第2章 第4話 OTC "地球生物型能力変異手術"
まえの話から1ヶ月近くたってしまいました!
まぁいろいろあったったんです……
では、第4話、お楽しみください!
12月初め、寒さも厳しくなってきたEDF本部で、隊員は、大研修室に全員集合し、着席していた。
『これから、研究成果の発表をします。』
始めたのは、EDF本部研究員長のテミストだ。顎には髭をたくわえ、研究者にしてはかなり逞しい体つきをしている。
『ではまず…………』
言いかけたところで席の方から1つの手が挙がった。
『はい、どうしました?』
『この研修中に敵が攻めてきた場合はどうするのですか?』
会場がざわつく。それもそうだ。全員がこの場に集まっている以上、攻められれば対応のしようがない。
『いい質問だ。』
テミストの隣で、ヘラが口を開いた。
『その件なら心配するな。俺以外のリーダー6人がそれぞれの担当を決めて護衛をしているよ。ただ………』
言いかけたところで少しためらったが、改めて続けた。
『最悪の事態がありえないわけではない。その点は心の準備をしておいてくれ。』
全員が息を呑む。
もちろんリーダーは信用している。だが、あんなことを言われれば、嫌でも不安がこみ上げてくる。これは、誰だろうとおなじであろう。
だが、そんなことを全く気にせずテミストは喋りはじめた。
『それじゃあ、始めましょうか。』
『………………それじゃ、またあとで。健闘をいのる。まあなんも起こらねえのが1番なんだが。』
リーダー同士は通信機でお互いに通信ができる。
今話していたのは、ウルズとユーキだ。
『さてと、頑張らねぇとな♪』
『これがビットの"コア"です。人間でいう心臓ですね。それでそのコアの下の辺りに付いているのが、この黒い物体、通称"α(アルファ)パーツ"です。』
テミストの手には、密閉され、液体が入った筒状のガラスケースが。そして、その中には約10cmほどの黒いけだまのような物体が入れられていた。
『これが、今回の研究の要点です。じつはこのαパーツ、"ある条件"を満たすと、変形するんです。』
といい、テミストは、先程のものよりも大きいサイズのガラスケースを取り出した。そこにはαパーツがあったが……それは、通常の3倍もの大きさである。
『これが、その"ある条件"を満たしたαパーツです。その"ある条件"とは…………』
そのときだった。
ドガァァン!
轟音とともに、地響きが起きる。室内にざわめきが走る。が、テミストは気にせず続けた。
『……地球上の動植物のDNAを含むことです。そして、それによって……』
すると、隊員の1人が口をはさんだ。
『ちょっ、まってください!大丈夫なんですか!?』
『問題ありません。リーダーたちが護衛をしていると言ったでしょう?それとも、リーダーが信用できないんですか?』
まだざわついてはいるものの、室内は徐々に静まっていった。
『……では、続けますよ。』
『……ったく、なんでだよ……』
しかめっ面のウルズ。その前には、体長がウルズの3倍はあると思われるビットが。しかもその姿は…………
『……ゴリラか?ムキムキじゃねぇか。』
そう、その姿は明らかにゴリラである。しかも超巨大であるため、その一撃をくらえばひとたまりもないだろう。ウルズはクスリを取り出し、首筋に注入した。
『どうせやるしかね…………』
ドゴォォォッ……ズガアァァン!
