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第五ターン 日常【1】

「ケンタさぁーん!」


 閉店中の看板を無視して入ってきたのはピーターだった。

 わんわんと泣きながら詰め駆けて来る。


「聞いてくださいよ! 僕、フラれました! 慰めてください!」


 めんどくせ。


  ・

  ・

  ・


「で、詳しく話してみろ」


 椅子を持ち寄りカウンター越しに向き合う。

 なぜか閉店作業を終わらせた双子も面白そうな雰囲気を察知して左右からピーターを挟んで座る。


「ピーちゃん話してみ」

「...ピーさんファイト」


 双子にとってピーターは頼りない兄みたいな存在だ。

 マナがピーターの肩を軽く叩き、エアルが酒を酌む。

 茶化したような言動ではあるが心配しているのは本当だ。


「ありがとねマナちゃんエアルちゃん。それでその、話って言うのはですね。一月前ほどから女性とお付き合いしておりまして...僕としてはうまくいってたと思うんです。相性良いなーって。笑いのツボとか同じで。それにランチを一緒したり安いですけど髪飾りもプレゼントして喜んでくれたり...だけど、さっき、フラれちゃって...」

「意外だな。ピーターはイケメンだし性格も良い。優良物件なのに向こうから別れたのか」

「あ、そんな褒めないでくださいよー、えへへ」


 照れるなキモイ。

 男が「えへへ」とか言うな、気色悪い。


「理由はなんだったの? 彼女さんはピーちゃんのどこが嫌だったのかな」

「えっとね...腹黒ド畜生じゃないから、だってさ」

「「「は(え)?」」」

「どうやら僕って好青年に見えるらしくて...だけど悪魔じゃないですか! だからなのか裏では酷い事してる、みたいなイメージを勝手に持たれて...ひと月も経ったのに優しくされるばかり。『もっと虐めてよ』とか怒っちゃって」

「なんだそりゃ。てっきり仕事のせいで臭いから嫌われたのかと思ったぞ。でもまあ、ピーターは中身天使の見た目悪魔だから勘違いしても仕方ないか。だけどそれなら別れて正解だったんじゃないか」


 双子も同意見のようで、背中をさすってくれる。


「...ピーさん、元気を出し―――」

「でも彼女、巨乳だったんですよ!」

「...臭い。ピーさん臭い」

「目つきとか鋭くて、顔とか僕のドストライクで...本気だったんですよ!」


 同士であるケンタはつい頷こうとしてしまったが、マナとエアルの態度が氷点下まで下がったのを見て、ギリギリで思いとどまった。

 巨乳いいじゃん。キツい女性って最高じゃん。


「どんまいピーター。今日は飲もうじゃないか」

「うぅ。ありがどうございまず。アリスは騎士なんですよ。あ、アリスって言うのは彼女の名前です。騎士の隊長さんなんですよー。すごいですよね! それでいつも部下を厳しく指導してて、僕によく愚痴を漏らしていたんです。それを僕は笑って聞いて...うぅ、楽しかったなぁ」


 彼氏に求めるのは腹黒ドSで、本職が騎士。

 アリスは『くっ殺』願望があると、ケンタのピンク色の頭脳は答えを出す。


「あんまりじゃないですかぁ。向こうから声をかけて来て、僕は優しくしただけなのに一方的に振るなんて...もおっ!」

「ピーさん前も似たような事言われてなかった?」


 ケンタは初耳だった。


「うん。これで三度目だよ...もうホント、悪に染まっちゃうよ」


 ピーターは純粋無垢の善人なのだが、いかんせん背中と尻尾に悪魔の象徴である真っ黒な翼と尾がある。

 相手が勘違いしてしまう気持ちも分からないでもない。


「なんだ、もしかしてムカついてんのか?」

「...さすがに僕も、こう何度も続くと、その、はい。ちょっと腹が立ちます」

「だったらアイツを呼ぼう」


  ・

  ・

  ・


「聞いたぞピーター! 女に振られたんだってな、ガハハ」


 復讐屋のヴェン。

 エアルを無理やり追い出してピーターの横に座り「駆けつけ一杯!」と景気良く飲む。追い出されたエアルは慣れた様子でカウンターに入り、ケンタの隣に座る。ヴェンの性分を皆知っているので特に文句も言わず、ピーターの失恋話を説明する。


「ひっでぇ女だな。やっぱり女はダメだ。男だ、男が良いんだよ! ピーターはまだ若いからしょうがねぇけど、いずれ分かる。愛より友だ、ガハハ」

「むぅ、僕は愛が欲しかったんです」

「ガハハ、で、それで。オレを呼んだって事は復讐だな。ピーターから依頼なんて初めてじゃあねぇか。友達ボーナスで初回無料だ。でよ、どうする。殺す?」

「ダメですよ! ヴェンさん不殺でしょ」

「ガハハ! すまんな。友を傷つけた女が相手だから、ついな。じゃあ顔潰しとくか?」

「ヴェンさん! さすがに僕も怒りますよ」

「悪い悪い冗談だ。真面目な話、オレの主義は同罪での報復だ。振られたのが原因なら、そのアリスって奴には同じ恋愛関連で痛い目に合わせてやりてぇ。理想は惚れさせて手酷く振っちまう事だな。第二案としてはオレの知り合いに惚れやすくて粘着質な男がいるから、そいつを宛がって恐怖させるってのもありだな」


 ストーカーをけしかけるとか、極悪だな。

 ケンタはヴェンの仕事をよく知っているが、そんな事も出来るのかと青ざめる。

 耐性のあるケンタでこれなので同姓の双子はガクブルと慄き、ピーターは妄想力豊かにストーカーから攻められているアリスを想像してしまい、絶叫。


「第二案は却下です! ...せめて最初の方向性でお願いします」

「おう。じゃあ人選をどうすっかな。オレは女に媚びるなんざ仕事でもしたくねぇ。かといって子飼いの連中にピータークラスの顔の良い奴がいねぇんだよ...なあケンタ、お前やってみないか?」

「嫌だよ。というか俺は不細工だから」

「そんなことない! テンチョー、カッコいいよ!」

「...お姉ちゃん、その褒め方ダメ」


 お馬鹿な双子は無視して仕事の話を続ける。


「じゃあどおすっかな...もうオレにはあてがねぇぞ」

「イケメンかー。俺の知り合いにいるけど、復讐なんかに加担してくれない奴らばかりだからなー。どこかにいないかなー」

「イケメンなぁー、いねぇかなー」


 彷徨うケンタとヴェンの視線がピーターで止まる。


「復讐ってのは本人の手でやった方がいいよな」

「違いねぇな、ガハハ!」

「ええー! ちょ、ちょっと待ってください二人ともー!」


 ピーターの泣き言をスルーして復讐プランを考えていく。

 友の恨みを晴らすべく、ケンタとヴェンは思う限りの復讐案を出し合っていく。悪ノリした二人は悪魔のように笑っていた。


  ・

  ・

  ・


 そして復讐決行。

 結果は。


「...復縁しました」

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