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下種共が流刑地にて狂い咲き  作者: 氷純
第一章 農業の邪神
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第三話 異端者のレッテル

 ミチューはダックワイズ冒険隊に雇われ、物資輸送隊の一員として働いていた。


「浮遊っと」


 新品の杖で物資に軽く触れて付与魔法を発動すると、ふわりと浮きあがる。

 浮き上がった物資を杖で軽く押して馬車の荷台の上まで届け、付与魔法の効果を切った。ドスンと荷物の重さで荷台が揺れる。


「ミチューちゃんが重い荷を優先してくれるから助かるよ」


 輸送隊長がミチューの働きぶりに拍手する。


「あはは、どうもです」


 ぺこぺこ頭を下げて、別の荷物に浮遊を掛けて動かす。

 付与魔法は生き物に対して効果が薄く、物に対して作用させるのが一般的な魔法だ。

 生き物は生まれつき魔力を持ち、僅かに性質が異なっている。このため、生き物は他者の魔力に対しての抵抗力である抗魔力を持ち、付与魔法の効果が減じやすい。

 抗魔力で打ち消されにくいよう、攻撃魔法は属性を帯びさせて魔力の性質を特化させる。

 抗魔力を突破しにくい付与魔法は戦闘に向かないため、後方支援要員が覚える物という認識となっていた。

 ミチューがダックワイズ冒険隊の後方支援要員、輸送隊に配属されたのも付与魔法が得意だったからだ。

 治安の悪いエルナダ大陸では付与魔法を勉強するより自衛できる攻撃魔法を勉強するほうが一般的で、付与魔法師の人口が極端に少ない。本国でもそれほど多くはなかったが。

 しかも、ダックワイズ冒険隊は内陸部を目指して未開の地を抜け、日々魔物と戦っている。集まってくるのは自然と戦闘に特化した者ばかりで、魔法使いといえば攻撃魔法使いばかり。

 ミチューがダックワイズ冒険隊の面接に出向いた所、付与魔法を一通り使えると話して一発合格するくらい、ダックワイズ冒険隊は後方支援の人手が不足しているのだ。

 付与魔法の一つ、浮遊があるだけで重い荷物も軽々運ぶことができる。防寒や防熱の付与魔法も食品の鮮度を保ったりするのに効果がある。他にも、感覚鋭敏などの付与魔法は戦闘力が低くなりがちな輸送隊が安全に物資を運ぶのに一役買う。

 おかげで、ミチューは新人にもかかわらず給金は輸送隊長と同じだ。

 当然、新人が多額の給金を貰っていれば他の隊員は面白く思わないだろう。

 ミチューは自身の有用性を示しつつ、隊員からの視線が徐々に冷えていくのを感じて――わくわくしていた。


(やった! 前提条件はクリア!)


 ミチューは、あの学園主催のパーティーで味わった評価が一転する感覚が忘れられなかった。

 故に、あえて他の隊員の嫉妬を放置し、自らの評価を落とした上で輸送隊が魔物や盗賊から襲撃を受けた際に戦闘もこなせることを示して有用性を見せつけ、その上で打ち上げの幹事を務めて多額の給料をばら撒き、嫉妬を反転させる計画を立てたのだ。

 そう、後は襲撃を待つだけ。

 付与魔法の特質として、自らの魔力は抗魔力をすり抜けるため自身に付与魔法を行使した方が効果は大きくなる。ミチューは自身に感覚鋭敏の付与魔法を密かにかけることで、誰よりも早く敵襲を察知できるよう態勢を整えていた。

 そんな彼女の努力が実ったのは、積荷をダックワイズ冒険隊のキャンプ地に運ぶ途上だった。

 キャンプ地に控えていたはずの部隊が満身創痍の状態で撤退しているところに出くわしたのだ。

 輸送隊長が真剣な顔で撤退中の部隊を輸送隊の内側に収容し、街への反転を指示する。


「ミチュー、怪我人の手当てを頼む。出来れば何があったのかも聞いてくれ」

「はい!」


 輸送隊長に指示された通りに、重症者を馬車の荷台に運び込み、消毒薬や包帯を取り出す。

 輸送隊は怪我人に悪い影響が出ないようにゆっくりとした速度で街へと引き返し始める。すでに馬に乗った連絡員が街に待機している予備の戦力に援軍を求めに出ているが、これほどの怪我人を出した相手が追ってきていたならば、援軍到着前に戦闘は避けられないだろう。