言い終わらないうちに、ウルズの体は巨大な拳で殴り飛ばされ、壁に激突した。
ゴリラはあたりを見回す。が、先程ウルズが激突した壁から、新たな人影が。
…………いや、正確には"新たな"ではない。
『……ったく、あっぶねぇなぁ。クスリ射つのがもうちょい遅かったら完全に死んでたな……』
人影の主は、ウルズだ。彼は何事もなかったかのように歩いている。
いつもの相手なら、ここで驚くところ。だが、今回の敵、ゴリラは、いたって冷静だった。
─────チンパンジーの知能が高いのは有名だ。だが、一説によれば、ゴリラもそれに負けないほどの知能をもっているといわれているのだ。
そんな知能をもつ今回の敵は、すでに知っていたのだ。
人間の中には、変わった能力を持つ者もいる、と。
さらに、その凶暴さ、力強さについても、かなりのものである。
ヒョウに襲われたゴリラが、ヒョウを返り討ちにしてしまったという話もあるほどだ。
そして、そんな野生最強の類人猿に対抗するのは、182cm68kg、"自称"全生物最強のウルズだ。
クマの爪の一撃でも、巨大ゴリラに殴り飛ばされても、何事もなかったかのようにまた起き上がる。
その能力はどこからきているのか。その答えは、彼の体内にあった。
彼の体内には、研究が進められているある物質を精製する能力が備わっているのだ。
その物質の名は、"硬化蛋白質"。その名の通り、蛋白質の仲間だ。
普通の蛋白質は、プロテインという別名をもち、筋肉を、ただ"増強"する作用しか持っていない。
だが、硬化蛋白質は、それに加え、筋肉を"固く頑丈に"する作用を持っているのだ。
それならいろんな人にそれを注入すれば戦えるではないか、という疑問も当然出るだろう。
では、なぜウルズだけが硬化蛋白質を使うのか、それは、他でもないウルズ本人の、ある体質が原因である。
EDFの研究チームは、数人の人間に、この硬化蛋白質を注入し、ある実験を行った。
硬化蛋白質は、筋肉が硬化されるので、作用しすぎると当然動きづらくなる。
そこで、硬化蛋白質をどれだけ注入すれば、動きづらさを感じ始めるかという実験を行ったのだ。
すると、一般的な結果だとだいたい30~50mlくらいで動きづらさを感じ始めるのに比べ、ウルズだけは、なんと500mlの注入にも耐えるという異常な結果だったのだ。もちろん筋肉の増強、硬化はそのぶんされている。
その驚くべき結果が、ウルズの能力の原因である。
今まで読んできた感じでも、この説明でもわかるかもしれないが、この勝負、戦う前からほぼ決着は決まっているようなものだった。
と、こんな説明をしている間に、ウルズは巨大ゴリラの顔に拳をぶち込み、圧勝を勝ち取っていた。
ウルズは、拳に付いた血しぶきを拭き取りながら、通信機のスイッチをいれた。
『ザザッ、ザザッ…………ブッ、こちらユーキだが?』
『おうユーキ』
通信の相手はユーキだ。
『どうかしたの?』
『そっちの様子はどうだ?』
『特に異常はないね』
『そうか、まぁそれが1番だな』
『うん、あ、ウルズ…………』
言いかけたところで、ユーキの場所に爆音が響いた。
『大丈夫か!ユーキ!』
『うん、壁が破られただけだ。でも…………あれは……』
『どうした?』
ユーキは黙り込んだ。
すると、少ししてユーキは口を開いた。
『…………ヴァンパイアさんの……担当場所からだ……』
『なっ…………!』
これが何を意味するのか。それは、次のウルズの言葉でわかるだろう。
『ヴァンパイアさんが……やられた……?』
そう、ヴァンパイアの担当場所から敵がくる、ということは、ヴァンパイアがやられたという可能性が高い。
『いや……まさか……ヴァンパイアさんに限ってそんな……ありえないでしょ……』
ユーキの声は震えていた。
『……ユーキ…………現実ってのは残酷なんだ……しっかり受け止めるんだ。』
ユーキが相当動揺し、彼の脳がその理解を拒んでいるのは、通信機ごしでも伝わってくる。
『お前が仇を打つんだ、ユーキ。』
『……わかってる。』
彼は、昔1度大切な人を失っている。この感覚も、言ってしまえば久しぶりになるのだ。
頭をあのときのビジョンがよぎる。
『仇は……絶対にぼくが打つ……!』
もう……誰も失いたくなかった…………!
