第六ターン 成人の儀【1】
「テンチョー!」
「...店長」
「「アタシ(ワタシ)達を大人にしてください!」」
ある日の昼下がり。
イタリアを見習って店を一時的に閉じ、昼寝休憩をとる。そして優雅な一杯を堪能している時だった。
双子の大胆な発言でショックを受けて咽る。
ハーブティーが口から垂れてしまう。口元を拭きながら考える。
『大人にしてください』
可愛い女の子から言われたい台詞ランキングTOP5に入る、破壊力のある攻撃だ。つい勘違いしてしまいそうになる。
相手が娘同然の従業員でなければ喜んで勘違いしたのだが、今回はちょっと真面目に対応する。
「大人か...もしかして成人の儀?」
「「うん!」」
成人の儀。
地球でも様々な地域、人種で行われている習慣で、もちろん異世界にもある。
この世界での大人の基準は、カードを使いこなすことである。
だいだい12歳から15歳くらいの間に、己一人だけでモンスターを調教してカード化、さらに下働きなどでお金を貯めて装備やスキルを揃え、一つのユニットを編成する事が大人の証明だ。
マナとエアルは14歳だ。適正年齢であり、むしろ遅い部類に入る。ケンタの過保護ゆえに遅れた、という訳ではなく『ミゾグチ』での生活を楽しんでいた二人が後回しにしてしまったのが原因である。
それを今になって儀式を行いたい。その起因はなんだろうか、と首を捻ったケンタはマナの目元に隈があるのを発見して納得した。
最近獣王国が物騒だ。残してきた家族が心配なのだろう。もしかしたら...帰省したいのかもしれない。
「よし。じゃあ今日は閉店にして準備をしよう」
「おおー!」
「...まず閉店作業終わらす」
ケンタは双子のために優良なカードを集める。
閉店作業が終わり、三人はカウンターに集合する。
成人の儀におけるモンスターの調教は準備なしで挑むのは危険だ。
年に何人も失敗して命を落とす。
「まずは自分自身の強化だな。マナとエアル。それぞれ予算はいくらだ?」
「聞いて驚けッ。なんと...金貨二枚! すごいでしょー!!」
「...ワタシは金貨二枚と銀貨十枚」
「え? えーっ! なんでアタシよりちょっと多いの!? じゃあ追加で銀貨二十枚にする!」
「...だったらワタシは金貨一枚増やす」
「うそっ!? どこにそんなお金あったのよ! お姉ちゃんに内緒で隠してたのねッ!」
バン、とカウンターを叩いて立ち上がる。
マナの綺麗な毛が逆立っている。
「あーほれ、うるさい。マナは座りなさい。予算は金貨二枚まで。異議は認めん。それで、空きスロットはいくつだ?」
カードの登録上限数を聞く。
二人は【バインダー】を出して確認する。
「アタシはリーダーが2でスキルは...1。でもでも装備はなんと5ッ! あと編成数は2体だよ」
「...リーダーが3、スキルが2、装備は3。編成数は3体だった」
登録上限には種族によって適正がある。
人間:編成数[大] リーダー[小] 装備(自己)[中] スキル(自己)[中]
超人:編成数[中] リーダー[中] 装備(自己)[小] スキル(自己)[大]
獣人:編成数[中] リーダー[中] 装備(自己)[大] スキル(自己)[小]
魔人:編成数[小] リーダー[大] 装備(自己)[中] スキル(自己)[中]
大が3-5、中が2-3、小が1-2。
四項目の合計数が10を超えていると優秀。
マナが10、エアルが11なので二人とも才能に恵まれている。
「マナは装備ゴリ押しタイプで、エアルはバランス型か。だとするとこの辺りがおススメだ」
『ミゾグチ』の品揃えは世界一ぃいい! ケンタの自称だけど。
お客の要望、予算に合わせて提案する。
まず出したのはリーダーカード。
○『軍団指揮』☆5 編成モンスターを全強化(中)
○『メディチの加護』☆5 編成モンスターの回復速度、能力強化(中)
