【競作/結】長い長い一日:幼い少女
キーワード:幼い少女
「んじゃ、行ってくる」
小学校6年生になって、俺は友達と一緒に、近所のお寺の墓地で、肝試しをすることになった。
全員で6人、1チーム2人で、お昼間に、それぞれがおいた物の写真を撮っていくということだ。
場所は、あらかじめ決めてあるけども、何を置いたかは秘密だ。
俺は、幼馴染の鈴木宗見と一緒に行くことになった。
ちなみに、同級生の女子だが、残念なことにクラスが違った。
「まずは1枚目…」
1枚目は、フランス人形だった。
どこから持ってきたかは分からないが、青い目をして、ブロンドで、服は全体的に白色だ。
「こんなのが、夜中動き出したらビビるだろうな」
ここから遠くの積木町というところには、本当にそんな都市伝説があると、ネットで見たことがある。
だが、ここでは、単なる人形でしかなかった。
それから5分ほどしたところに、2つ目のポイントがある。
俺らが置いたものだ。
「これで2枚目」
不思議と怖くない。
それは鈴木と一緒だからだろうか。
俺たちがおいたのは、十字架だ。
正確に言えば、ロザリオになる。
その昔、鈴木が近所の露店で買った安物ではあるが、赤色のガラス玉が交差しているところについていて、とてもきれいだった。
それから3つ目へ行っている最中に、シャンシャンと鈴の音と一緒に、声が聞こえてきた。
それは、ぼんやりと聞き覚えがあるが、間違いなく初めて聞く歌であった。
「宴は終わり、また明日。
今宵の宴はいと楽し、楽し。
我らはすでに身罷りて。
永久の宴は今日終わり、終わり。
いずれの時にぞ、また会わん」
歌が終わると、キャッキャと楽しげな声も遠くなっていった。
だが、そこに一人の少女が、墓場の空き地に立っているのを見つけた。
「河島荘司くん、鈴木宗見ちゃん、無事そうでなにより」
「えっと、どこかで会いましたっけ」
会ったことがないはずのその少女は、みかけから考えると、小学校に入っているかどうか怪しいところだ。
月明かりと懐中電灯のおかげで、はっきりと互いの姿は見える。
「本当は会っちゃいけないんだけど、今日は長老から許可をもらったから大丈夫」
そう言うと、何を言っているのか意味が分からない俺らに話した。
「私は、君たちの世界じゃ、神と呼ばれるに等しい存在。君たちがいた別の世界で、いろいろと世話になったんだ。だから、こうしてお礼を言いに来たっていうわけ」
そう言われても、俺たちが別世界にいったなんてこと、記憶の片隅にすら残っていない。
「だから、ありがと。それと、こんどはしっかりと彼女を支えてやりなよ」
少女は言いたいことを言い終わると、スゥと姿が薄れて行った。
まるで、霧のような感じだ。
数秒の間、何も考えられずに立ちすくんでいたが、きっと気の迷いか何かだろうと思い、俺たちは3つ目のところへ向かった。
3つ目は、俺の握りこぶしほどの大きさがある鈴だ。
よく見ると、水洲神社と彫られているが、一緒に1980円と言う値札も張ってあった。
お守みたいに売っているものらしい。
「これで3枚目」
「んじゃ、戻るか」
俺は鈴木に言った。
コクリと、鈴木はうなづいた。
全員集合したところで、携帯電話のカメラで撮った写真を見せあっていた。
すると、不思議なことに気づいた。
「…なあ、この子、どこの写真にも載ってないか?」
それは、2枚目と3枚目の間に出会った少女だった。
確かにあちこちであの少女がこちらをチラ見しているかのように見える。
誰かがツイッターに、その写真を心霊写真だとしてアップした。
でも、俺たちは、本当のことを知っている。
彼女はおそらく、俺たちと同じ世界に住んでいる、人じゃない仲間だと。
そして、どこか遠くで花火が上がる音がした。