涙さえ流せぬほどの悔しさが溢れ出てくる。
だが、目だけは、決意に満ちていた。
『…………先ほど説明しましたように、あの異形のビットは、地球の動植物のコピーというわけです。そして…』
壮絶な戦いが繰り広げられる中、こちらの説明も、最重要ポイントに入るところだった。
『ザックリ言いますと、この能力を利用して開発されたのが、"地球生物型能力変異手術"、通称"OTC"です。』
前回の最後に出てきた名前だ。その内容が、いよいよ明らかになる。
『もちろん、姿かたちをそっくりそのままコピーするのでは、有効とはいい難いです。ですが、その能力のみを、しかも自由なタイミングで、変異できるとすれば、有効なのでは?私たち研究員は、そう考えました。』
ここで、テミストが注射器を取り出す。中には、AMSOの水色のものとは違い、黄緑色の薬品が入っている。
『こちらが、OTCの薬品です。私たちは、先ほど言ったようなものに改良を施しました。この注射器を射ってから一定時間のみ特殊能力を得ることができます。もちろん、必要最低限の変異は伴いますが。これが、人類の勝利への近道になってくれれば嬉しく思います。』
──────────敵の形からしておそらくカバであろう。
太い足、丸々とした体、そして大きな口の四足歩行だ。
クスリを射つユーキ。その目には、もはやいつもの冷静さはなかった。
心は悔しさに蝕まれ、まともに戦える精神状態ではなかった。
『ヴオォォォォォッッッ!』
ユーキはそのまま猛ダッシュで敵の方へ向かう。
そのまま強烈な蹴りを…………お見舞いするよりも早く、カバは、その突出した口での一撃をユーキに炸裂させた。
『ぐぉあっ……!』
うしろの壁に頭から激突したユーキの口から、声にならない声が漏れる。
だが、ユーキは今の衝撃で冷静さを取り戻したようだ。
そのとき、ウルズはアカネと連絡をとっていた。
『あいつが冷静じゃなくなるなんてな……』
『たしかに……今までよく一緒にいたけど、だいぶ前に一回見ただけで…………』
『でも……』
ウルズの口元が笑う。
『あいつなら大丈夫だろ。すぐ冷静さを取り戻すよ。なんせあいつはな、イズミさんとかも含めた今期のランキングで……』
『ランキングで……?』
『ふっ、俺に次いで2位だからな。』
なにやら"俺"の部分を強調したように聞こえたが。
『だよねっ!ユーキなら大丈夫……絶対死なない……はずだよね……』
(……あれっ?軽くスルーされたか……?)
ウルズの顔が少し引き攣った。
『フゥーーーーッ……』
一つ、深呼吸をつく。頭からの流血は少量ですんだ。
(……なんだあれは…………)
冷静さを取り戻した彼の目にうつったのは、カバの背中にある、赤い、巨大なコアのようなものだ。
すると、カバがいきなり大きく口を開いた。
(なんだぁ?……あくびか?)
すると、急に大きく開いた口に、光る球体のものが現れた。
『…………あ、あれってまさか……』
カバはその光る球体のものをユーキ目がけて飛ばしてくるのだ。
『ちょっ……うそっ……だろっ!?』
ドガアァァン!!!
地面当たった瞬間、大爆発を起こした。
『ハァ……ハァ……あぶなかった…………』
ユーキは、スレスレでよけたようだが、当たっていればどうなっていたか……
『……まぁ要するに当てられなきゃ問題ない。』
そう言うと、ユーキは自分の胸に手をあてた。
『これならどうだ。』
すると、ユーキの体が、徐々にきえていく。
そう、これが彼の能力である。
ユーキは、自分に当たる光を操作し、屈折、吸収をうまく使い分けることで、自分の姿を見えなくすることができるのだ。
『これなら狙いも定まらねえだろ。』
もちろん、触れることもできるし、攻撃もできる。だが、同時に、攻撃に当たればダメージを受けることになってしまうのだ。
ユーキが、攻撃を繰り出そうとした、そのときだった。
カバが、前足だけを大きく上にあげた。
『……なん……だ……?』
次の瞬間!
ドッ!ズゴオォォォッ……!