「何があったんですか?」

「タルパジュモの群れだ」


 問いに答えた怪我人に治療を施しながら、ミチューはタルパジェモと呼ばれる魔物を思い出す。

 タルパジェモは真社会性を持つ大型犬サイズの魔物で、異常発達した耳朶と尻尾で樹上を移動しながら四肢に付いた鋭い爪で襲い掛かってくる。

 別の群れを襲う習性をもち、同じタルパジェモでも女王個体の命を巡って殺し合うほか、猿や人間なども別の群れと誤認して襲撃してくる好戦的な魔物だ。

 ダックワイズ冒険隊のキャンプ地を襲撃し、さらには撤退に追い込むほどの強さを持つとなると、襲撃してきたタルパジェモの群れはかなり大規模な可能性もある。

 治療を一通り終えて、ミチューは馬車の御者席へ身を乗り出す。

 輸送隊長が周囲を警戒しながら手綱を操っていた。


「森が静かすぎる。おそらく、追ってきてるな」

「タルパジェモの群れみたいです」

「部隊長がいないのはそう言う事か」

「おそらくは」


 タルパジェモは群れの長を狙ってくる。これは他の群れを襲撃する際、トップである女王個体を殺せば群れを丸々吸収できるからだ。

 もっとも、人間にそんな理屈は通じない。指揮官がやられたら逃げ散るに決まっている。

 タルパジェモの感覚では、逃げ散るのは指揮官がまだ残っているからだ、となってしまうのだろう。ならば殺さなくてはならない、そんな使命感に燃えていると思われる。

 突如、輸送隊の後方から笛の音が響き渡った。


「敵襲!」


 輸送隊長の一声で、ダックワイズ冒険隊の輸送隊員たちは訓練された動きで馬車を飛び下りる。馬車が路上に円を描くように並ぶさまは、天から見下ろせば芸術的ですらあっただろう。