○『野生児』☆5 自己と編成Mの身体機能強化(中)
○『醜い美への執着』☆4 自己と編成Mの老化を緩める
○『愛すべき君』☆5 編成モンスターの忠誠度上昇量強化(中)
○『危険察知』☆5 自己と編成Mの感覚が鋭くなり危険を嗅ぎ分ける
○『リーダー解除』☆2 リーダーカードを解除できる
○『装備解除』☆2 装備カードを解除できる
○『スキル解除』☆2 スキルカードを解除できる
○『編成解除』☆2 モンスターカードを解除できる
「解除系カードはレア度こそ低いが非常に有用だ。例えばマナの場合、スキル解除を持っていないと一種類のスキルしか使えない。他のを使おうとしたら使い切るか、破棄しなくちゃいけない。スキルカードは高価だから非常にもったいない事になる」
「でもさテンチョー。アタシ、リーダーの枠が二つしかないよ? 解除で一枠使う方がもったいないじゃん」
「そこが悩みどころであり、個性が出る部分だ。信用できる仲間がいるならマナの言うとおり解除系を仲間に任せて、自分は戦闘特化にするのもアリだ。けど少人数、またはソロの場合は解除系がないと応用性に欠けて厳しい場面が増える」
「んー。アタシって馬鹿なんだよね。トラブルが起きたら足を動かし手で殴る、みたいな感じ?」
「ま、肯定するのも悪いけど、事実その通りだな。直感的、直情的な性格だ。それじゃあ解除系は抜いて、自己強化をガン乗せすると良い」
マナが選んだのは『野生児』と『危険察知』。
「...ワタシはどうしたらいい?」
「エアルはバランス型だ。それにマナが戦闘特化を選んだから支援するために補助特化にするのをおススメする」
「...うん、そうする。じゃあこれとこれ」
『リーダー解除』と『スキル解除』。
空きを一つ残しておく。
姉と違って賢い選択だった。
リーダーカードを一旦集めて次にスキルカードを出す。
○『ドーピング』☆4 形態:パッシブ 自己の身体機能強化(中)
○『火竜の息吹』☆5 形態:アクティブ 火属性の攻撃が使える 使用回数:20/20
○『強者の威圧感』☆3 形態:パッシブ 低位の魔物が近づかなくなる
○『付与魔法:初級』☆3 形態:アクティブ 付与魔法の初級五種が使える 使用回数:100/100
○『思考加速』☆4 形態:パッシブ 思考を加速し、処理速度上昇(中)
○『カード看破』☆2 形態:アクティブ 対象の【バインダー】の一ページ分を閲覧できる 使用回数:50/50
○『隠者の守り』☆4 形態:パッシブ ☆2以下の効果対象から外れる
○『魔力変換:風』☆1 形態:アクティブ 発動地点から半径十メートル以内の魔力を風属性に変換する 使用回数:1/1
○『見えざる救済の手』☆4 形態:パッシブ 指定しておいたアイテムを三種まで、キーワードによって触れずに使用できる
○『孤独至高』☆4 形態:パッシブ 編成モンスターがいない場合に限り、身体機能強化(大)
「むむ...」
「獣人はスキル枠が少ないからよく悩んで答えを出すと良い。弱点を補うなり、長所を伸ばすなり自由だ」
「決めた! 『ドーピング』にする!」
「脳筋一直線だな。エアルはどうする?」
「...ワタシは『付与魔法:初級』と『隠者の守り』『カード看破』にする」
「サポート寄りの選択だな」
カードを仕舞い、装備に移る。
「二人の得意武器ってなんだっけ?」
「アタシがデッカイ浪漫武器で、エアルは短剣だよ!」
「あいよー。じゃあこんなのはどうだ?」
○『金剛のハルバート』☆5 武器種:戦斧 属性:無 攻撃[大] 重量[大] 耐久[中]
○『破砕メイス』☆4 武器種:メイス 属性:無 攻[中] 重[中] 耐[大]
○『重鋼鉄のハンマー』☆4 武器種:槌 属性:無 攻[中] 重[大] 耐[大]