『なっ……ガッ……!』
カバが前足を勢いよく地面に叩きつけたのだ。
そして、とてつもない衝撃と轟音とともに、ユーキの体は吹き飛んだ。
壁にぶつかり、その場に倒れ込んだユーキの脳は、何が起こったか、まだ理解できない状況だった。
カバは、ゆっくりと、その歩を進め、ユーキの方へと近づいてくる。
(何だよ……今の……)
体が思うように動かない。
(……もしかして……衝撃……波……ってやつか……)
そう、衝撃波だ。前足を叩きつけた勢いで起こしたものだ。だが、通常なら決して不可能な芸当であるため、何らかの"手"が加えられている可能性がでてきた。
(クッソ……こんなところで……僕は……)
───────そのころ、研修室でのテミストの口から出てきたのは、全員の耳を疑う事実だった。
『実はこの手術、もうすでに数人に施しました。』
室内は静まり返った。予想もしない発言だった。
『薬ももう渡してあります。緊急事態には使用するように、といってあるんですが。』
そんなことを言われれば、当然、誰が、どんな動物の手術をうけたのかを疑問に思う。それが人間の性だ。
『では、皆さんが気になってるであろうことにお答えしましょうか。』
テミストは、髭をいじりながら言う。
急かすような雰囲気が、室内にただよう。
『では、まず一人目ですが…………』
ユーキが取り出したのは、注射器だった。
まだちゃんと動かせない手で、ようやく取り出した注射器を、ユーキは自らの首筋にあてる。
『2位を…………なめんなよ……!』
プスッ……
『一人目は…………ユーキ君です!』
薬を射ったユーキは立ち上がった。
ドッ……!
足を強く踏み込んだ。
『ウォォォォォッ!!』
その姿は、すでに変異が始まっている。
『俺は……みんなためにも……自分のためにも…………アイツのためにも……負けらんねぇんだぁぁっ!』
体中に無数についていた傷は、既にほぼなくなっている。一人称も、"僕"から"俺"に変わっている。
『──────彼の能力は、スズメバチです。』
未だ解説は続く。
『口には大アゴの代わりの鋭い牙、毒針は腕につけ、パワーも強化されています。さらに……』
これだけでもかなりのものだが、まだ、ユーキにとっては次が一番重要である。
『…………いつも温和で大人しい彼の性格を、強制的に凶暴に変えるのです。』
───────腕は、肘から手首にかけで広がり、手首のところに前向きに、ひとつの大きな毒針がついている。
冷静さは保っているものの、威圧感が増している。
元の彼のそれと比べると、圧倒的な差である。
『さぁ……来な』
カバは大きく口を開き、再び光の玉を……
だが、ユーキは見逃さない。横に回り込み、蹴りをお見舞いした。
ユーキは、後ろに下がり距離をとり、すかさずその毒針でトドメをさしにかかった。
……だが、カバはその体の見た目に似合わない、素早い動きでそれをかわした。
毒針が、拳ごとロビーの床に突き刺さってしまった。
(っ……!ヤバ……!)
そう思うのも束の間、カバは、最初と同じく突出した口での攻撃で、ユーキを吹っ飛ばした。
今度はなんとか持ちこたえ、その場に倒れ込むだけで済んだ。が、問題はそのあとだった。
カバが、前足を振り上げる。
衝撃波の体勢である。
『なっ……!くっそ……!』
だがもう遅い。気づいたときにはすでに振り下ろすところだった。
ユーキは再び壁に吹き飛ばされ、体中にとてつもない衝撃を浴びることになる。
『くっそ…………ま……だ………………ゴフッ……』
ドサッ……
血を吹いたユーキは、その場に倒れた。
ドスッ、ドスッ、ドスッ……
カバはユーキの方へ向かってくる。
だが、ユーキは起きない……
………………ユーキ……!…………ユーキ!
聞き覚えのある声がした……昔から何度も聞いたことのある、だがここで聞こえるはずのない声……
体が動かない。見ると傷だらけだ。
『ぼくは……いったい……』
あの声の主であろう少女は、少し心配そうな顔だ。
『……ユーキは……負けるの……?』
そんなわけはない!そう言おうとしたが、声が出ない…………なぜ……
『目を見ればわかるよ……まだ戦うって目だよ。一緒に戦うって約束したもんね?早く戻ってきて……』
そういうと、その少女は消えていった。
『あっ……ちょっ……!』
こういう回想だと、彼女が死んでいるみたいな風に見えるけど、まだ死んではいない。彼女の名は…………
ハッ……!
