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モーニングティー
「なあ、水元。」
帰り道、後ろからふと声がした。
声の主に気づいた時、無視しなければ。
と思ってしまった。
でも止まってしまった足はなかなか動いてくれなくて。
「なあ、水元ってば!」
肩に手を置いて私を振り向かせたのは
紛れもない九条君だった。
私の想い人。
「これ、落とさなかったか?」
そういって水玉模様のハンカチを差し出した。
知らない間に落としていたことに気付かず、私は慌てて受け取り、
小さな声で
「……ありがとう。」
と言った。
「おー。今度は落とすなよー。」
そういって九条君が去っていったあと、慌てて周囲を見渡した。
「……瑞樹?瑞樹?……いないよね。」
少しの安堵に包まれた瞬間、涙が溢れてきた。
もっと話したいのに。どうしてわたしは。
瑞樹に縛られているんだろう。
行かないでください。だいすきなんです。
私の言葉は、出ることなく、胸の奥へと消えていった。