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下種共が流刑地にて狂い咲き  作者: 氷純
第一章 農業の邪神
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第五話 封印の扉

 エイルは街にやってきていた。

 遺跡に巣食う魔物を殲滅した際に確保した皮や牙、角などの素材を売却するのが最大の目的ではあったが、連れてきた子供たちに交渉の実地研修を行う目的もあった。

 元々が学のない子供であるため数字の読み書きすらできないパッガスの仲間の中で、比較的頭の回転が速いとされる二人を連れて、商会の門を叩く。

 対応した商人はあからさまにエイル達の足元を見ていた。


「一見さんだろう。その素材もどうやって手に入れたか知れたものではない」

「森で殺した魔物ですよ。見ての通り状態もいい。ここで買い取って頂けないのでしたら別のところへ持って行くだけです」

「面白い冗談だ。出所不明の怪しい商品を捌ける商会はそう多くない」

「出所は私たちですよ」

「……分かっていないな」


 と商人は今まで取り繕っていた丁寧な言葉使いすら放棄して、エイル達を馬鹿にしたように鼻で笑う。


「出所不明だと言ってる。これは優しさだ。その気になれば、我々はその素材が盗まれたものだと届け出ることもできるんだ。はした金でも貰えるうちにもらったらどうだ?」


 治安維持を行うはずのリニューカント執政軍が組織腐敗を起こしているのを良い事に、盗難をでっち上げて掠め取るつもりらしい。

 顔を強張らせる子供達とは対照的に、エイルは笑みを浮かべた。


「分かっていないのはどちらですか?」

「なに?」

「これらの素材の出所は私たちです。この魔物を仕留めたのは私です。お分かりですか? リニューカント執政軍の威を借りるあなた方とは違い、こちらは最初から武力を保持しています」

「それがどうした。たった三人で武力とは、笑えばいいのか?」


 肩を竦める商人に、エイルは首を横に振る。そんな仕草ですら色気を振りまく結果となり、商人の後ろに控えていた護衛が思わず気を取られる。

 直後、魔物の素材がゴーレムの腕に持ち上げられた。

 護衛が目を剥いて武器を抜こうとする。魔法発動の予兆が一切つかめなかった事に肝をつぶしているのが表情から見て取れた。

 商人も顔を強張らせている。


「高位土魔法使いか……」

「私はパッガス様に従っています。リニューカント執政軍が来たとして、全力で殺しあえばどうなるでしょうか? 私が敗北し負けたとしても、人的損害は誰が補填しますか?」


 当然、リニューカント執政軍ないしは本国政府となるはずだが、ここはエルナダ大陸。腐敗したリニューカント執政軍が人的損害を誇張して商人に不利益な契約などを押し付ける事態が十分に考えられる。

 商人が未来を予想して苦々しい表情でエイルを見る。対して、エイルは頬に片手を当てて微笑みかけた。


「仲良くしましょう。私たちは不定期ではありますが、魔物の討伐で素材が確保できます。同時に、食料品や生活雑貨などが不足しがちですから、良好な関係を築ける対等な取引相手を探しています」


 高位土魔法使いとの繋がりは治安の悪いエルナダ大陸で有利に働くのは間違いない。

 商人はため息をついて営業用の笑みを見せた。


「では、取引価格を提示してください」


 丁寧な口調に戻したことから、エイル達を対等な取引相手と見做したのだと分かる。

 エイルは素材一つ一つに相場の二割増しの価格を提示した。

 商人は引きつった笑みを浮かべる。


「今後の取引に期待して、今回はそのお値段で買い取りましょう」

「ありがとうございます。今後とも仲良くしたいですね」

「えぇ、本当に」


 エイルと握手する商人を護衛の男が羨ましそうに眺めていた。





(子供たちの実地研修としては及第点ですね)


 結果的には武力をチラつかせて押し通した形となってしまい、子供たちが応用できる経験とはならなかった。だが、ああいった手合いも治安の悪いエルナダ大陸には大勢いるため、経験できたこと自体は悪くない。

