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嘘吐きと自他傷癖1

8/15 開始 9/30更新

もし僕達は危険に身を乗り出さなければいけなくなってしまったら、僕は一体どう行動するのだろうか。

もし過去の自分が危険な事をし達成したとしても今の僕はそれを信じるのだろうか? 

僕は今、深山さんの前にいる。


「ひと足早い夏休みだと思ったけど…」


彼女は言った。僕自身どんな理由であれ学校に行かなくて良い日ができるというのはありがたいことだと思った。

そのことを彼女に伝えると、彼女はまた申し訳なさそうに言った。


「私は図書室が好きだから、ちょっと残念かな」

「深山さんの部屋も、結構な数の本に囲まれてると思いますけどね」


僕は今、彼女の部屋にいる。勿論彼女に誘われだ。学生の夏休みの過ごし方におけるテンプレート、

宿題を一緒にこなすというものだった。一緒にと言っても見た目の通り彼女は僕より明らかに勉強ができる、

僕から言ってしまえばこれは深山先生の個人授業みたいなものだ。


「他にわからないところとか…ある?」


僕の悩んでいるような仕草が気になったのか彼女は僕の顔を覗き込むように見てきた。長い黒髪が机に垂れ下がる。


「いえ、大丈夫ですよ」


わからないといえば僕の忘れていることについて聞きたいと言うところだけど、深山さんの性格上それには一切答えてくれないのだろう。僕の返答に納得したのか、彼女は元の位置に戻っていった。


「深山さんは…」

「何かしら?」

「殺人鬼について何か知ってそうですね」

「知ってるけど教えて欲しいの?」

「まだいいですよ、早いと思いますし」

「攻略本でも見つけたの?」

「裏技は自力で見つける派です」


嘘じゃない、僕の持ってる攻略本は攻略本と呼べるほど役に立たない、ただの嘘吐きだ。


「結構頑張るのね」

「報われない努力は大好きですよ」

「そういうところが大好きよ」


僕のノートを見て彼女の目が笑った。


「勉強は苦手って聞いてたけど…、そうでもないのね」

「一応学生ですからね、こんな見た目でも人前に勉強はできると思っているつもりです」


テストの点も成績も平均的な僕は特に上を目指そうという気持ちもないし、上を目指すには色々と足りないものがあることも自覚しているつもりだった。


「先生はなるべく外に出ないように言ってたわね」

「殺人鬼がまだいるかもしれないと言う中で外出しようとする人は少ないですよ、怖いですから」

「でも貴方は来てくれたじゃない」

「家まで迎えに来られたら出向くしか無いじゃないですか」


正直あの時は吃驚した。嘘吐きが居たせいもあるが、彼女が家に来ること自体が色々と心臓に悪いような気がするからだ。


「ごめんなさい、貴方を危険な目に合わせたくなかったの」

「そう思うなら誘わなければいいじゃないですか」

「夏休みでも会いたかったの」


自分で友だちになってくれと言った手前非常に言いづらいのだが、この人は僕と同じで。面倒臭い。


「結局のところ、僕は何も知らないんだなぁって思っちゃいますよね」

「勉強なんてできたってそこまで良いことはないわよ」

「いや、そっちじゃなくてですね」


僕の忘れていることも、これから起きるであろう事も、僕はまだ何も知らない。

彼女は僕が自虐的な考えを口にだすことを嫌がる、言ってしまえば僕の中での嫌われたいという願望が口に出てしまっているのだ。

予想通り彼女は不機嫌そうな顔をしている。


「なんでも知る必要はないと思うの」


声が冷たい、彼女は今どちらなのか?