 事前に取り決められた配置に展開するのとほぼ同時に、タルパジェモが道を挟む森の樹上に姿を見せ始める。


「数が多いな」


 輸送隊長が呟く通り、タルパジェモの数は百を超えているように見えた。

 ミチューは感覚鋭敏の付与魔法のおかげで森の奥に潜んでいるタルパジェモの気配も掴んでいる。実数は百五十を下回らないだろう。

 森の奥に潜んでいるだろう女王個体を討伐すれば大人しくなるのだが、タルパジェモの布陣する森への強行突入は自殺行為だ。


「援軍は要請してある。この場で馬車を盾に籠城するぞ。半日持ちこたえれば勝ちだ。ミチューちゃんに格好いいところ見せろよ、お前ら!」


 輸送隊長が檄を飛ばすと輸送隊員たちは苦笑気味に片手をあげて応じる。ミチューを純粋に評価しているのは同額の給金を貰っている輸送隊長だけなのだ。

 短弓や剣で武装している輸送隊はタルパジェモの動向を窺う。

 タルパジェモの側も地の利がある森から出たくはないのか、しばしにらみ合いが続いた。

 先に動いたのは、タルパジェモだった。


「うわっ何か投げてきやがった」


 タルパジェモから投げつけられた何かを、輸送隊員は上半身を傾けて躱す。

 馬車が作る円陣の中に転がってきたそれを見て、輸送隊員たちは一瞬無言となり、直後に怒気を脹れあがらせた。

 投げ込まれたのはキャンプ地の指揮を執っていた部隊長の生首だった。

 タルパジェモの側としては「貴様らの女王は死んだ」と言いたいのだろうが、仲間の生首を見せつけられて血の気の多いダックワイズ冒険隊の面々が委縮するはずもない。


「お前ら、落ち着け!」


 輸送隊長がすぐに声を張り上げて抑えたが、こちらの動揺に気付いたタルパジェモは次々にキャンプ地にいた部隊員の生首を投げてくる。


「あいつら……」


 怒気も露わにタルパジェモの群れを睨みつけるのは輸送隊員だけではなかった。

 生首の数が二十を数えた時、輸送隊長が愛用の短弓に矢を番えた。


「舐めてんじゃねぇぞ、くそ魔物が!!」


 もとより、ダックワイズ冒険隊は血の気が多く、戦いを前提とした集団である。仲間意識は強く、古馴染みであればあるほど殺された時には敵討ちを行うのが暗黙の了解だ。

 例え劣勢であろうと二十もの仲間の生首を投げ込まれてなお反撃しなければ、ダックワイズ冒険隊の中では臆病者とそしられる。そんな精神論が幅を利かせていた。

 輸送隊長の放った矢が一頭のタルパジェモを射貫く。


「敵討ちするぞ!」

「よっしゃ殺せ!」

「森ごと焼き殺せ!」

「皆殺しだ!」


 二言目には殺せと連呼しながら、輸送隊が森のタルパジェモへ強襲を仕掛けはじめた。

 出遅れたミチューは杖を片手に輸送隊の突撃を眺めて、内心ため息を吐く。


(この面子重視のノリ嫌いだなぁ)


 突撃するとしても、討ち漏らしが馬車の円陣へと突っ込んでくるのはどうにかしてもらいたい。円陣の中には重軽症者が多数いるのだ。

 三体のタルパジェモが駆け寄ってくるのを見て、ミチューは杖を構える。


「まったくもう。朧、混濁っと」


 付与魔法を並列作用させる。自身の輪郭を朧でぶれさせ、周辺の空気に透明度を下げる混濁を連続発動する事で人型の影を作りだす。

 途端にミチューの全身が陽炎のように揺らめき、突っ込んできたタルパジェモの振るった腕が空振った。

 がら空きのタルパジェモの脇腹へと、杖をフルスイングしつつ付与魔法を発動する。


「加速、切断!」


 杖の勢いが増し、同時に形状が微細に変化して切れ味が付与される。

 杖の直撃を受けたタルパジェモの脇腹に浅い切り傷が付いた。


「切断、切断、切断!」


 さらに切断の付与魔法を重ね掛けして杖を振り降ろす。タルパジェモの胴体が半ばまで断ち切れる。

 血を噴き出して倒れ込むタルパジェモを無視して、残り二体に向かって足元の石を蹴りつける。


「弾性」


 弾性力が上昇する付与魔法をかけられた石はタルパジェモの頭にぶち当たるとゴム毬のように跳ねてミチューへと帰ってくる。


「硬化に加速っと」


 返ってきた石にさらに付与魔法を重ね掛けしながら、杖を横薙ぎに振るって打つ。

 勢いよく飛んで行った石は一発目で怯んでいたタルパジェモの頭に命中し、昏倒させた。

 そうこうしている内に迫ってきていたもう一体のタルパジェモが殴り掛かってくるのを見て、ミチューは杖に硬化の付与魔法をかけつつ盾にした。

 タルパジェモの鋭い爪がミチューの杖に当たって甲高い音を立てる。

 攻撃を受け止められて一瞬タルパジェモの動きが止まった。

 硬化と加速が乗ったミチューの靴の爪先がタルパジェモの腹部を穿つ。


「浮遊」


 浮き上がったタルパジェモに付与魔法をかけて浮かせ、ミチューは杖をフルスイングした。

 衝撃で首の骨が折れて絶命したタルパジェモの死骸が森の中へと凄まじい勢いで飛んでいく。死骸は樹上から輸送隊長の隙を窺っていた別のタルパジェモに激突した。


「うわなんだ?」


 突然頭上から落下してきたタルパジェモにとどめを刺した輸送隊長がミチューを振り返った。

 ここぞとばかりに、ミチューは声を張り上げて呼びかける。


「怪我人の護衛は私がやりますので、皆さんはそのまま暴れてください」


 笑顔で輸送隊員たちにアピールする。自身の有用性を、戦闘能力を。

 ミチューは王立学園でもトップ層に位置した成績上位者だ。中退という形になったが、修めている分野の中には魔法の運用術や護身術の類も含まれている。

 輸送隊員たちが意外そうにミチューを振り返った。

 ダックワイズ冒険隊はその性質上、強いだけで評価されるのだ。


(あぁ、皆が私の評価を改め始めている。そう、そのちょっと申し訳なさそうな表情がいいの!)


