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迷宮都市で君とワルツを 〜冒険のち祝杯と喝采ところにより恋心〜

作者: 大場鳩太郎

僕ことアドルフ・スターリングがと出会ったのは冒険者ギルド公舎の待合所だ。

手続きの順番待ちをしている間、何となく言葉を交わすことになった。


同年代なせいか話が弾んだ。


お互いに「ダンジョンで大いに稼ぎ、名声を欲しいままにしたい」という目的が一致していたのでクランを組もうという話になった。


「どんなクラン名が良い?」


「名前? 僕はどんなのでも構わないけど」


まだ組んだわけでもないのに気の早い奴だと思った。


「じゃあ次会うまでに候補を考えておくよ」


「任せるよ」


これから僕は教練所で、彼は学院で半年を過ごす。それぞれ剣と魔術を学ぶ為だ。


それが終れば晴れて冒険者になれる予定だった。


「じゃあ半年後、またここで」


「その時は君は剣士で、僕は魔術師だね」


たわいない口約束だった。

互いに名乗るのも忘れていた程度の間柄でしかなかった。


ただそれでも何となくだが、半年後に彼とクランを組むような予感があったのを、結局、剣士にはなれなかった今でも何故か鮮明に覚えている。



「残念ながら君は冒険者に向いていません」


カエルに似たギルド職員がそう言った。


剣士になりたくて、けれどもなれなくて、ギルドで適性検査を受けた結果、そんな言葉を投げつけられてしまった。


どの職業が向いているのか。どの系統のスキルが得やすいのかを調べてもらえる試験のはずだった。


だがどれも軒並みE判定。

戦士、魔術師、盗賊、僧侶、基本の四職と呼ばれているどれにも属さず絶望的に向いてないと言われた。


「才能がない……という事だろうか?」


「端的に言ってしまうとね。数ヶ月学んでも剣撃系スキルをひとつも習得できなかったのは君が初めてです」


「だがもう少し時間を貰えれば……或いは他の職業なら」


「落ち着いて聞いて欲しいのですが、君は妖精眼持ちという診断でした」


「妖精眼……?」


「厄介な病気です。罹患すると魔力も経験もみんな目に吸い上げちまってからっきしになります」


「からっきし?」


「平たく言えば、スキルも呪文も身に付かないって体質って事ですね。唯一の例外は視力系スキルだがさほど役に立つものではありません」


「だがそれでも僕は」


「まあ冒険者をやるやらないは君の自由です。ただ忠告はしましたからね。後悔しても自己責任ですよ」


「……」


「さて説明は以上だけど何か他に質問はありますか?」


カエル似のギルド職員はそう締めくくると、なければさっさと帰ってくれと告げてきた。



僕なりに努力を続けてはみた。

それこそ手の豆が擦り切れるまで血反吐をはくまで剣を振り続けた。


だが望むような成果は得られないまま時間だけが過ぎていく。

スタートラインにすら立っていないのに理想と現実が乖離していくことへの焦燥感に心が黒く塗りつぶされそうだった。


そしてただ無意味に時間だけが過ぎてーー

いつの間にか半年になってしまっていた。


「……遅れてすまない」


「やあ待ちかねたよ」


果たして彼はそこにいた。

黒いローブ姿は以前のままだが、胸部に学院の所属を示す星印の標識を下げ、三角帽子を被り、短杖を携えている。


どこからどうみても立派な魔術師だ。


「浮かない顔だね。……どうしたんだい?」


「ああ……実は君に謝らなきゃならないんだ」


僕は説明した。

不甲斐なくも剣士になれなかった事。

このまま冒険者になるのは自殺行為に等しいと警告された事。

故に一緒にはクランを組めない事。


「ここを訪れたのは約束を果たすためじゃない。果たせなくなった事を謝る為だ……すまない」


「そうか……それで君はどうするの?」


「冒険者にはなれるそうなんだ。地道にソロから始めて実力を磨いていこうと思う」


「なら組もう。クランの名前は何がいい?」


「は?」


「とっておきのを十個考えてきたんだ。厳選したんだけど絞りきれないから君に選んで欲しい」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。僕は冒険者に向いてないんだぞ?」