ユーキの意識は、かろうじて戻ってきた。
(なんで……あいつが……)
体のあちこちが痛む。
『お前が夢に出たせいで負けられなくなったよ……』
体中はボロボロ、もはや戦うどころか立ち上がることすらままならないはず。
『アカネ…………』
なのに、彼はゆっくりと立ち上がり、なおも敵へと向かっていく。
『絶対に…………勝ってまた……一緒に……』
それを見たカバは、少し動揺したが、大きく口をひらいた。
『くらうかよ……』
ユーキは、胸に手をあて、姿を消した。
すると、カバはその口を閉じ、前足を振り上げた。
だが、なぜかカバの動きはそこで止まる。
ドッ……!
何かの音だけが聞こえた。
カバの苦しそうな声とともに、カバの正面にユーキが現れた。そして、その腕の毒針は、しっかりカバの腹部につきささっている。
『ふぅ……終わったな……』
カバが、そのまま後ろに倒れた。白目を向いている。
『1体捕獲、っと。』
ユーキは、通信機を使って連絡をとった。相手は……
『……おう、アカネ、大丈夫か?』
アカネだ。
『うん!どしたの?』
通信機の向こうで元気な声で返事をする。ユーキは胸をなでおろした。
『いや、別に……』
『えぇー、なにそれーっ?』
こんな危機的状況でも明るいアカネ。
『まぁ……なんてゆか……お礼がしたくてな……』
『えっ?なんのぉ?』
『えと……』
(間違っても"お前が夢に出て来たから助かったから"なんて言えないよね……)
ユーキの心は複雑だった。
そういえば紹介が遅れたが、この二人、実は幼なじみである。産まれてからずっと、兄妹であるかのように仲がよかった。その絆はある事件によって1度切り離されかけるんだが……その話はまた今度。
『やっぱ……なんでもないよ……』
『?まぁいいや、じゃ、もーちょっと頑張ろーね!』
『お、おう。』
通信は切れた。
『『はぁ…………』』
それと同時にユーキが、そしてなぜかアカネも同時にため息をついた。
『なんで……僕素直になれないかなぁ……』
その目にさっきの勇ましさはなく、完全に16歳の男の子の顔である。
この様子を見ていると、ユーキはアカネのことが…………
一方アカネはというと、
『もぅ…………どーして明るくできないんだろう……ユーキに嫌われちゃう……』
先程のものではアカネにとってはまだ明るいうちに入らないらしい。
…………というかこれ、ひょっとしたら両想いか?
何やら恋愛小説みたいな展開だが……
だがもちろんこんなことしている暇はないのだ。
アカネの方で、壁が破られ、敵の登場である。
『……え?……あれは……サイ……?』
たしかに、鼻先の一本角からみても、サイだ。
『…………まずい……んじゃないか……?』
アカネが動揺するわけ、それは、サイが、アカネにとって唯一来て欲しくなかった動物だからだ。
では、それはなぜか。
サイの皮膚は、陸棲哺乳類の中でも、トップクラスの硬さである。動物の爪、牙など、容易にはね返してしまうほどだ。
そんな皮膚を、アカネの指が簡単に貫けるはずがない。
基本的に、運動はできても武術系統は苦手のアカネにとって、指で貫ける相手でないと、勝ち目は薄い。
『……どーしよ…………ユーキに来てもらうか……?』
通信機に手をかける。そして、この旨を伝えた。
『ごめん、アカネ……こっちにもいるんだ。イズネさんが……頭打って意識がない。僕はこっちに残らないと……いけないんだ……』
『……ごめん……』
そうして、通信機をきる。
『……なら…………アレしかないな……』
『……さて、これで一人目の説明は終わりです。では、みなさんお待ちかねの二人目です。』
まあだいたい予測できる人も多いんじゃないだろうか。
『アカネさんが、二人目です。』
『……さぁ!かかってこい!』
薬は射った。が、特に見た目に変化はない。
荒い鼻息とともに、サイはアカネ目がけて突進してきた。
アカネは、よけるわけでもなく、逃げるわけでもなく、ただその場に凛と立っているだけだった。
そして、猛スピードの突進を、正面で受け止めたのだ。
『……ふぅぅーーー……』
細い、長い呼吸をする。
『……彼女の能力は、見た目には変化はありません。世界一怖いもの知らずな生き物、ラーテルです。』
と、言われてもイメージがわかないだろう。
イタチ科、ネコ目に属する雑食性哺乳類である。こういう点だけでみれば、ラッコの仲間である。
『この生物の特徴は、堅牢な皮膚です。ライオンの牙も通さない硬さです。それによって、指も硬化されて貫きやすくなっています。』
『……アカネ、すまねぇ……イズネさんも…………テメェのせいだ、覚悟はできてるんだろうな……』
敵は、大きな爪や、見た目からみれば、ナマケモノである。なのに、その動きはかなりの俊敏さ。
『種類か?それともスピードだけコピーしなかっただけか?……後者だろうな。まぁどっちにせよ……』
ユーキは、薬を2つ、同時に射った。
『負けられねぇんだからな……』
『……戦って、勝って、またユーキと……』
アカネは先ほどの突進をものともせず、後ろに下がり距離をとった。
サイが再び突進してきた。もちろんそんなのはくらうはずもない。
『おぉーりゃっ!』
まるで子どものような掛け声とともに、サイの皮膚にアカネの指が見事に突き刺さった。
(よしっ!)
