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溶けていく角砂糖
「……ただいま。」
そう言って私は自らの鳥かごへと足を踏み入れる。
明日は出れるのかな。出れたらいいな。
「……おかえり日和。」
目の前に立っていた瑞樹は、あの時のように笑っていた。
真っ黒な瞳で。
知られたと
瞬間的に悟った。
「……また約束破ったんだね。」
「っあ……」
掴まれた手首に込められてゆく力。
「痛いっ……」
だんだんと血が滲んでゆく様を、瑞樹は楽しそうに見つめていた。
「九条……だっけ?いつから日和は男好きになったんだっけ?」
「どうして」
どうして知ってるの。
「そんなの、日和のことは何でも知ってる。そんなぼくが知らないと思う?」
手首から流れた一筋の血を、瑞樹はぺろりと艶やかに舐めとった。
「……嘘つき。」
瑞樹が呟いた瞬間、瑞樹の両手は私の首へと伸びた。
「っかはっ!なっ!?」
瑞樹は私を見下ろしながら、あの瞳で見つめてくる。
「日和が嘘つきなんだもん、これくらいしないとね。」
そうやって込められてゆく力の中、遠のく意識の最後に感じたのは、首元への痛みだった。