゃ、そういうことで。また明日な、帝」

「おう!……って、俺も一緒に帰らせてくれよ!」

「すまん、ごめん、断る」

「そこまで言う必要あるか⁉」


 断りの術三段構え。それらは全て帝のハートにダイレクトにクリティカルだった。


「じゃあまた明日」

「……ぉぅ」


 すっかり意気消沈した様子の帝は、しょんぼりしながら帰っていった。明日までには元気になっているだろう。なっていてくれ。


「一体何をしていたのかしら?」

「独特の別れの挨拶なのです?」


 傍目から悠達の様子を見ていた牡丹とさつきが、ジト目がちにそんなことを言ってきた。さつきのジト目はレアかもしれない。


 校門を出て、駅までの道を四人で歩く。横に一列に並んでしまうと、他の通行人の迷惑になるので、二列になっている。悠の隣にさつき、悠の後ろに牡丹がいてさつきの後ろに芽依がいる並びだ。


「明日も一緒にお昼は食べるのかしら?」

「俺はどっちでもいいけど……芽依はどうする?」

「え、私? 私もどっちでもいいけど……如月先輩はどうですか?」

「あたしは明日もみんなで一緒に食べたいのです」

「なら決まりね。悠はもう道覚えたの?」

「二回も行けば覚える。うろ覚えだけど」

「それは覚えたとは言わないわ」


 会話のネタは、今日の昼食の事。四人でわいわいと話しながら食べるのは、とても楽しかったし、弁当もおいしく感じることができた。

 だからこそ、明日はどうするのかを話し合っているのだ。


「芽依は覚えた?」

「う~ん、大体?」

「もしわからなければ連絡頂戴。私かさつきが迎えに行くわ」

「そうならないようにする」

「望み薄に期待しておくわ」

「それなら最初から期待してないって言ってくれた方が良いんだが」


 わいわいと、まるで昼食の続きのように話し続ける四人。周囲からの目は気にしなくなっている。


「それにしても……悠とさつきの身長差凄いわね」

「それ言わないで欲しかったのです⁉」


 さつきに身長は百五十センチ程。対して悠は百七十五近くあるので、その差は二十五センチ程度。500㎖ペットボトルほどの差がある。


「まるで兄妹みたいね」

「年齢が逆転してるです⁉」

「けれど、さつきは身長に不釣り合いなモノがあるわよね」

「何のことなのです?」


 本気で分かっていないかのように首を傾げ、牡丹に尋ねるために後ろを振り返るさつき。それに付随するように、牡丹が指摘したとある部分が盛大に揺れた。


「ほんと、それ多分私よりあるんじゃないかしら?」

「明らかに私よりもありますよね……何故か悔しいです」


 牡丹は決して小さいわけではない。世間一般的に考えると、高校生とは思えないほどの大きさのものをお持ちである。


 同様に、芽依だって小さくはない。平均くらいだろうか。


 因みに彩芽は比較にもならないくらい不毛の大地が広がっている。いつか地面が隆起してエベレストまでとはいかなくとも、砂場の山程度には大きくなるのだろうか。恐らくこの場に彩芽がいたのならば心の中で涙していたことだろう。


「なんでそんなにあたしの事見るです⁉ しかも視線が気持ち悪いのです!」

「嫌がってるからやめてやれよ、牡丹」

「一番興味があるのは悠ではなくて?」

「……ないわけではないが、付き合ってもいない女子の胸を凝視するほど俺は変態じゃない」

「付き合えば凝視するのね」

「……黙秘権を行使する」

「それ、ほとんど認めたようなものなのだけど」


 いや、だって。付き合ってるわけだし多少はね? そういう気持ちになるよね?

 そう反論したい悠だが、今ここでそれ言ってしまえば、自分から『僕は変態です』と言っているようなものだ。九割九分九厘引かれる。


「悠くんは良いのです、男子なのですから」

「悠は仕方ないわよね、男子だもの」

「男の子だもんね、そうだよね」

「みんなして男子イコールいやらしいって決めつけるのやめない?」


 『男の子はいやらしい。悠は男の子。よって悠はいやらしい』という理論を言葉に出さずに共有し、「仕方ないなぁ」という擬声が聞こえてきそうな視線で見つめてくる女子三人に、悠はたまらず考えの訂正を要求した。


「じゃあ悠はいやらしくないのね?」

「……黙秘権を」

「そう言うということは図星なのね」


 だって仕方ないじゃん、思春期の男子だし。ね、そうだよね?と誰かに向かって同意を求める声は口から出ることはなかった。


「思春期の男子の性欲はすさまじいと聞くわね。誰か体験したい人はいる?」

「俺は嫌だぞ。ってか何聞いてんだ」


 どこから耳に入ったのか聞きたいが、今はそれよりも下校中にそんなことを言う牡丹を宥めることに専念する。さつきも芽依も顔をほんのりと赤くして悠を見ないようにしている。悠は大ダメージを受けた。


「ゆ、悠君、そう言うのは結婚するまではダメだからね⁉」

「何を言っているのかな⁉」

「あ、あああたしはお仕事まだ続けたいから、そういうことはダメなのですー!」

「如月先輩も何言ってるの⁉」

「私はいつでもいいわよ?」

「便乗すんな首謀者!」


 ちらちらと悠を見ながらそういう芽依とさつきにドキドキとしつつも、その流れに便乗した牡丹を落ち着かせるために牡丹へと手を伸ばす。


「きゃー悠に襲われるー」

「危機感を持たせたいなら棒読みやめろよ」

「や、やめっ……! あっ、そ、そんなぁ……」

「かなりの演技派。まだ触ってすらいなんだけど」

「チラッ……」

「俺が動かないからって自分から気をひくなよ」


 ワイワイ……ギャーギャーと騒ぎながら、四人はどんどん駅に近付いていく。既に駅舎は目に見えている。ここから一直線だ。


「あ、ねぇねぇ悠君」

「ん、どうした?」

「明日も一緒に登校しよ?」

「俺は別に構わないが……」

「良いんじゃないかしら。私はお邪魔だろうから、悠の先か後に家を出るわ」

「あ、いえ。牡丹先輩も是非一緒に登校しましょう。今日まではそうだったんですよね?」

「ええ、そうね。ならお言葉に甘えようかしら」

「はい! じゃあまた明日ね、悠君」

「また明日」


 いつの間にか、駅まであった距離も踏破していたらしく、芽依は軽々しい足取りで駅舎に入っていった。さつきもそれに続いて入っていく。


「また明日なのです」

「またね、さつき」

「また明日、如月先輩」


 残された悠と牡丹は、二人並んで家までの道のりを歩き出した。


「あ」

「どうした?」

「週末の事話すの忘れてしまったわ」

「……あとで連絡しておくよ」

「頼んだわ」

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