十一話
もう終わりを迎える桜が、最後の見せ場と、風に乗り空を踊っている。
そんな通学路で帰路に着く生徒の影多数。しかしながら、その中に一際異色を放つ存在があった。
「ね、悠君、皆見てるよ……」
「気にしたら負けだ」
「そうよ、あまり気にしない方が良いわ」
「あたしは慣れてるのです」
「そりゃあさつきはそうでしょうね」
悠、芽依、牡丹、さつきの四人だ。
悠や芽依は入学したてで分かっていないが、実は牡丹はかなり有名人だったりする。
容姿端麗、成績優秀。さらに運動神経もいいとなれば、噂にならない筈がない。しかも男っ気のない雰囲気から、男子から玉砕覚悟の告白を週に一度は受けていると聞けば、有名にならない訳がない。
さつきは当然、売れっ子実力派女優という肩書があるため有名だ。もう一つの要因として、牡丹の親友というのがある。
「ところで芽依さん」
「は、はい!」
「随分と悠と中が良いみたいね。まるでカップルみたい」
「か、カップル⁉」
「そうでしょう? そんなにくっ付いていたら」
今、芽依は悠のすぐそばを歩いている。歩くたびに肩が少しぶつかる。それを見た牡丹が芽依を茶化すと、すぐさま悠のそばから離れた。
「あら、まだ近くに居てもいいのよ?」
「い、いえ……大丈夫です」
「あらあらまあまあ、悠が嫌いなのね? だから近くにいたくないのでしょう?」
「ち、ちがっ……!」
今度は悠に近付いた。仲が良いというアピールだ。
「まあ、そんなに悠に近付いちゃって。ラブラブね」
「……っ」
「牡丹、いい加減にしろよ……ごめんな芽依。牡丹はこんな奴なんだ」
離れても近付いても揶揄われ、顔を真っ赤にする芽依を見て、流石にやりすぎだと牡丹を睨む悠。
しかし牡丹は怯むことなく追撃を開始した。
「私から庇って見せることで好感度を稼いでいるのね」
「違うよ⁉」
「まるでそう。『お前は何があっても俺が守ってやる』とでも言っているかのように」
「デジャヴを感じる」
「まるでプロポーズね?」
「なぁ、女子ってそんなに超訳が好きなの?」
一日で二回も同じ様なツッコミをするとは思っていなかった悠。ツッコむ気力すらなくなってきたらしい。
「とまあ冗談はここまでにしておきましょうか」
「最初からやめて欲しかった」
「芽依さん、あなたは敵ね。さつきの」
「如月先輩の⁉」
「あたしのです⁉ 今まで空気演じてたのに巻き込まれたのです⁉」
「? なんで私が如月先輩の敵になるんですか?」
「あら……わかっていないのね。さつきと同じで」
「一体何のことなのです⁉」
「今日……と言っても昼休み後からなのだけど、クラス中その話題で持ちきりだったわよ? 特に女子。気付かなかったのかしら」
「気付いてないのです!」
「あー、こっちも女子がうるさかったな」
牡丹が言っていることを想像できる。悠のクラスの女子もうるさかったからだ。
「似ているのね。流石ライバル、と言ったところかしら」
「だから何のライバルなのです⁉」
「私もよくわからないので教えてください」
「そうね……一つのものを取り合う関係、かしら」
「「?」」
よくわかっていないのか、芽依とさつきは頭に『?』を浮かべた。牡丹の今の発言を理解できるのは、悠と芽依のクラスメイトや牡丹とさつきのクラスメイトだけだろう。
「ところで芽依さんはうちに来る予定とか、あるのかしら?」
意味深げに悠をちらりと見ながら芽依に尋ねる。
「い、今のところはないです」
「そう、〝今のところは〟ないのね」
「あっ、いや! そういう意味じゃなくて!」
「じゃあ、どういう意味なのかしら?」
「え、えっと……」
「芽依さんさえよければ、いつでも来ていいのよ?」
「は、はいっ」
少し上ずった声で返事をする。
「やったわね、悠」
「何故俺に振る」
それからは他愛もない話をしつつ、芽依とさつきが利用している駅まで到着した。
そこで二人と別れた悠と牡丹は、横に並んで家路につく。
「なぁ、さっきの話なんだけど」
「悠がクラス中の女子を狙っている、という話かしら?」
「一度もそんな話してないんですがそれは」
「冗談よ。それで? 一体何の話なの?」
「芽依と如月先輩が敵同士だって話」
