十話
午後は新入生歓迎会という催しがあり、終わり次第教室に戻りSHRをやったのちに下校となった。
「まずは交際作戦ファースト。二人を二人だけで下校させる。皆……ミッション・スタート!」
「「「「「ラジャー!」」」」」
悠と芽依の知らぬところで、クラスの女子たちによるシークレットミッションが決行されていた。
「あ、一緒に帰ろ?」
「あ、芽依ちゃんごめん。ちょっとこの後先輩の所に行かないといけないんだ」
「そっか、ごめんね」
「ううん」
「ねぇ、一緒に帰ろ?」
「ごめんね芽依。今日はちょっと用事があって早く帰らないといけないんだ」
「そうなの? じゃあ急がなくちゃね」
「ごめんねぇ~」
「大丈夫だよ~また明日!」
「じゃあね!」
交際作戦ファースト第一ミッション・芽依を一人で帰らせるようにすること。
「さて、帰るか……」
「あれ、橘樹君一人?」
「そうだけど」
「ぷっ……あ、ごめん」
「おい今笑っただろ⁉」
「え、笑ってないよ~」
「今も笑い堪えてるの丸分かりだからな」
「あ、そう? じゃあ遠慮なく笑わせてもらうね」
「笑うなよ⁉」
交際作戦ファースト第二ミッション・悠が一人で帰るつもりだと言うことを芽依にそれとなく知らせること。
「いい……いいよ! 順調だよ!」
「何が順調なんだ?」
「皇は黙ってて!」
「ついに呼び捨て⁉」
「あ、そうだ。皇は橘樹君と帰らないでね」
「何故俺は呼び捨てで悠だけ君付け……」
「皇帝君、わかった?」
「その呼び方やめろぉ!」
興味本位で事情を聞いただけなのになぜかメンタルを傷つけられた帝に、男子が同情した。そして反面教師として感謝の念を抱いた。
「あ、悠君は一人?」
「そうだけどとても否定したい言い方だなおい」
「あははごめん。ね、一緒に帰らない? 皆用事があって一緒に帰られなくなっちゃったの」
「まあ、いいけど」
「ありがとっ!」
帝と女子生徒がじゃれついている間に、悠と芽依の間に進展があった。
「よし、計画通りっ!」
その言葉に女子全員が歓喜した。当然悠と芽依の二人には気づかれないように。
二人は仲良さげに玄関へと向かっていく。その後を密かに着いて行く影が多数。全員恋に飢えた女子だ。
「まさか二日連続で悠君と帰ることになるなんて……」
「悪かったな」
「あっ、いやっ! そういうことじゃなくてっ!」
「……ぷっ」
「あ! 揶揄ったでしょ!」
「悪い悪い……まぁ芽依がそんなことを言う女の子じゃないって言うことは、たった二日だけど話してみてわかってるから」
「もう……ばか」
……後をつけていた女子たちが砂糖を吐き出した。
「悠君と帰るの、嫌いじゃないんだよ?」
「そうなのか?」
「うん。なんかね、悠君と居ると楽しいの」
「楽しい? あんまり話してなくね?」
「何て言えばいいのかな。悠君と居るだけで、それだけでいいの」
「そうなんだ。芽依がそう思ってるなら、いつでも一緒にいてやるぞ?」
「ほんとっ⁉」
「ああ、悩みとかも……解決できるかはわからないが、話を聞くくらいはできる」
「じゃあその時はお願いしようかな」
「わかった」
……女子に続き周囲の生徒も砂糖を吐き出した。
「くっ……今の台詞プロポーズじゃない⁉」
「あの二人は気付いていなさそう……」
「見てよ芽依のあの嬉しそうな表情……あれは恋する乙女の顔よ」
「でもあの二人だからきっと……」
「前途多難ね。私たちも、芽依も」
「「「「「うん」」」」」
そうこうしているうちに、玄関に到着した。そこには既に人だかりができていた。
一瞬下校する生徒かと思った悠だが、誰も靴を履き替えない所から、どうやら違うらしい。という答えを導いた。
集まっているのは一年の生徒。男女比は男子の方が多い程度。それでも大勢いることには変わりなく、ほぼ廊下を埋め尽くしていた。
「どうしたんだろうね?」
「さあ?」
顔を合わせ、鏡のように息ピッタリな動きで首を傾げる悠と芽依。
「あ、悠!」
その人混みの中から、良く知った声が聞こえてきた。
すると人垣はまるでモーセのように二つに分かれ、声の主と悠との間に一本の道ができた。
「遅かったじゃない。……あぁ、そういうことなのね?」
「違うぞ」
できた道を通って悠と芽依の前に現れたのは、牡丹とさつきだった。
牡丹は悠に文句を言いつつ、芽依の方を見て、全てを察したかのように納得した。
「あなたが芽依さん?」
「は、はい!」
「へぇ、あなたが……」
「あの……?」
舐め回すように芽依を凝視する牡丹。これが女子じゃなく男子だったら……想像するのも憚れるほどの反感を買うだろう。
「さつき、どう思う?」
「よくわからないのです」
「そうね……それじゃあ悠。一緒に帰りましょう」
「何が『それじゃあ』なのか分からないのだが……まぁいいや。芽依はどうする?」
「私? う~ん、一緒に帰って迷惑じゃないかな?」
「大丈夫だろ」
「ええ、大丈夫よ」
牡丹からの了承を得られたので、芽依は悠達と一緒に帰ることになった。
そして靴を履き替えるために一度別れる。学年別に玄関の場所が違うわけではないので、たった数分離れるだけだ。
靴箱から靴を取り出し、上履きを戻している時。芽依が悠に話しかけた。
「ねぇ悠君。如月先輩がいたのによく驚かなかったね?」
「お昼に会ってたし」
「あ、じゃあお昼は如月先輩と食べたんだ。二人で?」
「いいや、牡丹も一緒」
「牡丹って……隣にいた先輩だよね? もう呼び捨てで呼んでるんだ」
「何か勘違いしてるかもしれないが、牡丹は俺の義姉だぞ」
「義姉?」
「少し前に俺の父さんと牡丹の母さんが婚約したらしい」
「へぇ~」
「もう一人女子がいてだな。その子が滅茶苦茶可愛いんだ」
「牡丹先輩も美人だと思うけど?」
「牡丹の比じゃないくらいに可愛い」
「そんなに?」
「そんなに」
「じゃあ……私と、どっちの方が可愛いと思う?」
「? 芽依じゃね?」
「っ……ど、どうして? どうして、そう思うの?」
「何て説明すればいいのかわからないけど、俺は本当に芽依が可愛いと思ってるし、義妹の方は確かに可愛いんだけど、あんまり話してないから、よく話してる芽依の方が可愛く思うのかも」
「そうなんだ……っ」
第一、悠の目は〝義妹〟であることを含めて見てしまうので、美化フィルターがこれでもかと掛かっている。なので本当に彩芽が可愛いのかは、悠には今現在分かっていないのだ。
実際、彩芽は牡丹が見ても可愛い思う程に整った顔立ちをしているのだが。
「あら、いつの間に異世界に入り込んだのかしら」
悠達の遅さに痺れを切らしたのか、牡丹が茶化す。
それに芽依は顔を真っ赤に染め、悠は全力で抗議した。
結果、それらは全て水に流され、校門を出た。