「殺人鬼について僕は知るべきだ」


沈黙、彼女はただ僕の目を見つめていた。


「……」

「……」


帰りたい、素直にそう思った。


「貴方は殺人鬼と知り合いって言われてどう思う?」

「どうって…、少し驚いてソレで終わりですよ」

「貴方は殺人鬼と知り合いなの」

「へぇ…」

「驚かないのね」

「心のなかでは少し驚きましたよ」


嘘ではない、ただそこまで驚かなかったのにはちゃんと訳がある。

役に立たない攻略本のせいだ。

事の発端はこの勉強会の前夜、僕の部屋での出来事からだった。





* 

「なにやら苛ついているようだが?」

「人がいざネットラジオをやろうとした瞬間赤の他人が部屋に上がり込んできたらイラつきもしますよ」


あとは配信ボタンを押すだけだと言うのだからなおさらだ。


「嘘吐きはタイミングが悪いんだよ、ボクの時もそうだったし…」

「そこの被害者ぶってる人も同罪ですよ」

「ひどいなぁ」


加害者である収集癖が泣き顔でアピールしてくる、この上なくわざとらしい。むしろ泣きたいのは僕の方だ。


「まあ無事友達も出来たわけだし良いじゃないか」

「そうですね、その友達に明日誘われてるんで早く帰ってもらいませんかね」

「まあまあ落ち着き給え、今回は収集癖が有意義な情報を持ってきてくれてな」

「有意義な情報?」


怪しい事この上ない、僕が聞き返した瞬間サムズアップしながら僕の方に笑顔を振りまいてくるこの女を信用するというには僕の勇気は少し足りない。


「キミは殺人鬼と友達だったんだったね」

「そうなのかね?」

「そんなわけないじゃないですか」


もはやため息も出てこない、一体どこからそんな話が出てきたのか、僕の呆れた反応を見て二人はわざとらしくヒソヒソと話し始める。


「ほら収集癖デマだったじゃないか、これだから噂でもなんでも集めるのは止めろと言ったではないか」

「情報の真意はそこまで重要じゃないんだよ嘘吐き、大事なのはその情報がそこにあったと言う事実が…」

「おい二人」

「なんだね?」

「なんですか?」

「わざわざ噂の確認をするためだけに部屋に上がり込んだんですか?無断で?」

「まあ…」

「そういう事になるな」

「帰ってください」


そもそも一体そんな噂がどこから流れたのか、もはや考えるのも馬鹿らしかった。


「まあ火のないところに煙は立たぬと言うじゃないか、多少の心当たりはないのかね?」

「今回はしつこいですね、無いものは無いですよ、だからそんな期待を込めた目で僕を見ないでください」


そんな少年の様な瞳で見られても期待してるようなものは僕の口から出てこない、それは嘘吐きにだってわかってるはずだ、僕が嘘を吐こうとしないということを。

「ボクはまあキミが本当に殺人鬼と知り合いと思ってるつもりもないけどね、と言うよりは本当に最近まで殺人鬼について本当に知らなかったみたいだし」

そう、僕は殺人鬼、この街に現れた切り裂きジャックを昨日まで知らなかったのだ。


切り裂きジャックとはまたありきたりな名前を名乗るものだ、話を聞いての最初の感想がこんなものなのだから、いかに僕が興味のない話にはまったく触れない人間かと言うことがよくわかる。


切り裂きジャックと言う人物は去年頃から出没していた殺人鬼らしく所謂自己顕示欲が強い人物とされ、本人が殺人を行ったであろう場所には必ず本人の名前、つまりは切り裂きジャックと書かれた名刺サイズのカードを置いていくという非常に危険な人物らしい。


その殺人鬼は最近までまったく現れなかったがどういうわけか今年の夏、再び切り裂きジャックのものと思われる犯行が見つかった。

そのおかげと言ってはあれだけども、生徒の安全の為と言う名目で一足早い夏休みになったと言うわけだ。


「不思議だよねぇ、興味無いって言ってもまったく知らなかったなんて」

「最近の若いのは大体こうらしいぞ」

「嘘吐きって年寄りアピールしますけどそこまでじゃないですよね?」

「フフフ……」

「なんで嘘吐きなのに誤魔化すの下手なんですか……」


 二人は満足したらしく、窓から消えていった。ここが2階だという事も、窓の鍵は閉めていた筈だと言う事も突っ込む気力はなかった。つけていたパソコンの電源を落とす。そして僕自身もベッドへと落ちていった。

これが昨晩の話。




「出てきちゃったんだよ深山さん」

「……ごめんなさい、よくわからないわ」

「あの胡散臭い男の口から「殺人鬼」っていう単語がさ、なら……」

「少なくとも関係はしてると言うところは疑わないのね」

「口には出したくないけど……」

「私は……」

「深山さん」

「守ってあげる、例え殺人鬼が貴方を狙っているのだとしても」

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