 ミチューの笑顔の理由を知る者はいない。





 夜、ミチューは輸送隊の面々と共に酒場を借り切っていた。


「お疲れ様でした!」


 ミチューが杯を掲げると同時に、輸送隊の面々も盃を掲げ、飲み干す。

 援軍と合流した事で勢いに乗ったダックワイズ冒険隊に気圧されたのか、タルパジェモは森の奥へと逃げていった。

 怪我人が多いため追撃は断念して街へ引き返し、病院への搬送やダックワイズ冒険隊のトップへの報告などの雑務を終え、慰労会の運びとなったのだ。

 キャンプ地での戦闘で亡くなった部隊員たちの慰霊も兼ねたこの席の幹事はミチューである。輸送隊長が雑務に忙殺される中でミチューが企画し、通したのだ。


「いや、まさかミチューちゃんがあんなに強ぇとは思わなかったぜ」

「何頭殺したんだい?」

「えっと、大体十四頭だと思います。半分は皆さんの間をすり抜けたというより逃げ出してこっちに来たようで傷だらけでした」

「あぁ、討ち漏らした奴、後で反省会な!」

「勘弁してくださいよ、隊長」


 次々と運ばれてくる料理そっちのけでタルパジェモ戦での武勇伝や故人の思い出話に花が咲く。

 ミチューは酌をして回りながら地道に評価を上げていた。すでに、輸送隊員の中にミチューを軽んじる者はない。高い戦闘能力や普段の作業効率の上昇の他に今回の慰労会の支払いまでもしてくれるミチューの評価は天井知らずだ。


(邪険にしていた申し訳なさから奥手になっている隊員さん可愛い。態度を変えるのも今さらだからってぶっきらぼうにしてるのに言葉が優しくなってる隊員さん可愛い)


 ミチューの評価が一気に上昇したことで隊員たちは接し方が分からなくなっているらしく、ガラス細工でも扱うようにミチューに接している。それがミチューにはたまらなく楽しかった。

 そう、この瞬間のためだけに嫉妬を放置していたのだから。

 人とは違う慰労会の楽しみ方をしていると、借り切っていて開けられることが無いはずの酒場の扉が勢いよく開かれた。


「金髪の異端者がいると聞いている、全員動くな!」


 良く通る声を張り上げたのは、三角教の神官らしき壮年の男だった。

 慰労会に乱入してきた無作法な神官へ非難の視線が飛ぶが、神官が発した異端者という単語は捨て置けないものだった。


「いきなり乱入してきて、異端者呼ばわりとはどういう了見だ」


 隊員の一人が席を立ってこれ見よがしに自らの金髪を掻き上げて言い返す。

 一触即発の雰囲気だったが、神官も荒事慣れしているのか顔色一つ変えない。


「金髪の小柄な少女の異端者を探している。二週間ちょっと前から新たに加わった該当者はいるか?」


 異端者の風貌や時期を話しながら、神官は酒場を見回してミチューに目を止める。


「そこの少女は、いつから君たちと行動を共にしている?」

「え、私ですか?」


 ミチューは自分を指差して、ダックワイズ冒険隊の面接を受けた時期を思い出す。


「……二週間ちょっと前、ですね」


 しんと酒場が静まり返った。迂闊にミチューをかばってもしも異端者なら、三角教が敵に回る。エルナダ大陸における三角教は宗教的な背景を元にリニューカント執政軍とは別ルートで本国と交易も行う力のある組織だ。自由移民の中にも三角教の信奉者がいるため、潜在的な勢力も加味すれば敵に回したい相手ではない。