○『シルフ'sダガー』☆5 武器種:短剣 属性:風 攻[小] 重[極小] 耐[中]
○『義賊の毒短剣』☆4 武器種:短剣 特殊:毒付与 攻[極小] 重[小] 耐[中]
○『反立短剣』☆3 武器種:短剣 属性:無 攻[大] 重[大] 耐[小]
○『まどろみ鎧』☆3 防具種:一式 耐性:睡 防[中] 重[中] 耐[中]
○『淑女の嗜み』☆3 防具種:特殊 耐性;チラ見え 防[小] 重[極小] 耐[大]
○『シャテル生地衣』☆4 防具種:一式 耐性:火 防[中] 重[極小] 耐[中]
○『皮鎧』☆1 防具種:一式 耐性:無 防[小] 重[小] 耐[小]
○『貴嬢甲冑』☆3 防具種:一式 耐性:無 防[大] 重[大] 耐[中]
○『春光の乙女』☆4 防具種:一式 耐性:火・水・風 防[大] 重[中] 耐[中]
マナとエアルは凝視する。
チェックしているのは能力ではなく、記載されているイラストだ。
命を守る防具は性能で選んで欲しいのが本音だけど、それを少女に言うのは憚れる。
だからあらかじめ見た目と性能が両立したカードを選んだつもりだ。
「これ良い!」
「...かわいい」
ケンタは安心する。
センス悪いと言われていたら二日は寝込んでいた。
「マナは装備枠が多いから一式ではなく単品の方が良かったけど、最初だから我慢してくれ」
薦めた防具のほとんどが一式だ。一式装備は便利ではあるが、耐久が全て同じ扱いになるために、例えば篭手だけが集中してダメージを受けてカードの耐久がゼロになると他の部位が傷一つなくても全部壊れてしまう、という欠点がある。
単品ならそれを防げ、なおかつ選択の幅が広がる上に、一式よりも性能の高いモノが多い。
初心者は一式、玄人は単品で住み分けされている。
「よし! アタシは『金剛のハルバート』『破砕メイス』『重鋼鉄のハンマー』『貴嬢甲冑』にする!」
重量級の武器を三つに防具も重量が[大]。
スキルなどで身体強化されているから大丈夫なのだが、極端すぎる。
「...『シルフ'sダガー』『義賊の毒短剣』『春光の乙女』かな」
エアルのチョイスは無難だ。
奇を衒わない選択にケンタは安心と不満を同時に抱く。
マナほど突き抜ける必要は無いけど、もう少し冒険をした選択をして欲しかった。
「お会計お願いします!」
「...お願いします」
「えーっと。それぞれ金貨二枚だな」
「予算ジャスト! さっすがアタシたち」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶマナをしり目に、エアルが小声で聞いてくる。
「...本当はいくらなの?」
「マナが金貨6銀貨75。エアルが金貨5。従業員割引でそれぞれ金貨2枚って内訳だ」
「...お姉ちゃんズルイ。『メディチの加護』追加」
「そうなるよねー」
会計を済ませてセッティングする。
これで準備は完了。
「じゃ、魔物を調教してカード化するぞー」
「おおー!」
「...おー」
気合を入れて店を出たら、空が茜色だったので回れ右して帰宅。
「明日にしよう」
「「...」」
-マナ-
◆バインダー
→リーダーページ
◇『野生児』『危険察知』 空き:0
◇『金剛のハルバート』『破砕メイス』
『重鋼鉄のハンマー』『貴嬢甲冑』 空き:1
◇『ドーピング』 空き:0
→モンスター01 編成されていません
→モンスター02 編成されていません
◆ホルダー
→なし
-エアル-
◆バインダー
→リーダーページ
◇『メディチの加護』『リーダー解除』『スキル解除』 空き:0
◇『シルフ'sダガー』『義賊の毒短剣』『春光の乙女』 空き:0
◇『付与魔法:初級』『隠者の守り』 空き:0
→モンスター01 編成されていません
→モンスター02 編成されていません
→モンスター03 編成されていません
◆ホルダー
→『カード看破』