「それはさっき聞いた」


「絶望的に向いてないんだぞ。剣撃スキルもひとつも習得できずじまいだ。そんな奴と組むメリットがどこにある?」


「けどそれは約束を違える理由にはならないよ」


「……」


彼の言っていることは間違っていなかった。だが考えが全く分からない。剣撃スキルすらひとつも使えない人間とクランを組みたがるなんて正気の沙汰ではない。


「何故……」


「うん?」


「僕をそこまで買ってくれるんだ……?」


本当に分からなかった。

メリットもない。どれだけ努力しても伸び代のない。

ただただ役立たずの僕を何故、選ぼうとするのかがまるで理解できなかった。


「他にもっと腕の立つやつが」


「まあ探せばいるかもね。でも信用できるかも分からない奴にダンジョンで背中を預けたくはない」


「……」


「君のことは何となく信用ができそうだと思ったんだ」


「信用?」


「口約束なんてバックれればいいのにこうして態々詫びにきてくれただろ?」


「……」


それは買いかぶり過ぎだ。

逃げ出すまいが約束を違えた時点で、僕は信用に足る人間じゃない。


「第一クランを組めない理由がおかしい。冒険者に向いてないからってそんなのしらばっくれれば済むだろ」


「嘘はすぐにバレる」


「だね。でも騙そうと思えばできたはずだ。そうしなかったのは僕が不利益を被るという気遣いからだろ?」


「……」


「なあこうやって再会して分かったけど、やはりぼくらは気が合いそうだ。そう思ってるのはぼくだけか?」


彼はこちらの瞳を覗き込むように囁くようにそう告げてくる。

鼻先が触れそうばくらい近づいたことに何故か心臓がどきどきと早くなった。


「教えてくれ。ぼくと組みたいかどうかを」


お互い名前すら知らない間柄だった。

顔を合わせたのだってこれで二度目で、身の上どころか、好物が何かすら知らなかった。


なのに何故か彼に十年来の友人のような気の置けなさを感じていた。ダンジョンに入っても彼となら上手くやれる予感があった。


何より嬉しかった。その彼が役に立たないかもしれない僕と仲間になろうと言ってくれた言葉に、応えたいと思った。


ここで口にすべき言葉はもうひとつしか残されていなかった。


騎士ではなく剣士ですらなく、安物のショートソードしかもっていなかったけれど、僕は唯一の剣を抜いて、膝を突いた。


「僕の名前はアドルフ・スターリングだ。不甲斐ない腕前ではあるけれどこの命を君に託し、君の剣になる事を誓おう」


「ふっ大袈裟だな。だが嫌いじゃないぞ。ぼくはミシェル・クラウン。ならばぼくはこの杖で君を導くあかりを灯そう」


それから堅い握手を交わした。

思いの外華奢な手の感触と初めて知った名前に対してのささやかな違和感を咀嚼する。


「ああ……一応最初に言っておこう。ぼくは女だ。まあだがそんなことはクランを組む上で何も問題にもならないだろ?」


彼、もとい彼女は帽子を外し、長く蓄えた髪を揺らすとはにかんでそう告げてくる。


「ふふ、ずっと男だと思ってたろ?」


「いや、その」


言葉遣いや、それに華奢な体つきのせいで勝手に男だと勘違いしていたが男だとは言っていなかった気がする。


だがよく見れば胸の辺りが薄っすらとふくらんでいなくもなく、控えめながらおっぱいもあるようだ。


フォローのつもりでそれを告げると、何故かにこやかな顔のまま殴られた。


「ところでアドルフ、冒険者になりたい目的は変わってないだろうね?」


「ああ……僕はダンジョンで大いに稼ぎ、名声を欲しいままにしたい」


「良かった。じゃあそいつを始めよう……その前にクラン名を決めようか」


これが僕と、生涯に友であり最愛のひとミッシェルの出逢いだった。



……うん?

彼女が考えたクラン名の候補はどうなったか?


それを説明するには彼女の類いまれなるネーミングセンスという不名誉を語る必要が出てくるので割愛させて頂こう。


結論だけを言えば、互いの名前から少しずつ取って付けることにした。そしてその名前ーー《煌めきの王冠スタークラウン》は今では迷宮都市にある中央広場のモニュメントに刻まれている。


勿論、それは僕らがダンジョンで大いに稼ぎ、名声を欲しいままにした結果だった。

ボツ作品の供養投稿です。

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