「あぁ、あれ。あれはかなり話を盛っていたわ。さつきが昼休み後からクラスで話題になっていたのは事実だけれど、それが悠のことで、私と楽しそうに話していたから話題になっていただけなの。誰もあんな姿見たことないからって」
悠と芽依のクラスは、あからさまな芽依の態度に対する騒ぎだったが、牡丹とさつきのクラスは、今まで見たこともないさつきの姿に関する騒ぎだった、ということだ。だから敵同士というのが嘘なのだろう。
「悠、どうしたの?」
「何が?」
「なんか悠が嬉しそうに見えるわ。楽しそう、という言葉にも当てはまりそうな、そんな表情」
「そう?」
全く気付いていないが、確かに悠は芽依といた時かそれ以上に楽しそうだった。本人は無自覚らしいが、廉人や悠をよく知る人物が見たら一目でわかるだろう。
「そんなに今日が楽しかったのかしら」
「そうだな、楽しかった。あと如月先輩に会えたのも要因だな」
「あら、悠はさつきに一目惚れしてしまったの?」
「誰も惚れたとは言っていないのだが」
「悠はロリコンさんだったのね」
「話聞いてます?」
「……もし、さつきが悠に告白したら、悠はどうするの?」
「え?」
ふと悠は考える。もし、万が一にもさつきが自分に告白して来たら、果たして自分はどうするのだろうか。受けるのか、受けないのか。
そして、一つの結論に至った。
「まず、如月先輩が俺なんかに告白するわけがない」
「それはわからないじゃない」
「そうだとしても、実際に起きてみないとわからない」
普通の女子からの告白などとは比べ物にならないほどの注目度を稼ぐことになるであろうさつきの告白。
それはその状況になってみないと想像もできなかった。
隠れて付き合うにしても、牡丹や彩芽に隠しておくことはできないし、デートをするにも変装したり遠くへ行かないといけなかったりと大変そうだ。さらにさつきのスケジュールなども併せて考えると会える時間が少なそうだ。
これらすべてを吟味して、悠は結論を出す。
「じゃあ、もし芽依さんに告白されたら?」
「付き合うんじゃないか?」
「……そう」
話した時間は少ないが、芽依といてつまらないことはないし、芽依と付き合うことで変に注目を集めたり誰かに恨まれたり、デメリットがあるわけじゃない。逆に芽依のような可愛い女の子と付き合えてるということでメリットが生じるだろう。
異性と付き合うことを、メリットデメリットで考えるわけではないが、芽依と付き合うことで楽しく充実した生活を送れることは間違いない。
だから、悠は恐らく芽依に告白されたら受けるだろう。
「でも、そんなありえないことは想像しても意味ないと思うぞ?」
「取らぬ狸の皮算用、ね」
実際、悠が芽依やさつきに告白されるかはわからない。されるかもしれないし、されないかもしれない。
「一つ、悠に聞いておきたいことがあるのだけれど」
「ん?」
「悠の部屋にあるラノベ。どうして、ほとんどが義妹がメインヒロインなのが多いのかしら?」
「……」
「まさかとは思うけれど、彩芽を狙っていたりとかは、しないわよね?」
笑顔で問いかける牡丹の迫力に、悠は怯む。表情的には笑っているはずなのに、薄っすらと開いている目が、目の奥が笑っていない。
「あ、当たり前だろ。俺にとって義妹とは手を出してはいけない神聖な存在なんだ」
「それはそれで気持ち悪いわね」
「をい。わかってはいるけど、本人の前で言うなよ。かなりショックだったぞ」
「あらごめんなさい」
「絶対わざとだろ」
「さあ、どうかしらね?」
いいように手の平で弄ばれている悠だったが、不満をぶつける前に家についてしまった。
「ただいま」
「あ、お帰りお姉ちゃん」
「ただいま」
「おかえり」
「少しくらい愛想良くしてくれてもいいんだぞ」
姉である牡丹には満面の笑みで答える癖に、悠が言うと途端に表情が抜け落ちほぼ無表情の無抑揚で返される。それに対して悠が文句を言うが、聞く耳を持たず返事をせずにリビングへと向かってしまった。
「あんなのでも、悠は神聖な存在だと思うのかしら」
「当たり前だろ。義妹は正義」
「やっぱりきもち──」
「だから言うなって⁉」