 タイミングも問題があった。タルパジェモ戦でミチューの評価が反転した直後だけあって、まだミチューの有用性がイメージとして固まっていないのだ。

 少なくとも、異端者を匿う集団のそしりを受けてまでミチューを保護しようとするほど有用性を強く印象付けてはいない。


「考えてみれば、ミチューほどの付与魔法使いが本国からわざわざエルナダ大陸に来るってのはおかしいよな」

「何か事情があるんだろうとは思っていたが、異端者なのか?」


 証拠がある話ではないが状況証拠はある。

 輸送隊の面々がミチューを見る。

 その視線は先ほどまでとは異なり、やや懐疑的な視線。


「おい、ミチュー」

「はい」


 輸送隊長が視線を懐疑から警戒の色へと変化させながら、問う。


「――なんでそんな不気味に笑ってるんだよ?」


 問われて、ミチューは笑みを深める。堪えきれなかったから。


(だって、評価がまた反転したんだもの)


 これを見返せたらどんなに素敵だろう。そう考えてしまったから、ミチューは笑うのを止められない。


「捕えろ!」


 神官の声を聞くまでもなく輸送隊の面々がミチューを逃がさぬように取り囲もうとする。

 しかし、ミチューの動きの方が早かった。

 そばにあったガラスコップを机に叩きつけると同時に、付与魔法を発動する。加速と弾性を付与されたガラスコップの破片は周囲に散らばり、ミチューから輸送隊の面々を遠ざけた。


「異端者ではないですけど、否定材料がないですし、捕まったら何をされるかわからないので逃げます!」


 聞く耳を持たなそうな神官へ手を振って、足元の机に浮遊をかけて浮かび上がらせる。

 てっきり机が飛んでくると警戒していた輸送隊の面々の予想に反して、ミチューは別の付与魔法を発動した。

 机の上に載っている皿やコップ、食器類に弾性付与を重ね掛けしたのだ。

 ミチューの企みに気付いた輸送隊長が隊員に指示を飛ばす。


「店の外に出ろ!」


 ミチューの目から見ても輸送隊長の指示は適切だった。致命的に遅い点を除けば。


「――跳弾舞踏会!」


 ミチューが机を蹴り飛ばす。上に載っていた食器類が四方八方に散らばる。

 食器類は壁や床、天井に衝突――直後に店中を跳ねまわった。

 弾性付与を重ね掛けされた事で材質や形状を問わず無秩序に食器類が跳ねまわる。ミチューが加速を重ね掛けした事もあり、食器類は豪速で店の中を暴れ回った。

 食器の中にはナイフや割れたガラスなども含まれているため、輸送隊の面々は手近な机を盾に壁を背にして難を逃れるしかない。

 ミチューはすぐに店の裏口から逃走を開始した。

 裏口を出てすぐに浮遊と筋力強化の付与魔法をかけて正面の家の屋根へと跳び上がり、一気に姿を眩ませる。


(異端者扱いされた。やった!)


 口元に笑みを湛え、ミチューは屋根から屋根へと飛び移る。

 ダックワイズ冒険隊だけでなく三角教までもが加わって、ミチューは込み上げる歓喜に逆らわずスキップするように屋根伝いに店から遠ざかる。


「見返したらどうなるんだろう。どうなっちゃうんだろう!」


 浮かれてばかりいても楽しいひと時はやってこない。ミチューは自らに貼られた異端者のレッテルを覆す算段を立てようと屋根から飛び降りて落ち着ける場所を探して歩き出す。

 宿に泊まるのは無理だろう。

 いっそ街の外に出た方が安全かもしれないと考えていると、ミチューの行く手に一人の男が立った。


「やぁ、ミチューさん、久しぶりですね」

「……ティター先生?」


 ミチューが訝しみながら訊ねると、ティターはにこやかに笑った。


「突然ですが、君が間違われている異端者の少女がどこにいるかを知っています。……教えましょうか?」



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