 流石はエルナダ大陸生まれといった所か、子供達には怯えた様子もない。


「今日のところは帰りましょう。尾行に注意してください」

「分かりました」

「警戒するのは得意」


 子供達がやや壁よりに移動し、周囲を警戒する。

 街の外にある地下道の入り口へ向かって、子供たちが土地勘のある裏路地を縫うように進む。

 エイルはふと人の気配を感じて足を止めた。子供達も同時に足を止め、路地の奥を警戒したように見つめている。


「……子供?」


 路地の奥で膝を抱えているのは金髪の少女だった。

 エイルは子供達を見る。


「知っている子かしら?」

「いえ、知りません。この街の連中は皆パッガスがまとめていたから、自分たちが出ていった後に来たのかも」

「では連れて帰りましょう。ここに居ても大人の食い物にされるだけです」

「村に余裕はないですけど、見捨てたらパッガスに怒られるでしょうしね」


 子供たちと意見が一致し、エイルは金髪の少女に歩み寄る。

 年齢は十四歳くらいだろうか。金髪碧眼に白い肌といった特徴を見ると流刑民か自由移民の子供にも見えるが、着ている服はエルナダ先住民のそれだ。

 どうにもちぐはぐに見えるが、エルナダ先住民と流刑民の間で子供ができることもなくはない。


「こんにちは。行くところがないなら私たちの村に住まない?」


 声を掛けると、少女はエイルを警戒したように見上げた。整った顔立ちだが、どちらかと言えば先住民よりに見えた。


「使命があるから、お断りします」

「あら、話せるのね」


 先住民の言葉が返ってきた場合は、子供たちに任せようと考えていたエイルは手間が省けた事を喜びつつ少女の隣に座る。


「使命というのは何かしら?」

「邪神の再封印。遺跡にいかないといけない」

「でも森の魔物が強すぎて遺跡に行けないって所かしら?」


 図星だったのか、少女は口を閉ざして俯いた。

 封印と聞いてエイルが思い出すのは遺跡の奥にある地下への扉だ。エルナダ先住民の物と思われる封印魔法が施されており、開く事が出来ず困っていた。


「私たちは遺跡に住んでるの。あなたの目的の遺跡かは分からないけれど、確かめるために来てみない?」


 エイルの言葉に、少女は驚いたように顔を上げる。


「本当?」

「一緒に来れば分かる事よ」


 少女は少しの間考えたが、やがて決心したように立ち上がった。





 遺跡に帰ってきたエイルは素材売却の報告と共に少女を保護した旨を村長であるパッガスに伝える。

 パッガスは話を聞くと開口一番にエイルを褒めた。


「よくやった。孤児は絶対見捨てちゃだめだ。この村の存在意義の根幹にかかわるからな」


 と、そこまで褒めたパッガスはエイルの浮かべる恍惚とした表情に気付いて頬をひきつらせた。

 エイルはご機嫌で保護した少女をパッガスに紹介する。


「名前はレフゥ。名前の響きからわかる通りエルナダ先住民の出身ですが、祖父が移民だったようです。言葉はエルナダ語も本国語も話せるそうですが、文字の読み書きは出来ません。使命があるとの事ですので、詳しい話は本人から」


 エイルに促されて、金髪の少女レフゥが一歩前に出る。


「私の名前はレフゥ。キダ部族の出身。住んでいた集落は壊滅した。壊滅させたのは邪神、ラフトック」

「ラフトック?」

「そう。正確には、邪神ラフトックの精神体に乗っ取られた移民のおじさん。私はラフトックの肉体が封印されているこの遺跡でラフトックの精神体を迎え撃ち、封印したいと思う」

「おいおい、ラフトックの肉体の封印っていうのはまさか」


 パッガスが何を想像したのか気付いて、エイルは頷いた。


「はい。ここに来る前にレフゥに確認してもらいましたが、この遺跡の奥にある地下への扉、あの向こうに肉体が安置されているそうです。肉体の状態は分かりませんが、精神体が活動している以上は予断を許さない状況かと思います。迎撃の準備をした方がいいでしょうね」

「まだ畑の開墾も進んでないってのに」


 パッガスが思わずぼやく。


「新しい事を始めればその規模が大きいほど問題が山積するものです。問題を解決するほど土台は強固になりますから、一つずつ処理していきましょう。まずはこの子を含め、文字や計算の教育をしつつ邪神ラフトック襲来時の避難経路の策定と迎撃計画を立てます。パッガス様は人員の割り振りなどをよろしくお願いします」


 現状、村で唯一読み書きや計算ができるエイルはパッガスの他にも何人かの子供たちに教えている。村を維持するには絶対に必要な知識だと子供達も理解しているため意欲的に取り組んでおり、すでに自分の名前を書く事や簡単な計算はできるようになっていた。

 エイル、元教師説を唱える子供たちもいたが、本人はかたくなに公証人だと譲らない。


「最優先は畑の開墾だ。自給自足できないとどうしても足元を見られて村が立ち行かないからな」

「分かりました。後程、子供たちの教育と同時にゴーレムで畑の開墾をいたします」


 パッガスの指示を受けて、エイルは粛々と動き出すが、


(パッガス様に褒められた。邪神の封印もしたらもっと褒めてもらえるかもしれない!)


 内心は浮かれ放題だった。



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