主人公は謎だらけ
この世に才能という言葉がある限り、私は神の存在を信じる。
ーある無名人の言葉ー
魔法は万能ですが、それを使う人間は万能ではありません。
よって、完全な魔法を使える人とは……
「人間からかけ離れた何か」ということでしょう。
愚者とは
夢を見る弱者である
ー魔法の神の言葉ー
魔法で栄える国があった。
緑豊かで、目立った事件もなく。
王は人格者で国民から好かれていた。
魔法を使えない者の地位は低かったがそれは仕方あるまい。
限りなく理想的で、平和的で、牧歌的な国が、確かにそこにあった。
「と、そんな感じでしたね?」
王の前に現れた悪魔は、兵士の死体の上で意地悪そうに笑った。
王は玉座の上で、目の前の事態にただ呆然自失している。
当然のことだ。不意に現れた侵入者が、あっという間にこの城を制圧してしまったのだから。
平日の夕方に起きた出来事。紅色の夕焼けが王の部屋を不吉に染める。
部屋の中央に築かれた死体の山から、燃えるような異臭が漂い始めた。
「わざわざ殺した兵士を運んでくるのは骨が折れましたよ」
悪魔は王の顔色を見ながら、おどけた口調で言う。
「さあ、王様。見落としが無いよう、いっしょに数えましょう。誰か一人でも無事だといいですね」
王は何も答えない。
ただ椅子の上に転がっているだけ。
「おや、あまりのショックに失神してしまいましたか」
悪魔は何やら魔法を唱え、王の頭に水をぶっかける。
「駄目ですよ、ちゃんと起きていなければ。これから交渉に入るのですから」
王は苦しそうに目を開けた。鼻から水が入ったようで、むせ返る。
「起きましたね?」
王は目の前にいる悪魔の姿を見た。
そして、顔色を急に悪くして、何やらぼそぼそと連呼し始めた。
「許してくれ。許してくれ。許してくれ。許して……!!」
「面倒くさいなあ、もう。条件をのむなら許しますってば」
悪魔は呆れたように笑いを止め、両手を高く上に挙げた。
「さあ交渉に入りますか。交渉といっても、半ば恐喝ですけどね」
王は目前の恐怖に歯をガチガチと鳴らしていたが、それでも威厳を保ちたいらしい。王は震え声で尋ねた。
「要求は何だ。こんな大それた真似をした真意は何だ!?」
悪魔は答えた。
「私が欲しいのは、この国での地位です。最高の特権階級です」
悪魔は指先から業火を噴射した。
ごてごてと飾りのついたシャンデリア。きらびやかな壁。それらが一斉に燃え、瞬く間に消えていく。
「王を影で支配し、そして国の全てを手中に収められるような……。そんな地位を、私に寄越しなさい!!」
部屋は火の海と化し、死体の山も灰となっていったが、何故か王と悪魔だけはいつまでも無傷だった。
……後にこの国を支配する、“魔法の神”が誕生した瞬間である。
この作品に登場する格言は、フィクションです。