次の瞬間、サイが粉々に炸裂した。
『あ………………』
その顔からは、やっちまった感がにじみ出ている。
『ハァ……またやっちゃった……』
アカネはため息をついた。いまだに彼女は捕獲をしたことがないのだ。
『まぁいいや!』
だが、とてもポジティブな彼女は、こんなことではへこまないのだ。
『それよりもーすぐ会議終わりかな……』
『ウォォオォッ!!!!』
この短時間の間に彼は……
もう既にナマケモノの意識は、息はない。
それでもユーキは、執拗に毒針を突き刺している。
『テメェらのせいで……俺の仲間を……!』
ユーキの目は、怒りに支配されていた。そこに、いつもの冷静なユーキの姿はない。
『クッソオォォォッ……!』
そのとき、誰かがユーキの腕をつかんだ。
『冷静になるんだ……ユーキ……』
ヘラだ。会議は終わったようだ。
そのうしろには、既に他のリーダーたちの姿が。
……イズネとヴァンパイア以外の、だが。
『……軍長……僕のせいで……ヴァンパイアさんとイズネさんが……』
ようやく冷静さを取り戻した彼の目には、涙が溢れていた。先程までの凶暴さは完全になくなり、むしろ大人しいユーキに戻っている。
『…………よく頑張ったな、一人で2体も……』
『ほんとにすいません!』
『お前のせいじゃない。すまないな、お前にまでこんな思いさせてしまって……』
ヘラは拳を、固く、固く握りしめていた。
『あいつらなら勝てると思ったが……特にヴァンパイアは負けるはずがないと思ってたからな……』
ここでヘラがあることに気づいた。
『……ヴァンパイアの死体は……?』
たしかに、どこにも見当たらないのである。
カバに体ごと食べられた?いや、そんなことありえない。よくみると、血飛沫もユーキたちのものだけだ。
『……まぁいい、イズネを運ぼうか。ウルズ!』
『了解っす。』
『ユーキも運ぶか……アカネ!』
『『えっ…………!』』
もちろん、ヘラがあのことを知っているわけではない。
『どした?』
『い、いや、自分で歩けますよ!ほら!』
『そ、そうだよね!』
2人に、明らかな動揺が目立つ。
『そ、そうか?ならいいが……てか何をそんなに焦っているんだよ。』
『ふうーん』
ウルズにバレた。1番バレてはいけないヤツにバレてしまった。ウルズがにやにやしながら見ている。
『何があったか知らねぇけど……早く戻るぞ。』
ヘラが促してくれて助かったようだ。
『今日はゆっくり休め。じゃみんなおやすみ。』
死者、イズネ
行方不明扱い、ヴァンパイア
戦いの火ぶたは切られた………………
『……今回私出てなくない?』
はいイズミは出してません。
『一応リーダーなんだけど……』
次回は活躍させてあげるかもしれないから。
『かもって……』
まぁ出番はあるから
『ふぅん……』
楽しみに待っててね
『ま、まぁそれなら……』
じゃ、みなさんも次回をお楽しみに!